Extra-それぞれの視点:教授
――――時は、僅かに遡る。
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『――――――僕は世界に冀う』
――何が、起きている。
今、何が起きているというのだ。
この〝少年〟が、詠唱している言葉は、何だ。
何を唱えている。何を願っている。
早く、始末した方が良い。これは計算でも何でも無い、直感がそう告げている。
その頭蓋を砕かんと、力を込めているのに、その声は止まらない。
『――それは██████████████』
今、この地に集う力の奔流は、何処から来ている?
これは、人間一人の力で為せる程のものではない。
神々の力を借り受けているとするなら、何処の神からだ?
この世界は既に封鎖済み、如何に縁があろうと此処まで強大な力をもたらす神を降ろす程の猶予は無いはずだ。
『――██████████████』
それ以前に。
この少年が唱えている詠唱が〝読解〟出来ない。
どの神に願い、どの神が力を貸しているかすら、分からない。
あらゆる世界の言葉ですらなく、あらゆる世界の意志ですらない。
これは、世界に根ざしていない何かだ。世界を超えた、何かが影響している。
世界に根ざさない神など、ほんの一握りしかいないはずだ。
それら全ては何処にいるかも分からない、何処にあるかも分からないもの。
その名前も、その姿も既に失逸して久しい〝はず〟だ。
そんなものと、そんな化け物と、縁を結んだとでもいうのか。
この人間が、この、少年が。
『██████████████――』
なんだ。これは。
恐怖、畏怖。永く忘れ去ってきた感情がわき上がる。
この私が、数多の英知を追い求め、幾多の叡智を知り尽くした、この私が。
満身創痍の、一人の子供に……その身を呪いで喰い尽くされた、ただの子供に。
――怯えている、だと?
『さあ――掛かって来いよ、クソ野郎!』
――笑った?
この状況下で、贋作としての行動ルーチンか?
いや違う。目は、死んでいない。その目はまるで奈落の底を知ったような。
人の形を保ちながら、何たる目を――
「何……ッ!?」
――突如、放たれた光輝を纏う一撃。これは不味い。
ただの人間と見て軽んじた、ただの矮小な変数だと、甘く見た。
手に持った刀も、そこらの神の力を借りただけのそれ。我々には遠く及ばないと。
その結果がこれだ。
左半身を大きく抉られた。これでは、流石に〝命〟に関わる。
戦闘の続行は不可能、これ以上世界の封鎖も不可。既に今の一撃で、世界を覆った術式にも、大穴を開けられた。
〝管理局〟が、この状況に気づくまで時間は掛からないだろう。
――完全なる敗北だ。
たかだか、人間一人に負けた。勇者にすら成り果てていない、ただの人間に。
「致し方ない……」
だが、見れば第2射はない。
今の一撃で、全てを使い果たしたのだ。最早、燃えカスも同然。
このまま放置したとて、いずれ燃え尽きる。
しかし、その身に宿る光は、今なお輝いている。
――――……手出しすることは敵うまい。
踵を返し、その場を去る。
時が経てば第9神も生まれ出る。そうなれば、此処から立ち去ることすら叶わない。今は、僅かな時間すら惜しい。
「――お然らばだ。ミスター・アメミヤ」
それでも、この少年の〝名〟は知った。
最大の戦果、最大の功果と言ってもいい。今は、それでいい。
名を問うは縁を問う事、名を返すは縁を返す事。
即ちその交差は、結縁の儀に値する。
いずれ、この縁が我々にとって更なる結果をもたらすことだろう。




