強くなってる
昨日と同じように、ログハウスを出て玉座の前に移動してから、俺たちはジョブを選んだ。
今回もジョブを選ぶと俺たちの見た目が変わった。
俺はピザ屋のユニフォーム。
どんなのになるんだろうと思っていたら、青のポロシャツに青の帽子。
下は黒のジーンズ。
ピザ屋なのか? これは。
ピザ屋と言われればそんな気もするけれど、ピザ屋だと言われないと分からない。
身分証でも入っているのかと思いポケットを探ると、回復用の石とハンカチが出てきた。
ハンカチとか何に使うんだよ。
まさかこれで鋼を磨けとでもいうのかー!?
それともピザを触ると手が汚れるから手を拭けとでもいうのかー!?
まぁいいや。
ハンカチを使うことなんてなさそうだし。
身分証も見当たらなかったので、本当にピザ屋の格好なのかよく分からないまま、俺は回復用の石とハンカチをポケットにしまう。
剣使いの麦穂と槍使いの小町さんは、前回と同じ格好だった。
二人とも昨日より着こなしている印象を受ける。
「ことりんってぇ白衣似合うかもぉ」
白衣姿のことりん。
白衣といっても、色はピンクだけど。
ピンクの白衣を身にまとうその姿は、医者ではなくてナースに見える。
ってゆーか、どう見ても医者の白衣じゃなくてナースの白衣だよな、これ。
ナースキャップまでかぶってるし。
「ことりん、それ医者じゃなくてナースじゃね?」
「えぇ? そうなのぉ?」
「医者の白衣とは形も色も違うし、ナースキャップもかぶってるし」
「そんなこと言われてもぉ鏡ないから見えないしぃ」
言いながらことりんは、白衣のポケットを探る。
出てきたのは注射だった。
「何で注射?」
「鏡ないかなぁって思ったんだけどぉ注射しか入ってなかったぁ」
「メスもないの?」
「えぇぇ!? ないよぉ!?」
やっぱりナースだ、これ。
でも、癒し系っていうジョブだから、別に医者じゃなくてもいいのか。
「ことりんお姉さまー、大変ですよー。コスプレ好きの男子高校生がいやらしい目でじろじろ見てますよー」
「そんな目で見てないから!」
「自分のこと言われてるって自覚はあったんですかー?」
「男子高校生って俺しかいないから!」
「コスプレ好きは否定しないんですかー?」
「するし!」
「いいんですかー? 自分に正直にならなくてー?」
笑顔で俺にツッコミを入れてくる結渚ちゃんは、何故か着物姿だった。
ピンクを基調とした生地で、左肩や腰より下の部分に赤や紫の花柄をあしらってある振袖の着物。
着物はよく知らないけれど、高そうだと感じる。
こんな高そうな着物を着て戦っていいのかな。
「結渚ちゃん、何で着物?」
「知らないですよー。人形遣い選んだらこの格好になっちゃいましたー」
「動ける? その格好で」
「普段着物なんて着ないから動きづらいですー」
そう言うと結渚ちゃんは、両腕を広げてその場でくるりと回ってみせたが、上手く回れず、その場でよろけて転びそうになった。
「おっと」
転びそうになった結渚ちゃんを麦穂が受け止める。
「麦穂お姉さまー、ありがとうございますー」
「何だ、結渚、その格好は。七五三か?」
「し……!? い、嫌ですねー、麦穂おばさんー。これは成人式ですよー」
「ことりんテレビで見たよぉ。二分の一成人式とかいうのでしょぉ?」
「な……!? こ、ことりんおばさんは治療する側じゃなくて治療される側ですよねー。もちろん頭ですよー」
「はははは」
「えへへへー」
「えへへぇ」
こいつらを見てると昨日このゲームで殺されたのを忘れそうになるから困る。
俺は先ほどの結渚ちゃんの動きに見かねて声をかけた。
