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やめたげてよお!

 ゲームは順調に進んだ。

 鳥四羽を倒した後、みんなが嫌がるからおっさん四人も俺一人で倒し、アイドル四人組のKO4もマッチョな男四人組も、俺と小町さんと麦穂の三人で、特にダメージを受けることなく倒せた。

 問題は、ここからだった。

 俺たちは半分開いた城の扉の陰から外の様子をうかがって、敵の動きを探った。


「多分、弱い順に中に入ってくると思うけど、そろそろ強くなってくると思うから、気をつけて、ね?」

「小町お姉さまー、そろそろ人形出した方がいいですかー?」

「そうだね。お願いできる?」

「分かりましたー」


 答えると結渚ちゃんは目を閉じて手を組み、自分の中で強い人をイメージし始めた。


「とぉーっ!」


 変な掛け声とともに、結渚ちゃんの前の空間が歪む。

 その中から現れたのは。


「誰っ!?」


 俺は思わずツッコミを入れた。

 現れたのは大人の女性。

 整ったキレイな顔立ち。

 見事なプロポーション。

 何故かスーツ。

 何デニールか分からないけれど、黒のパンスト。

 ボディラインがやけにエロい。

 パッと見ると、身体まで武器にしてそうな、やり手のキャリアウーマンに見える。

 けれど、誰なのかさっぱり分からない。

 よく顔を見ると、どことなく結渚ちゃんの面影を残しているように見える。

 俺は結渚ちゃんに聞いた。


「これ誰? 結渚ちゃんのお姉さん?」

「違いますよー、お兄ちゃん。強くなった大人のあたしですー」

「結渚、お前、これでどうやって戦うんだ?」

「麦穂でも出しておけばいいのにぃ。ボコボコにされる麦穂見たいしぃ」

「結渚ちゃん、これはさすがに、ね?」

「えー。未来のあたしは強いですよー?」


 強いかどうかは分からないけれど、強さの方向性が間違ってる気がする。


「結渚ちゃんさ、未来の自分に肉弾戦させるの?」

「未来のあたしは肉弾戦だってできますよー」

「お前は将来、メディア王か不動産王になるんじゃないのか?」

「はっ! そうでしたー! 自分では直接手を下さず、汚れ仕事は手下にやらせるんでしたー!」

「どぉすんのよぉ、これぇ?」

「出しちゃったものは、ねぇ……」


 それにしても。

 俺は改めて、未来の結渚ちゃんを眺めた。

 モデルかと思うようなプロポーション。

 胸のあたりがはちきれそうだ。

 しかも、わざとはちきれそうなサイズの服を着てアピールしてるように見える。

 大人になっても色仕掛けとは。

 この子が将来、こんな風になるのか?

 俺は結渚ちゃんと未来の結渚ちゃんを見比べた。

 どう成長しても、こんな風にならないだろ……。

 脳内イメージってすげえな。

 ってゆーか、今のままでもそれはそれで需要がありそうなのに、あえてこんな大人の女性を目指さなくてもいい気がする。


「お兄ちゃん、いやらしい目で見るのはやめてくださいー」

「そんな目で見てないから!」

「響平、お前、誰でもいいのか?」

「違うって!」

「これもコスプレになるのぉ?」

「コスプレから離れろ!」

「響平君はもっとアブノーマルなのがいいんだよね?」

「だからアブノーマルって何なんですかっ!?」


 ぎぃ……。


 不意に扉が開く音がした。

 俺たちは慌てて扉から離れ、距離をとる。

 俺たちの視線を浴びるなか、扉からゆっくりと、四体の木の人形が現れた。

 人形と言っても、背の高さは俺たちと同じくらい。


「さっき見たステータスだとあんまり強くないはずだけど、何やってくるか分かんないから気をつけて!」


 小町さんの言葉に応じて、俺たちは身構える。

 まずは先制攻撃。

 俺は鋼のピザを出して構えた。

 だが、俺が鋼のピザを飛ばすより先に、木の人形が動く。

 木の人形はその場でぷるぷると身体を震わせたかと思うと、その姿を変えた。


「えっ!? 何これっ!?」


 俺は思わず叫ぶ。

 木の人形は四体ともその姿を変え、現れたのは、麦穂、ことりん、結渚ちゃん、そして、俺。


「これ、相手の真似するタイプの敵みたいだね」


 槍の切っ先を敵に向けたまま、小町さんが言う。


「俺たちに、味方と戦えってことですかっ!?」


 いくら敵だと分かっていても、外見は味方。

 それを攻撃するなんて、そんなこと。

 昨日会ったばかりとはいえ、一緒にいくつものゲームに挑んだ味方。

 俺の脳裏に昨日からの出来事が浮かんでは消える。

 落ちゲーでおっさんたちに囲まれて気持ち悪い思いをしたこと、野球ゲームで土下座させられたこと、小町さんの家で正座させられたこと、みんなに汚物を見る目で見られたこと。

 ……あれ?

