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第十弐節「BLITZ」



それは午後のことであった。生憎の暴風雨のため屋内トレーニングとなった彼らは施設の中にあるジムで筋力トレーニングに励んでいた。度々文句を挟みながらもトレーニングを続ける燐。ほかの学生らも口々に残念そうに不満を漏らしている。

「みんな文句言わないで頑張る。AWには当然技術だけじゃなく基礎体力もいるんだから」

そんな中、一人の学生がユーディットに声をかけた。

「先生、アボットがいないんですけど」

学生が一人いないという。

「そういやフレッカーもさっきからみないな」

別のところからも声が上がる。どちらの学生もドイツ校の生徒でアボットは男、フレッカーは女生徒のことを指している。

「トイレなんじゃねえの」

「それがトレーニング前から見ないんだよな」

わずかにざわつき出す室内。

「はいはい集中して。二人はあとで先生がきつく言っておくから」

そこへスピーカー越し社内アナウンスが流れた。

「緊急放送、緊急放送。A15格納庫に侵入者アリ。繰り返すA15格納庫に侵入者有り」

途端凍りつくトレーニングルーム。次の瞬間堰を切ったようにざわつき出す生徒たち。

「侵入者って大げさだろ。一企業なんだから」

当然燐も驚きを顕にする。

「この放送全館に流しているようね。ただ事じゃないわ」

しばらくして敷地全体を覆うように大きなサイレンが鳴り響く。

「先生、どうするんです?」

「どうするって私に聞かれても、とりあえず様子を見に」

「俺たちも」

「ダメよ危険だわ」

「部外者は何もしない方が」

「でも気になるよ」

どんどん騒がしくなっていく室内。ほかが騒ぐさまを黙って見ていた燐も落ち着いていられなくなってきた。

「とりあえず誰かに指示を仰いだほうが」

「そうね」

そこへまたもやアナウンスが割って入った。

「侵入者はAWに搭乗している模様。隔壁破壊後、格納庫内の装備を持ちだしほかの施設を攻撃中。警備舞台は至急スクランブル」

学生たちの騒ぎ声と鳴り響く警報、止まないアナウンスで収拾がつかなくっている。

「見に行こう見に行こう」

何人かが物見遊山で出て行ってしまう。

「まって、ここにいなさい」

慌てて後を負うユーディット。その姿に釣られて何人も後に続いていく。

「どうする獅童くん」

部屋に残された燐らとあと数名。

「どうするってこうなったらしょうがないだろう」

「それもそうね。逃げるにせよここにいたら何もわからないわ」

「行こう二人共」

ペドラが先頭を切って駆け出した。後について駆け出す燐と睦海。

外に出ると風が吹き荒れ雨が視界を覆っていた。腕でひさしを作りあたりを確認する。遠くに人だかりが出来ているのがうっすらとわかる。少し離れているが走っていける距離のようだ。すぐさま燐は駆け出した。

走っているうちに少しずつ状況がわかってきた。大雨の中上空を飛び回っている影が見える。間違いなくAWだ。けれどその数は多くて2つ。先程からのアラウンスですでに警備部隊のAWが出撃していてもおかしくないはずだがその姿は確認できない。状況がわかっても状況が飲み込めない。今目の前に広がっている光景だけでは情報が不足していた。

「なんでほかに誰も出撃しようとしないんだ」

「トラブルかな?」

「おかしいわね、社内で機体トラブルは考えにくいけど、それも一斉に」

しばらく走り続けようやく人だかりと合流した燐たちは改めて空を見上げる。どうやら侵入者は格納庫を破壊して回っているようだった。

「やっぱりおかしいわ」

「なにが」

雨音が会話を邪魔するなか声を張り上げる燐。

「さっきから気になってたの。夜間、電磁ネットが防衛しているとして侵入は昼しかないとしても日中は全方位の監視システムがあるから外からの侵入は未然に気づくはず」

「なら生身で侵入したとか」

「クーデターとかじゃないの?」

「社員の犯行?なのかしら」

そうこうしていると人だかりの中に後藤を見つけた燐は彼に歩み寄った。

「後藤さん」

「ああ君はなんとか学園の」

「獅童です。後藤さん、なんで誰も出撃しないんですか」

「しないんじゃない、できないんだよ」

「え?」



「こちらツェット。イクス、イプシロンそちらの状況は」

GIC社からほどなく離れた高台。大型のトレーラーの中、その声は響く」

「こちらイプシロン予定通り格納庫襲撃後装備を奪取、破壊任務を継続中」

「了解だアレはうまく機能しているか」

「迎撃部隊が出てくる気配はない順調のようだ」

「では作戦の第二段階に入る。準備に入れ」

「了解」

通信が終わるとおもむろにトレーラーのコンテナ部分が展開を始めた。開かれたその中から拠点制圧用の重火器が装備されたAWの換装パーツが姿を現した。これほどの装備はAWの国際的取り決めで違法扱いされている。なぜなら爆撃装備はそのまま軍事兵器と認識されるからだ。