「結渚ちゃんさ、草履脱いだ方がいいんじゃない?」
「何でですかー? お兄ちゃんは草履で踏まれるより足袋で踏まれる方が気持ちいいんですかー?」
「今回魔法少女じゃないから俺を豚にできないだろ」
「お兄ちゃんがどうしてもって言うなら踏んであげますよー」
「言わねえし。ってゆーか、それ歩けるの?」
「歩きにくいけどかわいいからこのままで行きますー」
「うーん……。でも、危なくなったら草履脱いで走らなきゃダメだから、ね?」
「分かりましたー、小町お姉さまー」
俺たちの準備が整った。
「皆様、準備はよろしいですか? それでは、始めます」
こうして、俺たちの二回目の挑戦が始まった。
作戦は単純だった。
昨日の経験と、ゲームということを合わせて考えると、多分、弱い順にしか敵に遭遇しないはず。
というわけで、基本的には待って、襲ってきた順に倒す。
ただし、玉座の前で待ち続けると最後の方の敵が一気に攻めてくる可能性があるから、敵の見えるところまで移動して待つ。
さらに、今回は俺が遠距離攻撃を積極的に仕掛けて、近接戦闘をする前にできるだけ敵のHPを削る。
昨日俺たちが負けた敵と、勇者・戦士・僧侶・魔法使いのパーティー以外はこれで何とかなりそうだった。
残りの二組は、俺と結渚ちゃんのジョブの能力が分かってから改めて考える。
というわけで、実はノープラン。
よくこれでみんなもう一回このゲームやろうと思ったな。
俺たちは玉座から離れ、王の間を出て廊下を歩き、階段の横を通ってテラスへと向かう。
「ここで待ってれば、テラスに昨日の鳥が出てくると思うんだけど」
つぶやくように小町さんが言う。
俺は手の平を上に向け、手の平の上にピザが出てくるのをイメージした。
すると本当に、手の平の上に、30cmほどの鋼のピザが現れた。
見た目は確かにピザだったが、触ってみると硬い。
これで殴られたら痛そうだった。
ってゆーか、これ、ピザじゃなくて円盤でいいじゃん。
何でわざわざピザにしたんだろう。
しかもこのピザ、手の平の上に浮いてるし。
どうやって投げるの? これ?
このピザつかんで投げればいいのか?
手の平の上に浮いてる円盤を見てると、ボールを七個集めると龍が出てきて願いをかなえてくれる漫画のアレを思い出す。
地球人最強のハゲが使う必殺技、気¥斬。
気¥斬みたいな感じで飛ばせばいいのかな。
「来たよ!」
小町さんに言われて窓の外を見ると、昨日と同じように四羽の鳥がその姿を現した。
「みんな準備いい?」
「私は大丈夫です」
「ことりんもぉおっけぇでぇす」
「俺も大丈夫です」
「えぇー!? まだ人形出してないですよー!?」
「今回は人形出さなくても大丈夫だと思うから、ね? じゃ、行くよ?」
言い終わるやいなや、小町さんが窓ガラスを蹴って開けた。
昨日と同じように、巨大な鳥が四羽こちらに向かって突っ込んでくる。
まずは、俺が遠距離攻撃を仕掛ける。
俺は手の平の上に浮いている鋼のピザを気¥斬みたいなイメージで、先頭を走る鳥に向かって飛ばした。
俺の飛ばした鋼のピザは鳥の頭にクリーンヒットし、鳥はモザイクのような残骸を残して消えた。
……え?
俺って敵倒せるの?
予想外の出来事に、小町さんと麦穂が固まった。
気持ちは分かる。
俺だって固まってる。
だが、敵は待ってはくれない。
残った三羽の鳥がこちらに向かって突進してきた。
小町さんと麦穂は気を取り直して敵に向かい、それぞれ敵を一体ずつ倒していく。
残った一体は、俺が新しい鋼のピザを飛ばして倒した。
初戦、終了。
二体も倒してしまった。
何でだろう?
