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棄権します。……って、え?

「お待たせしました。皆様、ゲームはいかがでしたか?」

「最悪だったな」


 間髪を容れずに麦穂が答える。


「皆様にはこれから、ゲームに再挑戦するか、ゲームクリアを諦めるかを選んでいただきます。お時間はいくらでもありますので、皆様でどうされるかを話し合っていただけますか?」


 話し合うまでもなかった。

 みんなの気持ちは決まっている。


「棄権します」


 みんなの気持ちを代弁するように、俺は答えた。

 当たり前だが、異を唱える者は一人もいなかった。


「本当にそれでよろしいですか?」

「いいです」


 俺の返事を聞いて、シフォンさんは全員をゆっくりと見回し、残念そうな顔をした。


「では、今後の流れについて説明させていただきます」


 棄権して終わりじゃないのかと俺は疑問に思ったが、とりあえず黙って話を聞くことにする。


「ゲームを棄権された場合、皆様は元の世界に戻ります。元の世界に戻ってから72時間以内であれば、ゲームに再挑戦できます。ただしその場合、同じメンバー全員でもう一度ここへ来ていただく必要がございます。72時間以内に全員でここにいらっしゃらない場合、正式に棄権となります」


 結局棄権して終わりじゃないかと思ったが、やはり黙って話を聞くことにする。


「正式に棄権となった場合……」


 言いながらシフォンさんが右手を挙げると、その手の先にスクリーンのようなものが現れた。

 この人って実は特殊な能力の持ち主かもしれないと、今さらながら思った。


「……この映像が動画配信サイトを通じて全世界に公開されます」


 スクリーンに映し出されたのは、さっき俺たちがゲームに挑戦していた映像だった。

 俺の身体が変形してお腹の上に顔が現れ、その俺の顔の上におっさんが降ってきて俺の顔がおっさんの尻で潰され、結渚ちゃんの上におっさんが座り、麦穂の頭がおっさんの足で踏まれ、ことりんとチューするような格好でおっさんがことりんに覆いかぶさり、小町さんのお尻に股間を押し付けるようにおっさんが密着し……。


「やぁめぇろおぉぉ!」

「見せるなっ! 今すぐ消せっ!」

「いやですー!」

「うぅ……ひっく……ひっく……」

「♪ふん~ふーん~ふん~」


 俺たちの悲鳴を聞いて、シフォンさんがスクリーンを消す。


「ご心配なさらなくても、全世界に公開されますので、いつでもご覧になれます」


 ありえん。

 鬼畜だ。

 あんなものを公開されたら元の世界に戻ってから生きていけない。

 俺はみんなの方を見るが、一発で全員の心が折れたようだった。

 そりゃそうだ。

 ここは俺が何とかしなくては。

 俺はシフォンさんに抗議することにした。

 それも強めに。

 自分がクレーマーになるくらいの勢いで。


「公開すんなよ!」

「規則ですので」

「誰だよ! そんな規則作ったヤツは!?」

「それはゲームをすべてクリアされた方でないと申し上げることができかねます」

「聞いてないし! 公開するなんて話!」

「聞かれませんでしたので」

「責任者を呼べ!」

「できかねます」

「公開すんなよ! 絶対に!」

「規則ですので」

「……」

「……」


 埒が明かない。

 抗議の仕方がマズかったかもしれない。

 クレームとかいれたことないし。

 言葉が強すぎて反感を買ったかもしれないと思い、今度は下手に出ることにした。


「……あの……何とか考え直していただくわけには……」

「規則ですので」

「そこを何とか……」

「規則ですので」

「あの……何か……公開しなくてすむ方法は……」

「ゲームをクリアしていただければ公開はされません」

「それ以外には……」

「ありません。規則ですので」


 何だ、この堅物は。


「責任者の方と直接お話させていただくわけには……」

「できかねます」

「そこを何とか」

「規則ですので」


 お手上げだった。

 日本の公務員でももうちょっと融通がききそうな気がする。

 強く出てもダメ、下手に出てもダメ。

 だったら、横から行くしかない。

 俺はあんまり関係なさそうな話から攻めることにした。


「シフォンさん、他に何か隠してることってないですか?」

「私はもともと何も隠しておりません。聞かれたことは正直にお答えいたしております」


 本当に正直に答えるのだろうか。

 いくつか試しに質問してみた方がいいかもしれない。

 こういうときは何を聞けばいいんだろう。

 ……。

 …………。

 思い浮かばん。

 よく知りもしない女の人に声かけるなんて、今までずっとなかったし。

 さっきみんなに声かけたのだって、誰かが慰めなきゃマズイと思ったからだし、無茶苦茶緊張したし、話題考えるのに必死だったし。

 世の中のナンパな人たちは、どうやって声をかけてるんだろう。

 世の中のナンパな人たち。

 ……チャラ男か。

 チャラ男になればいいのか。

 チャラ男の知り合いなんていないからどうやって声をかけてるのか分からないけれど、俺は自分の中のチャラ男像を思い描き、できる限りチャラ男になったつもりで話しかけてみた。

 

「シフォンさん、身長、体重、3サイズは?」

「167cm、50kg、上から99.9、55.5、88.8でございます」


 マジで答えやがった。

 もっとも、その数字が正しいのかどうか確かめようがないが。

 もういくつか、プライベートな質問を投げかけてみた方がいいかもしれない。

 それで話が合って仲良くなったら、動画の公開をやめてくれるかもしれない。

 俺は、シフォンさんに質問を続けた。


「結婚してますか?」

「しておりません」

「彼氏いますか?」

「おりません」

「好みの男性のタイプは?」

「おい、お前はさっきから何を聞いている?」


 麦穂に怒られた。

 今回こいつ、立ち直りが早いぞ。

 けど、確かにそんなことを聞いている場合ではなかった。

 あんまり関係ない話から攻めようとは思ったけれど、この質問が動画の公開を止めるような展開に繋がるとも思えなかったし、こんな質問でシフォンさんと仲良くなれるとも思えなかったし、ついでに言うと、これがチャラ男なのかどうかもさっぱり分からなかった。

 何とか、公開されなくてすむ方法を考えなければ。

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