Extra-それぞれの視点:冥王
――――時は、僅かに遡る。
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そこは、管理局12部門――終末部。
12世界の冥界に繋がり、12世界の冥府を知る男の領域。
その空には、星が輝いている。
天を埋め尽くす満天の星が、所狭しと光を煌めかせていた。
領域の中央には、冥王の神殿。そのデスクに掛ける男こそ、冥府の主。
今日は急ぎの仕事もなく、少し早いお茶の時間を楽しんでいた。
「……あら、珍しいこともあるじゃない」
男がふと、窓から見上げる。何かの予感が、視線をそこへと走らせた。
普段はそこには何も無い。あらゆる星も、そこでだけは輝くのを避ける場所。
そこに、光があった。
そこに光が宿る時、それは14番目の誰かさんへ祈りを捧げる者がいる事を現す。
幾十年、幾百年と輝くことはなかったのに、と男は思う。
もし、誰かが祈りを捧げてるなら……その誰かは、なんとなく予想がついた。
「――エリントン、エリントンは居る?」
何時もは側に控える男が、今は席を外していた。
故に、呼ぶ。呼んだらアレは直ぐに来る。そう、躾けてある。
「はーい、なんです?」
エリントン、と呼ばれた男は文字通り直ぐに来た。
隣の書庫で書類整理をしていたらしい。手には書類の束がある。
ぼんやりとした顔でふらふらしている。寝不足とは無縁のくせに。
「第9世界の冥界に通信、届くかしら」
この予想が外れてて欲しい。でも、多分当たってる。
そう思いながら、側の男に9番目の世界への通信を頼んだ。
もし通じれば、それでよし。通じなければ――有事だと。
「んー、なんか連絡ですか? 試してみますわ。……あれー?」
「〝届かない〟……そうよね?」
予想は当たっていた。致命的な予想が、当たってしまった。
主君の気を知ってか知らずか、側の男はお気楽顔だ。
「おかしいですね、あそこってめっちゃ勤勉だから夜中に掛けても繋がるのに。代替わり中だからですかね? それともサボり?」
何を馬鹿なことを、と男は思う。
というかバカだ。バカは死んでも治らないし、死ななくなっても治らない。
第9世界の冥界は、それはそれは実直な冥王が治めている。あの世界の人々よろしく、真面目で実直で融通が利かない、それはそれは真っ直ぐな子が治めている。
務め始めて何年かは流石に忘れたが、サボるような利口さはない。
そんな相手との連絡が出来ない、となれば何か異変が起きたと見てもいい。
「ンな事あるわけ無いでしょバカ。じゃあ、すぐアスカちゃん呼んできて」
「はい?」
間抜けな顔して聞き返すな、といっても無理なのは知っている。
不死者というのはこの手の予感に疎い。
死に無縁であるが故に、死に無頓着になる。
だから此処で働ける。そうでもなければ、心を病むというものだ。
男はそれを知っているから、積極的に不死者を雇用している。
だが、状況は予断を許さない。
それなりに縁が深まってきた相手に危機が迫っているのだから。
「忘れたの? 今ユキちゃんがあっちに行ってるのよ。あの子の身が危ないわ」
「……それ、冗談じゃないっすよね」
「そんな冗談言うようになったらアタシも終わりね、急ぎなさい、駆け足!」
側の男を追い出して、もう一度窓の外を見る。
今もなお、その場所には光がある。
寒々しい空間に、ひとつだけ。
「――――アンタ、あの子を連れていく気じゃないでしょうね」
あの子、と呼んだ者の上司が息を切らして現れるまでの数分間。
星見でもないのに、星を眺めて呟いた。