だが、状況が飲み込めていないのは俺だけではなかった。
驚いた表情で、全員が俺を見つめていた。
「何で響平が敵を倒せるんだ?」
「響平が役に立つとかぁ信じられなぁい」
「響平君、ピザって強いの?」
「お兄ちゃんが敵二体も倒すなんてありえないですよー」
「いや……こっちが聞きたいんだけど……」
「おかしいぞ、お前」
「ホントにこれってぇ響平なのぉ?」
「響平君、双子の兄弟いない?」
「お兄ちゃん、これ本物ですか? 中の人入れ替わってないですか?」
「……何か、ヒドイ言われようじゃ……」
ただ、みんなが疑問を抱くのも分かる。
俺だって信じられない。
昨日は一人で倒した敵なんて一体もいなかったから。
「うーん」
唸りながら、小町さんが俺のステータスを見た。
「やっぱり! 響平君、おかしいよ!」
「え!? 何がですか?」
「昨日より強くなってる!」
「嘘!?」
「昨日響平君って、HPが100で攻撃力も防御力も素早さも50しかない、役立たずで足引っ張るだけのゴミとしか言いようがないパーティー組むのはお断りって言いたくなるような雑魚キャラだったんだけど、今のステータスだと、HPが148で、あと全部100になってる!」
「ええぇ!?」
俺は、自分でもステータスを確認した。
確かに小町さんの言うとおりだった。
何故かは分からないが、強くなってる。
本当に何でだろう。
というか、さりげなく小町さんにヒドイ暴言を浴びせられた気がするんですが。
「響平、お前どんなズルしたんだ?」
「ことりんはぁ、正々堂々とやらないのはぁよくないと思いまぁす」
「お兄ちゃん、スーパーハッカーとかそういうのですかー?」
「響平君、チートはさすがに……」
「ちょ……何にもしてないから!」
「なら何でお前は強くなってるんだ?」
「俺に聞かれても……。つーか、麦穂は? ステータス変わってないの?」
「私は……」
言いながら麦穂は自分のステータスを確認した。
「多分、変わってないな」
「あたしもですー」
「ことりんもぉ昨日と同じぃ」
「わたしも昨日と同じかな」
みんなの視線が俺に集まる。
「ジー」という音が聞こえてきそうな疑いの眼差し。
「あの……本当に俺は知らないんですけど……」
自分が強くなったなら喜ばしいことのはずなのに、何で弁明しなきゃいけないんだろう……。
「うーん……。もしかしてだけど」
小町さんが首を傾げながら話し出す。
「響平君レベル上がったんじゃない?」
「レベル? このゲームレベルあるんですか?」
「ステータスにはレベルって表示されてないけど、強くなったんならそれくらいしか可能性ないと思うし」
「でも俺、経験値がたまるほど敵倒してないですよ?」
「そうなんだよねえ」
「小町お姉さまー、だったら何であたしのレベルは上がってないんですかー?」
「うーん……。響平君が弱すぎてレベルが上がりやすかったとか? レベル1の人とレベル100の人じゃ、レベルの上がりやすさが違うから」
「でもぉ、それでことりんより強くなるとかぁおかしいしぃ」
「確かにそうだよね。レベル上がってもことりんちゃんのステータス抜いちゃうっていうのはねえ……」
何だこの俺がことりんより強くなっちゃダメみたいな空気は。
「響平、お前、ステータス上がってるんなら違うジョブにすればよかったな」
「あぁ、確かに」
このくらいのステータスなら他のジョブでもよかった気がする。
って、もう手遅れだけど。
「とりあえず、響平君が強くなったのは助かるから、響平君は積極的に遠距離攻撃仕掛けて、ね?」
「分かりました」
何かちょっぴり頼られてる気がする。
このゲーム始まってから初めてだ。




