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第十伍節「決着」

「幕は閉じるんだよぉ!!」

急襲するイクス。その攻撃を白銀は反転起動によってかわそうと試みる。一時的に脚部の推進を高め。上体を反らし足りない時間をイクスの加速力で埋める。巻き上げられた風圧でくるんと180度の垂直回転で際どくも直撃を躱す。けれどその風圧によって完全に機体の制御を失い。不規則に吹き飛ばされながらも結果、致命傷だけは避けた。直撃はなくとも相当のG衝撃を受けて相当消耗してしまった白銀。いよいよ追い込まれる。

「がぁあああああ!!ファックファックファッック!!なんなんだよお、もう!!」

「取り乱すなイクス、いまのでも相当無茶をしたようだ。奴にもうさっきまでの動きはできまい」

イプシロンの言葉で暴れ狂う自我を抑えこみ乱れた呼吸を整える。

「さて、散々手こずらされたが妙技も尽きた頃だ。消えてもらおう」

「そうだね、エンディングは近いようだ。でもぼくたちのじゃない君たちのね」

「ジョークセンスがないな」

「それは残念、でもジョークじゃないんだよ」

そこでようやく彼らは自分たちに近づく新たな機影に気がついた。

「待ってたよ。君は僕の期待通りの素材だったみたいだ。嬉しいよ」

「勝手なこと言わないでくれ。いまはそこまで寛容になれない」

「なるほど、君がすこしずつ見えてきた」

「機体も中身も平気なはずは」

「うちのクルーは優秀だ。仮にも大企業、この産業を支えているんだよ」

敵に目もくれず白銀を見つめる燐。

「だいぶつらそうだね。けど今度は僕を信じてもらおうか。時間は掛けさせないよ」

「死にぞこないとへろへろがそろったとこで、多少の疲弊があるとはいえ我々とは比べるまでもない」

「さっきの話なんだけど碁ってどんなゲームか知ってるかな?」

ビシリと指を付きつ毛津。

「まったくおまえの思考は、なんだというのだ貴様は」

「碁はね石を置いて領土を奪い合うゲームなんだけど。そこから日本では『布石』って言葉があるんだよ」

あからさまに疑問の顔を浮かべる二人。

「それじゃあ行こうか」

短く首肯する燐。途端二機は動き出した。相手を囲うように回りこみ両端から詰め寄る。先の相手方と同じ動きだ。挟み込まれた二機は上に逃げ口を見出しまたも同じような行動に出る。そこで燐たちは腕部に仕込まれたワイヤーロープを同時に射出、敵の機体に取り付ける。追走劇を予想していたイクスたちは初速を出しきれずにワイヤーの射程から脱しきれなかった。ひるんだ二機に対応の時間を与えることなく水平に急加速。二機を引っ張り回す。そして更にワイヤーを射出。その目標は敵機ではなく敷地内に張り巡らされた防護柵。すかさず白銀は下で待機しているクルーに合図を送った。

「さあて、地獄のダンスを踊ろうか。空のステージで」

次の瞬間防護柵がキラリと光る。柵に侵入者撃退用の電流が流されたのだ。ワイヤー越しに燐たちを経由し敵機へ高圧電流が流れこむ。

「ぐぅああああ!!」

「なんtぉおお!!」

もだえ苦しむ敵機、だがそれはりんタチも。

「残念だがこの程度で我々は、それは貴様らと手」

「そうだね、正直つらいよ」

「なんて柵考えやがる。畜生だなアンタ」

作戦はここで終わりではなかった。

「もう少しこらえてね」

スタンスティックを取り出すとそれにもワイヤーを取り付けそれを捕獲用のソレに取り付ける。そして空高く投げあげた。

「なにを?」

「そうか、雷を。だがそんな都合よく」

「そうさ、だから少しでも顔を出しやすいよう電気まみれにしたのさ」

白銀は燐に合図を送る。

「死にたくなければ」

「いわれなくても死にたくないさこんな無茶な作戦で、それに」

下を見下ろす。

「このあとは説教の予約が入ってる」

「そうかいそれはキャンセルできないね」

ピカ!!空が光った。

光より先に計器で予見していた二人は次の行動に映る。

一筋に降る注ぐ雷。導かれるようにスタンスティックを始点に電撃の連鎖をうむ。

「「ぐぁああああ!!」」

断末魔の叫びを上げるイクスタチ。その流れは当然燐たちにもしかしそれは同等ではない。直前に柵へのワイヤーをカット、地表に別のワイヤーでアンカーを打ち込んでいた。よって電流は滞留することなく地面へにげていった。

そして

「ぎぃ、ざま、ぐぁ・・・・」

ショックで酩酊状態のイクスとイプシロン。

燐たちも衝撃を受けた結果ダメージは相当だ。

「そしてもうひとつ、・・・この機体の伝送回路は・・・・従来のものとは違う・・・外部装置として扱うこともできるため・・・身に受ける電流を軽減することに成功したんだよ。当然・・・かれのにも同じのを付けさせた・・・うちのクルーは一流だからね」

