第72話 サクラと姫神子と
第6章一気に投稿します。
宮廷の庭園。
花々が咲き誇りとても美しく、温かい。
とてもここが北の地とは思えない程。
そして、目の前にはあの人のご息女、いいえ、姫神子様。
今は私と二人で、お茶を嗜んでいる。
姫神子様のお顔は、やはりどことなくタカヒロ様の面影があります。
というよりも、御歳100を超えた人とは思えない若さ。
素直に、それは羨ましいですね。
「ねぇ、サクラさん、率直にお尋ねして良いですか?」
「はい、何でしょう?」
「パパの、どこを好きになったの?私が言うのも何ですけれど、パパって極々普通のオッサンですよ?」
「オッサン……あ、いえ、そうかも知れませんけど……」
確かに、あの人は見た目は飛びぬけて美形だとか、そういったものは無いかもしれません。
でも、初めて見た時に感じた、表現のしようのない気持ちは確かにありました。
「そうですね、一目惚れ、と一言で済ますには、何か足りないように思いますけれど……」
「まぁ、パパってね、大体最初の印象は悪く取れらて、第一印象で嫌われる事の方が多いんですよ。
だから、男性からは喧嘩を売られるし、女性から好意を向けられるって言う事は皆無に等しいって自分で言ってましたけどね。」
「そうなのですか?」
「うん。パパが女性不信っていうのは聞きましたか?」
「え?いいえ、初耳です。」
「パパってそういう感じだから、あまり女性が近寄らなかったんですよ。まぁ、自分から避けていたってのもありますけどね。」
「そうなのですか?」
今のあの人からは想像できませんが、女性不信……
何があったのかは凄く気になりますけど、それは聞いても良いのでしょうか。
「昔ね、あ、パパが19ぐらいの時かな、酷い失恋をしたらしいの。」
「失恋、ですか?」
「うん。恋人としばらく会えない状況になってね、半年ぶりに再会したら……」
「再会したら?」
「その恋人はもう、別の男性との間に子供ができたって、ね。」
「………そ、そんなことが。」
「それが、結局はトラウマになっているんじゃないかな。」
女性不信……ですか。
「ですが、タカヒロ様は私と初めて会った頃は、ローズや他の女性とも普通に接していましたよ?」
「あー、幾分そういう耐性は付いたのかも知れませんね。」
「耐性、ですか?」
「うん、それはまぁ、ママのお陰でもあるんですけどね。でも、もしかするとパパも一目惚れだったのかも。
そもそも、パパは初めて会う女性とお話しするってまずあり得ないんですよ。」
「そういえば、タカヒロ様の奥様、姫神子様のお母様とは、どのような方だったのですか?」
「んふふー、気になりますか?」
「え、ええ。」
それは、気になるに決まっています。
あの人が愛した人。
あの人を愛した人。
ですもの。
「一言でいうとね、サクラさんに似ているかな。」
「私に、ですか?」
「あ、容姿は違いますけどね、雰囲気というか。」
「そう、なのですか……」
「とても厳しく、とても優しく、私もお兄ちゃんも、ママが大好きだった。」
「どうして、その、亡くなられたのですか?」
「えーっとね、流行り病、と言った方がいいかな、それで。」
「流行り病……」
「とある国がバラまいた細菌兵器っていう噂もあるけどね。」
……あの人が、私の素性を明かした時に見せたあの怖い表情。
もしかすると、それは奥様の亡くなった事も関係していたのかも知れませんね。
「ママはね、パパのどこが好きなのか、結局わからなかったって言ってたわ。」
「そ、それは私にもちょっと解ります。何というか、不思議と惹かれる感じで……」
「何というかね、あまり人には伝わらない、普通じゃ気付かない大きな優しさは感じるって言ってた。」
「大きな優しさ、ですか。」
「私もね、それは少し感じるかなって。」
確かに、あの人の優しさは、他の人とは感じ方が違う気がします。
直接的ではなく、もっとこう、深い所から包み込むような、厳しささえも同居した優しさ。
きっとそれは、愛というものの別の形なのでしょうか。
「でも、ママが死んじゃってからは、パパは変わったかも。」
「変わった、ですか?」
「以前のように笑わなくなったし、元気はなかった。この世界に飛ばされる時も、まだそんな感じでした。でも……」
「……」
「今のパパは、以前の感じに戻ったかな。少し見た目が若返ったってのもあるかも知れないですけどね。」
「……」
「それってきっと、サクラさんやローズさんのお陰だと思いますよ。」
「私達の……」
「ねぇ、サクラさん。いいえ、ママ。パパを、ありがとう、そして、よろしくお願いしますね。」
「姫神子様……」
あの時、私がダルシアの凶刃に倒れた時の、あの人の姿を思い出した。
むしろ、あの時は古い傷を抉ってしまったのではないでしょうか。
でも、姫神子様は言う。
「確かに、愛した人を2度も失くすのは辛かったと思いますけど、こうしてママは今、パパのそばに居てくれています。
それだけで、パパは幸せなんだと思いますよ。だから、ありがとう。」
そうであって欲しい。
だって、私もあの人と居るだけで幸せなのですから。
「とはいえ、新しいママがいっぱいいるっていうのは、ちょっとどうなんだろうとは思うけどね。」
それは、確かに……