発射台に固定された換装パーツは旅立ちの時を待っている。

「射出」

男が右腕を上げた。続けて作業員が復唱する。

「了解、装備射出」

けたたましい音を鳴らし換装パーツが空高くロケットのように飛び立った。


「出撃できないってなんで?」

「よくはわからんが技術者の話では突然システムエラーがおこってOSが起動しなくなったらしい。状況から考えて外部からなんらかの干渉を受けているのだろう」

「干渉?外部から?」

話を聞いても燐は未だ事態を飲み込めないでいた。

「そんなそうすれば」

燐が俯き黙り込んでしまった時だった。

「なんだあれは」

誰かが上空を指差し大声で叫んだ。GICの敷地外から謎の飛行物体が高速でこちらに向かってくる。それはまるで流星のような速度で。

「イクス、これより換装シークエンスに入る」

そういうとイクスと呼ばれた機体は飛行物体と相対速度を合わせ徐々に距離を縮めていく。そして手の届く距離まで届くと両手両足の外装パーツをパージし飛行物体とドッキングした。巨大なパーツとの換装を終えたその期待の全長はおよそ二倍にまで達している。巨大な人がたが空中を漂っている。

「換装したのか?」

「そんな無茶な」

「なんだあの装備は」

「あれで飛べるのか?」

辺り一帯から驚きの声が沸く。それも当然だあんな重装備で空を滑空することなど無茶だ。けれど滑空する必要などないただそこに浮いているだけどいいのだ

「換装完了。やはり推力に不安が残るようだ。だが作戦遂行に問題はない」

そういって謎の期待は両腕を前面に構えた。

いちはやく誰かが声を上げる。

「逃げろ!こっちを狙ってる」

その瞬間、全身に装備された重火器から火花がちった。全方位に向け放たれたミサイルは建物めがけ飛んでいく。幾重もの軌道をえがいて飛び散るミサイルは目標物に到達すると。

ドガアアアン!!バゴオオオオン!!ガシャアアン!!

破砕音、爆発音、衝撃音。さまざまな音を鳴らし何もかもをがれきに変えていく。逃げ惑う人々轟く悲鳴あたりが地獄絵図と化していく。

「なんだよ。めちゃくちゃじゃねえか」

たまらず声をあげたり燐。空手悠然と漂う期待を睨みつけ歯を食いしばった。怒りのボルテージが最高潮に達した燐は一目散に駆け出した。

「くそがぁ!!」

「獅童くん!?」

「リン!?どこいくの!?」

視界の外を一切気にせず燐は一目散に走る。そして目の前の格納庫に飛び込んだ。

「機体を機体をかしてください!!」

格納庫いっぱいに広がるくらいの大声で燐は叫ぶ。作業中だった技術者たちは驚いて振り開けった。一番近くの機体へと駆け寄る。

「何を言ってるんだ。無理だよどの期待もOS起動時にエラーが出る。おそらくはあの機体がなにかしかけてるんだろうが」

あの機体とは爆撃を仕掛けてきた機体とは別に更に上空で静止したままの機体を指していた。

「あの機体がシステムに干渉する電波か何かを」

「なんとかならないんですか!?」

「難しい、うちの機体はどれも共通のOSを使っている。ウチにテロを仕掛けるためにその電波も何か特殊な・・・」

「それに君は学生だろ。危険な真似はよして我々に、これは我が社の問題だ」

「けど!けど!」

燐の熱とはうらはらに手を動かしながらもどうにも空気は重苦しい職員たち。誰もが確固たる希望を見いだせずにいた。

「違うOSなら起動する見込みも・・・」

技術者の一人がそういった。

「違うOS・・・違う、違うOS」

燐の脳裏になにかがよぎった。何かを見落としている。なにか可能性が転がっていた気がする。なんだっかと懸命に頭を働かせる。そして思い行った。

「OS、確かに違う」

そう呟いた燐はまたしてもどこか向け駆け出した。


身を叩く激しい雨に視界を遮られながら遠く離れたある場所へと向かう。遠くから火器が火を噴く轟音が聞こえる。振り返りたくなる思いを振り切り燐はただ走る。

たどり着いたその格納庫にはオーバーホールのため集められた多くのGIC製のAWが置かれている。作業員は誰もいない騒ぎを聞きつけ飛び出してしまったようだ。多くのAWの中から迷うことなく一点を目指す。ただ一点を。

