<反攻作戦>
「反攻作戦ですか」
「ああそうだ」
訓練を始めて数か月、基地の司令部へと呼び出されたされた俺は初出撃についての話をされた。今まで帝国は共和国の侵攻に対して帝国上空の防空と周辺の哨戒活動という守勢に回っていたが、今回戦力が整ったことことから攻勢に出ることが決まったのだという。
「しかし、いきなりの反攻作戦ですね」
「これを見ればわかる」
帝国の方針転換に俺は疑問を投げかけるが、それに対して艦隊司令はとある書類を俺に渡してきた。それは先日、哨戒中の艦隊が中立国の貨物飛行船に偽装された共和国の爆撃艦と戦闘を行なった報告書だった。
爆撃艦はどんなに攻撃目標に近づく前に高射砲の餌食となるためほとんどの国で無くなった艦種である。しかし共和国は民間船に偽装すること攻撃目標を爆撃し、高射砲で撃墜されるたびに帝国を民間船に攻撃を加える国として非難し続けてきた。
今では帝国も対策を講じ、許可のない飛行船を領空から排除することになっている。そのため、民間船に偽装した共和国の艦が撤退することはあっても今までは攻撃をするまではいかなかった。
「これは何ですか!?」
「見たとおりだ」
俺は報告書を見て目を疑う。残骸を調べたところ爆弾倉から投下されることになっていたと思われるコンテナには大量の汚物や水銀、工業排水などの汚染物質が入っていたというのだ。
「一人捕虜がいてな、それも報告書に書いてあるだろう」
確かに、奇跡的に助かった汚物や汚染物質にまみれた捕虜についても書かれている。しかし、捕虜の話す内容は「お前たちの湖が汚染されていないのはずるい」「汚染された湖の大変さを思い知れ、湖を汚されたくなければ我々に綺麗な水をタダで分けろ」といった具合で話にならない。
「攻撃目的が湖なのは明らかだな」
上官である艦隊司令のほかに同席する防空司令の言葉に俺は頷く。一度でもこんなものが落とされてはたまったものではない。俺は今回の作戦の重要性を認識し、艦隊司令へ作戦の詳細を問う。
「それで、我々の作戦は?」
「我が軍は奴らと違って市街地を空爆したり、汚物や汚染物質を投下したりして湖を汚染しようとする野蛮人ではないからな。今回は奴ら、共和国から一番近い油沼に爆撃を行なう、これが計画書だ」
どうやら目的としては飛行戦闘艦や飛行機の燃料を枯渇させ、共和国の軍事力を低下させることのようだ。
「作戦は全て飛行機だけですか?」
「ああ、油沼付近は高射砲があると考えられるからな」
「なるほど」
高射砲は高空を飛行する飛行艦に対しては絶大な威力を発揮するが、低空を飛行する飛行機に対しては鈍重で照準できないのだ。そのため飛行戦闘艦には飛行機との戦闘のために機銃が装備されているが、地上では飛行機との戦闘が考えられていない。
これは今まで飛行機による攻撃は機銃によるものだけで、爆弾の投下は飛行爆撃艦のみができる攻撃だったためだ。たとえ共和国が爆弾の搭載可能な飛行機を認識して対空機銃の配備をしていたとしても町に配備し、郊外にある油沼にはごく少数しかないだろう。
「それにこの作戦は奴らのためでもある。」
「はい?」
「我々からのささやかな環境保護指導だよ。これで油沼が使え無くなれば共和国もこれ以上湖を汚さずに済むだろう」
艦体司令はニヤリとしながらそんなことを言う。そして俺は計画書に一通り目を通すと、準備のために司令部を後にした。




