第11話:蔵書室と不安
この世界に来て 5日目
王宮へ保護されて 4日目の朝
◇ ◇ ◇
いつも通りの朝を過ごした慧は、さっそく王宮の蔵書室へ足を運んでいた。
もちろんリアムより許可は貰っている。
慧はミラとガク、2人と一緒に蔵書室の前までやって来た。扉の前には、王国の歴史を守るために槍を持つ守衛が2人立っている。
ミラがリアムより受け取った、陛下直々の許可証を、守勢に見せる。
守衛は、許可証を見てお互いに顔を見合わせて頷いた。
「許可証を確認いたしました。入室を許可します」
そう言って守勢2人は、左手に持っている槍の石突きを床へ軽くつけると、右手を胸に添え、丁寧に一礼した。
「ようこそ、愛降 慧様。ミラ殿、ガク殿。王宮の蔵書室へ」
そして守衛が重厚な樫の扉を開く。慧は感謝を伝えて、足を進める。
「すごい……」
蔵書室の中に入った慧は、その広さと、本の多さに感嘆の声を口にする。
蔵書室の天井は2階から3階分の高さがある。壁一面に本棚が並び、その全てに本が綺麗に入っている。
――どうやってあの高さの本を取るんだ
高すぎる天井と本棚に、若干引き気味の慧だった。2階や3階に行くための階段も設置されているが、この中から知りたい情報が載っていそうな本を探すとなると、途方に暮れる。
困惑している慧に、何やら大きい四角い板の前にいるガクが話しかける。
「慧様、こちらにお越しください。」
慧はガクに呼ばれた通りに、傍まで歩み寄る。四角い板には、文字が書かれていた。
――『閲覧を希望する本のキーワードを教えてください』?
それは、元の世界にもあった、図書館にある本を検索するための機械と似ていた。
ちなみに慧は、召喚された当初より、なぜかこの世界の文字が読める。なぜ読めるのか、そこはあまり深く考えないようにしている。
ガクは、慧の代わりに操作するため、板をいじる。
「この板は、蔵書検索機といいます。ここにキーワードを打ち込むと、該当する本を検索し、運んでくれます。これは過去、他王国の異邦人様が造ってくださったものです。その方は、魔力操作に長けている方で、システム?を組み立てることが好きな方だったと言われています」
ガクの話を聞いて、慧はシステムという言葉が出てきたことに驚いた。
――その人もしかしてシステムエンジニアの人だったのだろうか
慧はそう考えて、やはりこの異世界は、過去に召喚されてきた人たちが多い世界なのだなと実感する。そしてその人たちの功績が色濃く残っている場面に遭遇すると、自分の事のように嬉しくなる慧であった。
「その王国は、ムスフィシパ王国と同盟関係にあるため、この王国にも造っていただいたそうです」
「話はこのくらいにして、慧様はどのような本が読みたいのでしょうか」
ガクが説明を終えて、慧に聞いてくる。慧も、説明をしてくれたことに対して感謝を伝えた。
続けて調べたい本を、キーワードでガクに教える。
「この世界について、他の国について、召喚について。とりあえず、この3つについて知りたいです」
慧は聞かれた通りに教えたが、この機械がどうやって本を検索して、どう本を運ぶのか、分からないなりに少しワクワクしていた。
慧のキーワードを聞いたガクは、すらすらと検索機に打ち込む動作をしたかと思うと、最後にボタンを押した。すると、検索機から風が生まれて、その風が本棚に伸びていく。
伸びていった先で、本が風に乗ってするりと本棚から抜ける。そのまま風で守られるように、本が検索機の受け台へ静かに着地したのである。
「これを自分と同じ異邦人が造った……」
慧は信じられないような心境だった。自分にはどう頑張っても無理だと理解しているからだ。
「すごいですよね。この検索機内に、風魔法の魔法陣が刻まれていて、ここに入力するとその魔法陣が起動するという仕組みらしいのですが、僕も理解できません」
そう言ってガクは、困ったように笑った。ガクと同意だと示すためミラも困り顔で口を開く。
「ちなみに、私も分かりません。恐らくこの世界の人間のほとんどが理解できないと思いますよ」
二人の言葉に慧は、失礼だと思いつつ安心したのだった。
そして風が運んできてくれた数十冊の本や資料を、3人で手分けして、長机に運ぶ。慧は読書用の椅子に座り、さっそく読書に励む。途中、メモを取るために、ミラから紙とペンを貰う。
覚えておきたいことはメモをとり、疑問に思ったことは2人に聞く。2人でも答えられないことは、それもメモをとっていく。
調べていくほど、子どもに繋がりそうな手掛かりも情報も、なにもないと気づかされる。予想していたことではあるが、それでもやはり残念でならなかった。
一方、慧が調べた中で、子どもに関してひとつ不安になる情報があった。
〈ルマスディ王国〉、争いを好み、プライドが高い、あまりいい評判を聞かない、対立している王国が多い、聖女という存在に固執している、とされている。
もしこの王国に召喚されてしまっていたら、もしあの助けようとしていた女性が聖女だったら……
――召喚された可能性のある王国が、ここじゃありませんように
慧はそう願うしかなかった。
リアムからは、事情を聞いた翌日に同盟関係にある王国へ、確認の書簡を送ったとの知らせを受けていた。慧の情報は伏せたままだ。そして同盟を結んでいたとしても、その王国が素直に教えるとは限らない。
そして今だ、いい報告は聞けていないとのことだった。
そのため、余計に不安になってしまうのだ。
あとは、近隣の王国が光の道を目撃していることを願うのみ。
やるせない状況に、慧は頭を抱えた。
「仕方ない、これを陛下に相談してみるか」
調べているさなか、興味深い情報を見つけた慧は、ある事をリアムたちに相談しようと考えていた。
一か八かの作戦でもあるかもしれないそれは、許可を得られるか分からない。
――それでも、少しでも可能性があるならやってみる価値はある
慧は、リアムたちを説得するために必要な材料を洗い出し、どう伝えれば納得してもらえるかを考えながら、メモに書いていく。
途中、ミラとガクがメイドに呼ばれて退出したが、慧は全く気付いていなかった。
それからしばらくして、蔵書室にノックの音が響いた。その音に慧の意識は現実に引き戻される。
ノックをしたのはミラで、夕食の時間を知らせに来たのだった。
慧が蔵書室の窓を見ると、外は夕暮れ色に染まっていた。思っていた以上に、時間が過ぎていたことに驚きながらも、手元のメモを見る。
そこには、説得するための筋書きが隙間なく書かれている。
――これならきっと……
そう言い聞かせて、メモを大切に持ちミラとともに蔵書室を後にした。
◇ ◇ ◇
この日の夜、リアムの元にムスフィシパ王国と同盟関係にある王国から1通の書簡が届いた。
そこには、
【ある王国が〈聖女〉の召喚に成功した。という噂を我が王国内で確認した】
という内容のものだった。