そこには燐がかつて学園で見たのと同じ旧世代型のAWが置かれていた。それはあの機体とまさしく同一のもので学園からメンテナンスのためにここへ運び込まれていたのだ。それを燐は初日の見学の時に見つけていた。

「これなら」

興奮した燐の視界にはほかのものは映らない。滾る怒りの中に一筋の希望が見えた。

すぐさまフィッティングを開始する燐。機体に乗り込みOSの起動を試みる。まだこの時点ではかけに過ぎない別のOSなら起動するという確証はないのだから。けれど燐は賭けに勝った。なんの滞りもなくOSは立ち上がる。液晶画面の指示に従い両手両足のフィッティングを順次済ませていく。しかしながら多少の時間がかかる。その時間が燐をイラつかせる。

「はやく、はやく」

そしてようやく最終段階に入る。

全身にランプが灯り機体が産声を上げた。

「いくぜ、いくぞおおお!!」

初速から最大加速で燐は格納庫を飛び出していった。


なおも風は激しく吹き荒れた。観衆の視界には雨粒というノイズが走り、風音が絶望を演出する。上空には灰色の雲たちが蓋をするように漂い木々がうるさいほど騒ぎ立てる。

謎の侵入者たちの攻撃は雨と同じく一向に止む気配がない。ミサイルの雨により多くの施設が被害を受け負傷者も少なくはなかった。黙々と任務を全うする襲撃者のもとに予期せぬ来訪者が現れる。

「イクス、こちらに近づく機影をレーダーが捉えた」

「機影だと?ここのAWは使い物にならないはず間違いないのかイプシロン」

「ああこれはAWの反応で間違いない」

「そうか、なにものだ一体」

「来る」

まもなくイクスの機体でもその機影を捉えることができた。そしてスコープでもその正体を確認した。

「あれは」

暴風雨の中、向かい風を押しのけるように燐が現場に姿を現す。地上の方でもようやく人々が燐の存在に気づいた。

「獅童くん?」

「えっ!?リン?」

実際は遠目で視認するのは難しい。けれど睦海は確信的にその機体が燐のものだと思った。

「誰だあれに乗っているのは」

「あの機体は確か」

「メンテナンスに出されてたロートルだよな」

「あんなもんで一体何を」

「動かしているのは学生なのか?」

敵機が視認できる距離まで近づくと燐は機体を制止させる。

「あんたら!!」

「おまえは確か」

「ああ、俺もだ。思ったとおりドイツ組の」

「何してんだ、なんでこんなこと」

「我々の任務はGIC社を襲撃し被害を与えること」

「俺が聞きたいのは」

「いうわけがないだろう。なぜ貴様にすべてを話さなければならん?」

「謎の侵入者、対峙するヒーロー。そこから相手が自分語りをはじめる。カートゥーンのようにはならないさジャパニーズ」

「その機体、そんなものがあったとは計算外だったが。それでどこまでやれる?」

イクスは砲門を燐に向けると躊躇なく斉射した。無数のミサイルが燐めがけ飛び立っていく。砲門がむけられ発射されるまでの数秒、発射を待たずして危険を察知した燐は回避行動に移った。けれどその動きはすごく緩慢ですべてのミサイルから逃げ切ることはできない。後ろに下がった燐をミサイルたちが興奮した猛牛のように追いかけてくる。

バアァン!!

