遊撃手 鳥谷真琴Ⅳ
それから二人は一緒に鍛錬をするようになった。
素人だった克也も真琴の指導のおかげで上達していった。
真琴の指導がよかったのか、気が付けば克也は、同学年の中で1,2を争うほど強くなっていた。
空手を通して仲良くなった二人は、空手がない日も遊ぶようになっていた。
小学校は違うが、二人とも校区の端だったため、互いの家はそう遠くなかったのも幸いした。
空手を始める前は体が弱く、クラスメイトと一緒に遊べなかった克也に親しい友人はおらず、真琴は克也にとって初めての親友だった。真琴もまた武道をやっていたためか、クラスの男子から「凶暴女」と言われ、その男子をボコボコにしてしまったせいでクラスメイトから怖がられ、クラスで浮いた存在になっていた。
空手道場でも似たようなものだった真琴にとって、真琴の強さを知っても恐れるどころか「スゴイ!まるでお面ライターみたい」と目を輝かせる克也の存在はかけがえのないものだった。
ちなみにお面ライターとは取材と称し悪の組織に潜入し、悪事を暴きつつ組織の怪人を倒す子供に人気のヒーローものである。
真琴と克也が出会ってから三年、真琴と克也は家族ぐるみの付き合いとなっていた。
真琴の父親は野球好きで、克也が遊びに来る度グローブを持ってきては「キャッチボールをしよう」と誘ってきた。
しかし野球に興味がない克也が断ると真琴の父はいつも悲しそうな顔をするのであった。
真琴には高校生の兄がおり、野球をやっていたのだが、小さい頃はサッカーをやっていて野球には一切興味を示さなかった。
真琴の父親が持ってきたグローブは息子とキャッチボールがしたくて買ったが未だ使われたことがないグローブだった。
今なら息子とキャッチボールができるだろうと思わなくもないが、真琴の父親はデスクワーク専門で運動神経は皆無だったため、高校生になった息子の相手が務まるはずがなかった。
逆に真琴の母は運度神経が抜群で完璧超人とも言える真琴は、頭脳は父親から運動能力は母親から受け継いだのであろう。
ある日「屋台がたくさんあるとこにいくかい?」と真琴の父親に誘われた真琴と克也は、祭りだと思い二つ返事でOKした。
わくわくしながら連れてきてもらったのがプロ野球の試合だった。
祭りではなかったが、それ以上の人と熱気が球場には漂っていた。
野球にはあまり興味がなかった二人だったが、克也は球場の雰囲気とプロのプレーに魅了され、試合が終わる頃には野球の虜になり、帰りの車の中で興奮しながら試合のことを話していた。隣ではそんな克也の姿を楽しそうに見ている真琴の姿があった。
克也が「おじさん今度キャッチボールしよう」と言ったとき、真琴の父の目に光るものがあった。
それから克也は野球にハマり休日は真琴の父に野球を教わった。
頭脳派である真琴の父は野球に関するあらゆる知識を有しており、その野球理論は他に類を見ないほどであった。また教え方もわかり易く、克也はぐんぐん上達していった。
真琴は克也ほど熱心ではなかった。
真琴にとって野球はどうでもよく克也と一緒にいることが大事だったのだ。しかし天才肌の真琴は教えられたことを難なく習得していった。
中学が同じだったため入学前「一緒に野球部に入ろう」と克也に誘われたが、返事を濁した。
そして中学の入学式。
克也は真琴の姿を見て驚いた表情を見せた。
それは真琴がスカート姿だったからだ。
武道を教えてもらったり、一緒に野球の練習をしたりしていた真琴のことを今まで男とか女とか考えたことはなく、当たり前のように自分と同じだと思っていたのだ。
真琴も私服はズボンばかりで普段の克也の態度からそうだろうとは思っていた。
だが、真琴にとって克也は性別など関係なく親友だったし、克也にとって同じだった。
しかし性別の壁は存在した。
克也達の通う学校では女子は野球部に入れなかったのだ。
「真琴は野球上手いんです。だから野球部に入部させてください」
入部の際、克也は渋る顧問に何度も頼み込んだ。
「克也、もういいよ。ボクはそれほど野球をしたかったわけじゃないし」
これ以上しつこくすると克也の印象が悪くなりかねないと思ったのだろう。
平然としていたが、真琴が克也を気遣っているのが分かった。
実力が優先されるプロでも監督に嫌われれば干されることがある。中学の部活なんて尚更だ。教師の仕事は野球ではない。素行がいい素直な生徒が可愛いに決っている。
最初から悪いイメージを与えるのは得策ではないと思った真琴は、克也のことを思い、そう言ったのだ。
真琴の気持ちが分かっていた克也はそれ以上食い下がることはなかった。
お読みいただきありがとうございます。
次話もご一読いただければ幸いです。




