第1話 耐えることしか知らなかった
「クララ、お前のそういう陰気なところが昔から虫唾が走るのよ」
義母であるガートルードの投げ捨てるような声とともに、請求書の束が私の足元に散らばった。
床に膝をつき、一枚ずつ拾い集める。
宝石商、最高級ドレス店、高級サロンへのツケ払い。いずれも義妹エリスの名義で贅沢三昧をした請求書だった。宛名だけが、私の亡き実母が残した資産管理口座になっている。
「今月のドレス代、お前の手持ちから立て替えておきなさい。エリスは近々、アルフレッド様と王宮夜会に出席するのだから、みすぼらしい格好をさせるわけにはいかないでしょう」
「……ですが、お義母様。母の遺産口座は、すでに限度額を——」
「口答えをする気?」
義母は扇子の先で私の頬を鋭く叩いた。
ピリッとした痛みが走り、赤く腫れる。
部屋の隅の長椅子では、豪奢なフリルのドレスを着た義妹のエリスが、マカロンをかじりながらクスクスと喉を鳴らしていた。
「お姉様ったら、本当に地味で愚図ね。アルフレッド様も『クララと話していると息が詰まる』っておっしゃっていたわ。私がお相手をしてあげているのだから、感謝してほしいくらいよ」
アルフレッド・ランカスター伯爵令息。
私の婚約者。
病弱だった父が亡くなる前、母の持参金を目当てにしたランカスター家と結ばれた政略結婚の相手だった。
『慎ましやかで、決して出しゃばらず、家のために尽くしなさい』
それが亡き父の遺言であり、私が十七年間信じ込まされてきた「良き令嬢」の呪縛だった。
言いたいことを飲み込み、理不尽に耐え、泥を啜るようにして家の体面を保ってきた。
そうしていれば、いつか報われる。いつか家族として認めてもらえる。アルフレッド様も私の献身を理解してくれる。
そう信じて、私はただひたすらに頭を下げ続けていた。
だが、その健気な忍耐がどれほど愚かな幻想だったかを、私はその夜、思い知ることになる。
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