「んぐ、ぐ、ぐぁ!!」

声にならない声を上げる燐。直撃を受けその身は弾き飛ばされる。衝撃が脳を揺らし爆煙が視界を覆う。海に沈むようにその体に重力が乗って地表へと降下の一途を辿る。虚ろな意識の中雲をつかむように天に手を伸ばすが届くはずもなくただただ落ちていく。混濁する意識の中遠く離れていく敵の姿を目の端で捉えると無意識に近い状態ながらも機体を制御して姿勢を保とうと身を動かす。雨の流れに逆らうようにゆっくりとふわふわと上昇を始める。いまだ朧げなその視界には世界の半分も映ってはいない。

「あの状態から持ち直すとはなかなかどうしてやるじゃないか」

短い息を繰り返し悲鳴をあげる体。睨みつけるように相手を見据える燐だったがその相手の言葉も半分しか耳に入ってこない。

「ミサイル、って、すごいん、だな。ハァ、まだ体がしびれているみたいだ、ハァ。いうことを、聞きゃあしない」

憔悴した燐を高みから見下ろすイクスとイプシロン。冷え切った目で行く手を阻む燐を見つめる。

「頑張るのは結構だがこちらも仕事だ。早々に片付けさせてもらう」

重器をかまえ打ち放つ。機銃放火が燐を襲う。数多のつぶてが刺すような勢いで銃口から飛び立つ。雨に混じって飛来する粒の嵐をおぼつかない挙動で懸命に躱していく。完璧とはいえなくても先程よりスムーズな飛行。けれどそのすべてを躱しきることは燐には到底不可能だった。小刻みに装甲を何度も叩く礫たち。無数の振動が燐を責め立てる。嵐の中の飛行は想像以上に困難を極めた。動くたびに気流によってその行く手を遮られ突風が壁を作り邪魔をする。機銃の一発一発の威力では到底AWの装甲を突破することはかなわないがそれも風を重ねれば着実に傷を残していく。その身に幾多のクレーターを作りながらも燐は飛ぶことをやめない。

「いつまで逃げる、どこまで逃げる。そんな機体でよくもまあ戦うものだな」


「リンに勝ち目はないの?」

瞳を潤ませ今にも泣き出しそうな顔でペドラは燐を見つめていた。痛々しく飛び続けるその姿に胸が締め付けられる思いだ。

「獅童くん・・・」

手助けひとつ満足にできない状況に苛立ちと歯がゆさが身を包む。観衆の前で機銃の雨に何度も燐は打ちのめされる。

「あの機体じゃあ」

「あの機体じゃ勝てないんですか獅童くんは?」

「あの機体はなん世代も前のものだ。カタログスペックじゃ現行機の3分の1にも満たない」

「3分の一!?そんなんじゃ勝てるわけ、リン・・・」


「彼もどうして粘るじゃないか。彼の相手はイクスで事足りるな」

悠然と戦況を観察しながらイプシロンはそんなことを口にする。

「イクス楽しむのはいいがこちらも任務だ早急に片をつけないとまたいらぬ邪魔が入るやもしれない」

「わかっている。こちらも遊んでいるつもりはない。ただ思ったよりもしぶといんでなこれが」

飛び続けながら燐は思考を巡らせていた。できることならすぐにでもイクスに飛びつきたいところだがこの距離を埋めることは大海原を岸まで泳ぎきるくらい難しいことだ。重装備の対価に手放した機動力。取り付きさえすれば形勢は変わる。けれどその対価に見合うだけのこの攻撃力を前に今の燐に成すすべがない。

「飛び道具相手に丸腰でどうすれば。それに重い、すごく重く感じる体が。訓練機とはまるで違うこれがクラッシクモデルの限界か」

まるでトタン屋根を雹がたたくようにいくら逃げても着実に弾は燐を襲い続ける。

「こうなったら」

逃げの一手から攻撃の一手へ。逃げることを諦めイクスとの直線距離を一気に加速する。格好の的となった燐に容赦なく鋼鉄の雨が打ち付ける。パーカーションのように甲高い破裂音が止むことなく鳴り響く。

「くぁ!!」

近づけば近づくほどその衝撃も威力も積算されていく。決死の特攻をあざ笑うように。一定の距離から先に進めない。そしてその衝撃に耐えかねて機体が弾き返される。弾き返されてもなおほかの打開策を見いだせない現状で懲りることなく燐は特攻を仕掛ける。打ちのめされても繰り返す。ほかに手がないから。だがAWも当然万能ではない。肉体への致命傷は免れても装甲を蝕む数え切れぬ傷跡。このまま続ければいつ重大な損傷ができてもおかしくない。目に見えないところで機体は悲鳴をあげていた。

「さっきから推力が安定しない。まともに攻撃を受けすぎたか」

「そろそろフィナーレかな。勇敢にもここに顔を出したことは賞賛しよう」

「けれど身の程を考えなかったようだな。一学生がどうこうできる事案ではなかった、到底。さよならジャパニーズ」


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