 ロクな想い出がない。

 で、でも、一応、喜怒哀楽をともにした味方。

 そんな味方を攻撃するなんて、そんなこと。


「そんな! これどうやって戦えばいいんですか!? 味方同士で戦えないですよっ!?」


 だが、俺の叫びは見事に無視された。


「あたしはことりんお姉さまぶちのめしますよー」

「ことりんはぁ麦穂ボコボコにしたいなぁ」

「私は結渚だな」

「じゃ、わたしは残った響平君かな」

「えええぇぇぇぇっ!」


 迷っているのは俺だけらしい。


「小町お姉さまー、お兄ちゃんのとどめはあたしにやらせてくださいー」

「ちょ……」

「ことりんもぉ、響平ボコボコにしたいなぁ」

「え……」

「私も響平殴るんなら手を貸します」

「…………」


 敵の俺、逃げて。


「未来のあたし! やっちゃってくださーい! ことりんおばさんがあたしとかわいさ勝負で張り合おうなんて百万年早いんですよー!」


 結渚ちゃんの掛け声で、未来の結渚ちゃんが敵のことりんを殴りにかかる。


「響平、ことりん武器ないからぁ、それ貸してぇ?」

「…………」


 俺は無言で鋼のピザを手渡した。


「いっつも偉そうなのよ! 脳みそ筋肉女!」


 叫びながらことりんが両手で鋼のピザを持ち、敵の麦穂を鋼のピザで殴りにかかる。

 あの鋼のピザ、けっこう重いと思うんだけど。


「いい加減あざといんだよ! お前はっ!」


 剣を構え、麦穂が敵の結渚ちゃんを斬りにかかる。


「ごめんね! 響平君っ! わたしたちのために死んでっ!」


 槍を構え、小町さんが敵の俺に飛びかかる。


「ことりんおばさんの顔を外に出れない顔にしてやりますっ!」

「あたしに筋肉なんていらないのよっ!」

「お子様はおうちでママゴトでもしてろっ!」


 三人の執拗な攻撃により、よい子にはお見せできないような映像がしばらく続き、敵のことりんと麦穂と結渚ちゃんはぼろぼろになってゆく。

 どうやらこの敵は、外見を真似るだけでステータスを真似る能力はないらしい。

 どちらかと言うと、相手の心理に訴えかけるタイプの敵のようだ。

 敵の俺はというと、小町さんに攻撃され、既に瀕死の状態でうずくまっていた。

 しかし、何故かとどめをささない小町さん。

 嫌な予感しかしない。


「小町お姉さまー、こっち片付きましたよー」

「ことりんもぉ、おっけぇでぇす」

「小町さん、私も終わりました」

「みんな、早いね。誰が響平君のとどめさす?」


 やっぱり。


「みんなで一斉にやりますかー?」

「でも、誰がやってもあと一撃で死にそうだから結局早い者勝ちになるぞ」

「あぁ、ちょっと待ってぇ」


 ことりんは鋼のピザを右手に持ったまま、左手で白衣のポケットを探った。

 そして、手に注射を持つと、


「モぉンブラぁン!」


 言いながら注射を振る。

 みるみると敵の俺のHPが回復してゆく。

 何で「モンブラン」で回復すんの?

 つーか回復させてどーすんの?


「これならみんなでとどめさせるね、ことりんちゃん」

「やめたげてよお!」


 思わず俺は悲痛な叫び声をあげた。


「何だ、響平」

「何だじゃねーよっ!? 何してんだよっ!? お前らはっ!」

「敵倒してるだけですよー」

「普通に倒せばいいだろぉっ!?」

「響平はぁことりんたちよりもぉ敵の方が大事なのぉ?」

「いや、だって! 見た目俺だしっ!」

「見た目が響平君だから倒し甲斐があるんじゃないかな?」

「どういうことですかっ!?」


 俺の制止を無視し、全員が敵の俺に向き直る。

 心なしか、敵の俺が脅えているように見える。

 ってゆーか、明らかに敵の俺は恐怖で震えている。

 やめたげてよお!


「未来のあたしっ! やっちゃってくださいっ! あたしの手下にならないお兄ちゃんが悪いんですっ!」

「早くモンブラン持って来いっ!」

「筋肉が足りないんだよっ!」

「ゲームでチートしないでっ!」


 敵の俺はみんなの手によってぼろぼろにされ、モザイクのような残骸を残して、消えた。

 消える直前、その瞳からは涙が零れているように見えた。


「……可哀相な俺……」

「響平、何言ってるんだ? 敵だぞ?」

「見た目俺だぞ?」

「お兄ちゃん、人を見た目で判断しちゃダメですよー」

「ことりんはぁ人の心を大切にするからぁ見た目なんかに惑わされませぇん」

「お前ら自分の見た目のかわいさで張り合ってだだろっ!」

「響平君、自分で自分を倒すのは精神的にキツイんじゃないかな? だからわたしたちが心を鬼にして響平君の偽者を倒したんだよ? ね?」

「……その割にはみんなすごく楽しそうに見えましたけど」

「どんなことでも楽しむ姿勢って大事なんじゃないかな?」


 ……何ですか、その屁理屈は……。

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