「ばっかじゃねえの・・・死にかけの人間をホントに殺す気かよ・・・・けどまあ・・・」

「そうdね、まだおわりじゃない」

地上ではクルーたちが作戦の成功に喜んでいた。クルーも乗り気ではなかったが他に策らしい策がないなかでの御曹司の奇策にはいたく感心している。だがその一方で女性陣は開いた口が塞がらないでいたが。

「次だね、いや楽しかったよ。でも、うん。ここはお別れの言葉だ。話はあとでゆっくりと。いい夢をみてね。ナイトメアじゃないことを祈ろう」

地表カタパルトから巨大な投擲物が打ち上げられた。よれよれの身を鼓舞して目標と動態速度を合わせる。機械の腕にしっかりと構えられたそれはAW用巨大ハンマー。空中ではAWの性能を殺すため用途が難しいシロモノだ。それを構えると制動の流れに機体の推進を加え目標を襲う。バゴォォオオンン!!

耳を覆いたくなるような爆音がインパクトの瞬間に生まれる。解体クレーン用のハンマーに車で体当りしたような衝撃がイクスとイプシロンの身に降り注ぐ。彗星のような早さで地面にたたきつけられた二人は不格好なランディングで滑り続け防護柵にぶち当たりようやく止まった。柵は壮絶にえぐられコンクリートの地面に凄惨な傷を植え付ける。まさにオーバーキルの所業。予見していたかはさておき白銀が手配していた医療班と消防犯が間を置くことなく現場に駆けつけた。すぐさま救助作業にとりかかってる。

「オニ・・・・」

ジト目で睨みつける燐。

「大丈夫さきっと。AWはそれくらい頑丈だから、保証はしないけどね。過ぎた仕置だとは思うけど」

「あんた、あれか?そんなふうでいてほんとはブチギレてるとか」

「えっ!?何言ってるのさ君?あたりまえじゃないか」

「え!?」

「自分の家を襲われたんだよ?怒らない理由がない。この子にも苦労を掛けたしね」

「アンタ、そうとういかれてんな」

「君もフツウというには無理があるね。語調が乱れたままだ」

言われてようやく燐は築く。それでもそれは大した問題じゃない。

命がけの激闘を制した二人は緩慢な足取りで地表に降りたる。すぐに睦海たちも駆けつける。しかし、睦海はいつもの読めない無表情、かたやペドラは顔中に文句をタラタラと書き綴って、そしてユーディットは見たこともない鬼の形相だった。

疲れた体を癒やす暇が用意されていないことを悟ると白銀とならんでハンガーに身を預ける。

すべてのパーツを剥ぎ取りこのときようやく彼の素顔がお披露目になったがその顔を見て燐は言葉に詰まった。

「え?え?え!!」

「なにをそこまで驚いてるんだい?まあいいさ。あらためて自己紹介しよう。父はGIC社CEOで僕自身は今度から日本のナントカ学園特進Ⅰ科に通う、ジェミニ・カールトン。よろしくねリン・シドウくん。僕のことはジェミーとよんでくれ」

あんぐり口をあけたままかたまる燐。だけではなく一同。

「アンタ、いや君、え?社長の息子??え?学校で、よる、え?」

「OKOK、クールダウンしなリン」

目を閉じ深呼吸瞑想だ。

もやもやする頭は情報を処理しきれないでいる。みるみる血圧が上がる。

にっちもさっちもいかないとなると全てを放棄することにした。

「OK、わかった。ジェミーだな。よしよし今はそれだけでいい、それだけでいいん・・・」

そこで燐の思考はシャットダウンした。過労、疲労、知恵熱。あらゆる要員が燐にストップを掛けた。またしても顔面蒼白になる一同。

すぐさま救護班が駆けつけ今度こそ燐は救護室で缶詰となった。


日が明けまだ完全ではない燐はベッドにくくりつけられたまま。病院に運ぶという話もあったが時折目を覚ました際の問答でそれも見送られその代わりGIC社によって優秀な医師が手配された。講義には参加できなかった燐だがそもそも講義自体つぶれるはずがGICサイドからの提案により通常通り行われた。これには賛否わいたが事後処理はすべてGIC内部で薦められた。これは外部にもれてマイナスイメージが就くのを防ぐため、また外部機関に捜査を任せるつもりが無いためである。よって襲撃者の扱いは顧問弁護士立ち会いのもと社内で決をとるとのこと。

それら一連の話をジェミニから聞いたのは夜が更けてからだった。

それまでは交代でユーディット、ペドラ、睦海の順で病室に訪れ、見舞いという名の説教を受けていた。

「それは大変だったね。でもいいことじゃないか女性に心配してもらえるってことは君が魅力的な男性である証拠だよリン」

「ジェミー、アンタはなんでそんなに口がペラペラなんだ」

「そうでもないと自分では思うんだけどね。まわりからはそう見えるようだ。で、どうなんだい?ペドラは女性らしい肉体の持ち主だし、ユーディットは年上だがそこがまた面白くもある。けどやはりムツミ・スメラギが君のガールフレンドではないかと睨んでるんだが」

