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捜索

 専務の佐藤次郎さんの部屋を出てから、俺たちは佐藤春子さんの部屋へ向とかった。

 春子さんは今朝から姿が見えないとのことだったが、何か手がかりになるものがあるかもしれないと思ったからだ。

 念のためヤスさんがノックをしたが、返事はなかった。

 ヤスさんは夕食の準備があるということで、俺たちを部屋に入れたあと、一人だけ食堂へと向かった。


 残された俺たちは何か手がかりになりそうなものがないかをみんなで手分けして探すことにしたが、女性の物をあさるのはダメだということで、俺は部屋の備品を中心に探すことになった。

 ベッド、机、椅子、パソコン。

 順番に見てみたが、特にこれといったものはなかった。

 手持ち無沙汰になった俺は、部屋の窓からぼんやりと窓の外に見える崖を眺めていた。

 あんなところに崖があると、春子さんは社長を殺害したあと、あの崖から身を投げたんじゃないかと思えてくる。

 空は先ほどと同じように雲ひとつない青空だったが、空の下にある崖は物悲しさを漂わせていた。

 俺の心も、正直、物悲しい。

 ペンションを出て海の方に行けば、砂浜だってある。

 水着回だと思ったのに、どうしてこんなことに。


「お兄ちゃん、サボっちゃダメですよー」


 ひっくり返したバッグの中身を一つ一つ眺めながら、結渚ちゃんが俺に声をかける。


「でも俺さ、もう探すとこないし」

「お兄ちゃんの心がキレイだったらこっちも手伝ってもらうんですけどねー」

「キレイだっつーの」

「……やっぱりおかしい」


 唐突に、小町さんがつぶやいた。


「おかしいって俺がですかっ!?」

「ううん、違うの。ないよね? ケータイ」


 びっくりした。

 俺のことかと思った。


「こっちにもないですよぉ」

「私の方にも見当たらないです」

「あたしのところにもないですよー」


 ケータイがないのがそんなに不思議なことなんだろうか。


「春子さんが失踪したんならケータイ持っていなくなるのって普通なんじゃないですか?」

「違うの、響平君。財布はあるの」

「え?」

「財布は置いたままでケータイだけ持って逃げるなんてあると思う?」

「……お財布ケータイとか」

「でも、財布の中けっこう入ってるよ?」


 言いながら小町さんが夏子さんの財布を開いた。

 俺の場所からじゃよく見えないが、数枚の紙幣が見える。


「小町お姉さまっ! 財布見せてもらっていいですかっ!?」


 お金の匂いを嗅ぎ取ったからか、結渚ちゃんが食いついた。


「……見るだけだよ?」

「もも、もちろんですよー」


 疑わしそうな目で結渚ちゃんを見つつ、小町さんは結渚ちゃんに財布を渡す。


「えへへへー」


 結渚ちゃんは嬉しそうに財布を受け取ると、中を確認し始めた。


「一万円札が三枚、五千円札が一枚、千円札が四枚ですー。あたし、一万円札だけでいいですよー」


 ……何が?

 そんな俺の疑問を知ってか知らずか、結渚ちゃんの右手が素早く自分のポケットへと動く。


「結渚ちゃんさ、分かってると思うけど、そのお金ポケットに入れても持って帰れないから」

「嫌ですねー、お兄ちゃん。そんなの分かってますよー」

「じゃ、何でポケットに入れたの?」

「い、いい、入れてませんよー」

「じゃ、ポケットの中見ていい?」

「セクハラですかー? 性的嫌がらせをするつもりなんですかー?」


 性的嫌がらせって。

 すごく犯罪の匂いがする言葉に聞こえる。


「結渚ちゃん、春子さん帰ってくるかもしれないから、財布に返してあげて、ね?」

「でも春子さん、第二の死体となって発見されるパターンですよー?」

「私もどうせそのパターンだと思うけどな」

「ケータイにダイイングメッセージとかぁ入ってるんじゃなぁい?」

「お前らさ、人が死んでるかもしれないのに、その言い方はなくない?」

「響平君、これゲームだから、ね?」

「それは分かってますけど」

「顔に名前が書いてあるとかいうふざけたヤツらだぞ。人間と思えと言う方が無理だろう」

「それもそうだけど」

「どぉせだったらぁ犯人の顔にも犯人って書いてあればいいのにぃ」

「推理する手間が省けますー」


 こいつら、血も涙もない。

 春子さんを人間扱いしないのなら、俺が春子さんの荷物をあさっても問題ない気がしたけど、女の子の事情みたいなものがあったら厄介なので黙っておいた。

 俺はみんなが春子さんの荷物をあさるのを眺めていたが、ふと思い立って小町さんに聞いた。 


「小町さん、春子さんのパソコンも立ち上げた方がいいですか?」

「あー。でもこっちも終わりそうだから、あとでいいよ」


 結局、手がかりらしいものは何も得られないまま、俺たちは春子さんの部屋を後にした。

 外は暗くなり始めていた。

 夕食までまだ少し時間があったので、俺たちはそれぞれ割り当てられた部屋に行くことにした。

 俺たちの部屋は二階で、空いている部屋を自由に使ってよいとのことだった。

 じゃんけんの結果、西から順に、結渚ちゃん、小町さん、一部屋あいて、ことりん、俺、麦穂と決まった。

 ご飯になったら一階の食堂に集合することにして、俺たちはそれぞれ部屋に入った。


 俺の部屋は、三階の各部屋と同じようなつくりだった。

 多分どの部屋も同じようなつくりなんだろう。

 部屋のクローゼットを開けると、ご丁寧に着替えが置いてあった。

 着替えといっても置いてあるのは今着ている茶色っぽいコートの生地が薄くなって半袖になっているものと、ホテルなんかによく置いてある浴衣みたいな寝巻き。

 茶色っぽいコートにこだわる理由がさっぱり分からない。

 探偵のイメージだからだろうか。

 せっかく置いてあるので、とりあえず半袖のコートに着替えることにした。

 そういえば、ずっと長袖のコートを着ていたのに暑いと思わなかった。

 ゲームの中だけあって、暑いとか寒いとかは特にないんだろうか。

 そっちの方が都合がいいけど。

 やたらとでかいベッドの上でごろごろしていたらご飯の時間になったので、俺は食堂へ行くことにした。

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