<消えた仲間>
格納庫に出ると、空気が薄いうえに暖房も効いておらずひどく寒い。
「爆弾は外に出たらすぐに投下しろ!」
隊長は飛行機に乗り込むと大声で怒鳴る。巡洋艦との衝突により気嚢に穴が開いて飛行母艦が少しずつ浮力を失いつつあるのだ。こうなった場合、飛行機は全機発艦して飛行母艦の重量を軽くしなければならない。そして、それは飛行機にも当てはまる。すでに飛行艦内にある予備の爆弾は捨てられているが、スペース確保のため、飛行機には常に信管を抜いた状態で爆弾が搭載されている。機体を軽くして滞空時間を増やすためにはその爆弾を捨てなくてはならないのだ。
「今回に限って一機少なくて助かった」
「区画がある以上、今まで見たいに墜落することがないのは安心だ」
だが、整備兵たちにも誰にも焦りや動揺は見られない。今まで、衝突して応急処置ができないほどの大穴が開くということは地上へ落ちるということを表していた。一応飛行艦には機銃程度の小さな穴であれば対空監視所から応急処置ができるようになっていたが、大きさによってはどうすることも出来ないのが現状だ。
しかし、今回の事故は大穴が開いたといっても今までのような危険な状態ではない。最低四分の三は浮力が確保されることは決まっているのだ。あとは傷ついていない巡洋艦が駆逐艦に左後方を上空から引き上げてもらったまま帰還するだけ、もしそれまでに飛行機をまた載せるだけの浮力が確保できなければ飛行機は着艦して俺が下りた後に投棄という形になるが、機体よりも艦の保存が優先されるのは仕方がない。
空に飛び立つと、隊長とチャックと俺は三機編隊で艦隊の周りを周回しながら少しでも長く飛んでいられるように一定の速度で燃料の消費を抑えながら飛ぶ。あとは艦隊の飛行艦たちに自身に頑張ってもらうしかない。
しばらくすると巧みな操艦技術によって巡洋艦は飛行母艦を引き上げて支えるのちょうどいい位置についた。あとは駆逐艦とぶつかった巡洋艦から受けた情報で細かい位置を調整しつつロープを下ろして、飛行母艦の対空監視所から命綱をつけた兵士が機能を伝っており、頑丈な航行用エンジンの根元にロープをくくりつけることになる。
俺がそう一段落したと思った時、いくつかの対空監視所から上空に向かって機銃が撃たれた。
敵機来襲!
それぞれが散会した時、どこからともなくそんな隊長の声がエンジンの轟音に混ざって聞こえたような気がした。二機の敵飛行機は飛行母艦へ急降下していくと一斉に銃撃を行なう。対空監視所の強化ガラスは粉々に割れ、先ほどまで火を噴いていた対空機銃も完全に沈黙している。
しかし他人ばかり気にもしていられない。先ほどまで編隊を組んで飛んでいた場所を二機の敵飛行機が急降下で通り過ぎる。三体四の空戦、数的に不利であるが一番の目的は艦隊の防空である。幾度となく空戦をしながら飛行母艦へと近づく敵を追い払っていく。
「まずい!」
それは隊長に追われながらも敵機が飛行母艦へと急降下している姿であった。共和国には7.7mmの銃しか作れないとは言っても肉薄すれば防弾性能のある気嚢を貫くことができる。俺は隊長に希望を預け、それを撃墜することを祈った。
しかし・・・。
一瞬白い光が俺の視界を遮ったかと思うと、爆発音とともに飛行母艦の気嚢が大きな火の玉となって木っ端みじんになった。白い光の前に俺が目にしたのは、隊長に追われる敵機の上の翼がまるでめくったかのようにきれいにはがれ、そのまま気嚢の上へと墜落する姿だった。
気が付けばあたりに飛んでいるのは俺一人。飛行母艦はもちろんのこと上空にいた巡洋艦も吸い込まれるかのように大地へと落ちていき、ほかの飛行艦たちも爆発に巻き込まれて気嚢に穴が開いたためか艦隊を傾けながらゆっくりと降下していく。そんな光景を目の当たりにし、俺はただ無力感を感じていた。