「女友達って意味ならイエスだがステディじゃあないさ」

「そうなのかい、学園であった彼女と君を気遣う彼女は別人に見えたが。女をあそこまで変える要因はひとつしかない」

ずいっと迫って燐の瞳を覗く。

「残念だがハズレだジェミー。皇さんはここ数日一緒に過ごした仲だけど。そこまでの関係じゃない。あの取り乱し用は意外でもそれは誰も知らなかっただけでおれがどうこうじゃないと思う。そうだな変えたというより露見したとみるべきか」

ひとりで考察に入るリン。

「君が女性をわかってないだけにも取れるけど。存外僕も同意見だな。人っていうのは面白いよ。多面的に見ることではじめて人は人であるからね。どんな人間でも一面だけでは測れないさ」

「あ、そうだ」

そこで燐は枕元から何かを取り出す。

「ほらよ」

ジェミーに投げ渡されたのは缶コーヒー。

「おれのオススメのメーカーだ。さっき買ってきてもらった」

「リンはもしかして男色家なのかい?これでもぼくは御曹司、コーヒーにはうるさいんだよ?けど好意を素直に受け取るのが僕の美徳でもある。ありがたくいただくよ」

プルタブをあけ口をつける。

「ほう、缶コーヒーも捨てたもんじゃないね」

「だろ?」

「だけど所詮は缶コーヒー」

「仕方ないだろ?おれの有り様見て高級品求めんなって」

「いやいや肝心なのはドリップだよリン。そうだね友情の証として今度ボクがごちそうしよう」

「ほんとか!御曹司が飲むコーヒーってすごいんだろうな」

「期待を裏切って恐縮だがコーヒーは金を積めばいいわけじゃない言ったろうドリップが命なのさ」

「なんだよぉ。んで、いつから学園に?」

「そうだね一応今回の一件には僕も関わっちゃったからね落ち着くまでは。それと新作の発表も控えてるんだ。ぼくに会えなくてさみしいだろうからできるだけはやく片付けるよ」

「だからおれはそっちじゃねえ!!けど」

「?」

「待ってるぜ、また一緒にとぼうな」

握りこぶしを突き出すリン。

「なるほどこれが君流の挨拶か、いいね」

倣うように出された拳が中央でコツんとぶつかった。

燐にまたひとり好敵手ができた瞬間である。



最終日の午前研修を終え、最後はあっけなく幕を閉じた合同研修会。なんとか最後の講義だけには出席できた燐。内容の理解度はほどほどだったがそれでも得難い経験をしたことは確かだ。ジェミーとはサラリと挨拶を交わし、海外組とのわかれではペドラから熱烈なハグを受けた。別れを惜しみつつも再会を誓い合う一同。そして凛と睦海は自分たちの居場所、ナントカ学園へ向けたバスに乗り込んだ。

「それにしても今回はすごいことになっちゃったね皇さん」

「ええ、そうね」

いろいろあったが結局最初の距離感を保ち続けたふたり、意外とふたりにはこれがシックリ来るのかもしれない。

「しどうくん」

「ん?なに?」

「前も言ったけど。ああいうのは控えるべきだと思うの。結果、大いに貢献したことになるけど私達はまだまだ未熟で、あの場合上に対処を仰ぐべきで」

「わかってるよ。おれが浅慮だったっていいたいんでしょ」

「そうじゃないの」

「けど、とまらなかったんだよね。いけないことだって後でようやくわかるぐらい」

「・・・。あなたは頑張ったわ。それでも誰かに心配を掛けるのは関心しないわね」

「そうだね先生やペドラにも言われたよ。皇さんを泣かせっちゃったわけだし」

「ちょっと待ってあれは動揺しただけで」

「でも嬉しかったよ。言葉にするのはむずかしいけど誰か、皇さんとペドラに泣いてもらってこれはオレの命だけど何をしてもいいわけじゃないって」

「・・・」

「ありがとう」

「あの、シドウくん。わたし考えてたことがあるんだけど。皆はあなたのことをファーストネームで呼ぶしあなたも呼ぶわよね。それが向こうの文化だからおかしくはないんだけど。その。だから。私達も変えてみてもいいのではないのかなと。呼び名などを。よ、呼び捨ては礼がないしだけど・・・」

そこまで話してようやく睦海は自分が一人相撲していたことに気づく、肩にかかる心地良い重みで。疲れのためか、安心感からか糸がキレたように深い眠りのなかに潜り込んだ燐。その姿に行き場のない思いを浮かべたが安らかに眠る顔に許してしまいたくなってしまう。やさしくブランケットをかけると静かに本を取り読書をはじめる。片時、車窓向こうの暁の水面を見つめながら。


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