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再挑戦

 23時58分。

 昨日の夜と同じように、「異世界に行ける睡眠アプリ」の音楽を聞きながら俺は布団に入った。

 集合時間は24時。

 昨日の感じだと、このアプリの音楽を聞くとすぐに眠りにつきそうだし、シフォンさんの話だと、こっちの二分が向こうの一時間くらいとのことだから、少し早いかもしれない。

 けれど、着くのが最後だと怒られそうなので、俺はアプリの音楽を聞きながら眠りについた。

 音楽が聞こえ、意識が遠のいて――


「お?」


 次の瞬間、見慣れたログハウスの中にいた。

 一番乗りかと思ったら、すでに小町さんが椅子に座っていた。


「早いですね」

「うん。響平君も」

「二日酔いは大丈夫ですか?」

「まだちょっと頭痛いけど、大分よくなったから多分大丈夫だと思う」


 ぶ……ん……。


 ノイズのような音がして近くの空間が歪んだかと思ったら、唐突に麦穂が現れた。

 ここに人が現れるの初めて見るけど、ちょっと怖いな、これは。

 それからややあって結渚ちゃんが現れ、最後にことりんが現れた。

 というわけで、全員で机を囲み、昼間の話し合いの続きが始まった。


「みんな、もう一回やるってことでいいのかな?」

「もちろんですー。やりますよー」

「ことりんはぁ、みんながどおおおおぉぉぉぉぉしてもやりたいって言うならぁやってもいいけどぉ」

「私は勝てるなら」


 みんな昼間と同じ意見だった。


「で、お兄ちゃん、勝つための秘策は思いつきましたかー?」

「あぁ、それなんだけど」


 俺は大きく息を吸い込むと、天井に向かって叫んだ。


「シフォンさーーん!」


 コンコン。


 ノックの音がして、ドアが開く。


「お呼びでしょうか」

「やっぱり。呼んだら来ると思った」

「? 響平、どういうことだ?」

「今までシフォンさんが毎回やたらいいタイミングで来てたから、どこかで見てるんじゃないかって思って」

「ええぇぇ!? ことりんたちのぞかれてたってことぉ?」

「のぞいていたのではありません。監視です」


 事務的な口調でシフォンさんがことりんの言葉を否定する。

 のぞきも監視も同じようなものだと思うけど。

 早速俺はシフォンさんに声をかけた。


「で、シフォンさん、いくつか質問いいですか?」

「どうぞ」

「昨日のゲームのデータって見れないですか?」

「どのようなデータでしょうか」

「敵のステータスとかなんですけど」


 俺の言葉を受け、シフォンさんは手の平を上にして右手を掲げる。

 手の上に映像が浮かび上がり、敵のグラフィックとステータスが一覧で表示された。


「見れるのかよ!」


 思わず俺はツッコミを入れる。


「聞かれませんでしたので」

「……あの、シフォンさん、俺まだ何で教えてくれなかったんですかって言ってないんですけど……」


 こっちの心を読むのはやめてほしい。

 俺は改めて敵のステータスを見た。

 四体で一グループ、全部で十グループだから、計40体のステータスが表示されている。

 最初に倒した鳥とおっさん、アイドルのKO4とマッチョの男のグループはあまり強くないキャラのようだ。

 そして、俺たちが負けた敵はかなり強い。

 こりゃ負けるわけだ。


「私たちが倒したのは、弱いヤツらばかりだったということか」


 ため息混じりに麦穂が言う。


「でも、本気で強いのって、わたしたちが負けたのと、勇者・戦士・僧侶・魔法使いのパーティーの二つだけなんじゃないかな」


 確かに、小町さんの言うとおりだった。

 ドラゴンみたいのとか羽の生えたライオンみたいのもいるけれど、パーティーの他のメンバーを見ると何とかなりそうな気がしなくもない。


「シフォンさん、ジョブの一覧も見せてもらっていいですか?」


 俺の求めに応じて、画面がジョブの一覧へと切り替わる。

 表示されているのは前と同じで「剣使い、槍使い、弓使い、肉体派、火使い、氷使い、癒し系、魔法少女、人形遣い、料理人、ピザ屋、芸人」。

 昨日も確認せずに始めてしまったから、今度はちゃんと聞いておいた方がよいと思う。

 俺はシフォンさんに聞いた。


「シフォンさん、氷使いってどうやって氷出すんですか?」

「寒い言葉を言うと氷が出せます」

「寒い言葉ってどんなのですかー?」

「『高校デビュー』とかじゃないか?」

「古傷えぐるのやめて」

「今の傷でしょぉ?」

「分かってるんならもっとやめて」

「じゃー、『筋トレ王』とかならいいですかー?」

「それ言ったの俺じゃなくて結渚ちゃんだろ?」

「目指してるのはお兄ちゃんですよー」

「目指してないから」

「よかったね、響平君。天職が見つかったみたいで」


 みんなの俺に対する態度は十分氷が出てると思うんですが。


「シフォンさん、わたしからも質問なんですけど」


 今度は小町さんがシフォンさんに聞く。


「人形遣いっていうのはどんなのなんですか?」

「イメージした人間が現れて、その人間が人形遣いの人形となって、代わりに戦います」

「どんな人間をイメージしてもでもいいんですか?」

「はい」

「人形の強さはどのくらいですか?」

「人形のイメージの元となった人間に合わせて強さが変わります」


 召喚士みたいなものだろうか。

 それって、地味に強くね?


「小町お姉さま、これ強いんじゃないですかー? 強い人間イメージしていっぱい人形作ったら勝てるんじゃないですかー?」

「でもぉ、強い人間って言われてもぉことりん思い浮かばないしぃ」

「格闘技の選手とかでいいんじゃないか?」

「響平君、格闘技の選手って誰か分かる?」

「いや、俺、格闘技分かんないです」

「格闘技以外でも強い人って誰かいないんですかー?」

「「「「「…………」」」」」


 誰も知らないとは。


「麦穂をいっぱい出してぇ突っ込ませればいいんじゃなぁい?」

「お兄ちゃんよりは強いですよー」

「確かに、そうかもね」


 くそう。

 否定できない。


「私を人形にするのはいいが、人形はどうやって戦うんだ?」

「肉弾戦になります」

「うーん……」


 シフォンさんの答えを聞いて、小町さんが唸る。

 人形に戦わせれば痛い思いしなくてすむかもしれないけれど、肉弾戦だけだと微妙だ。

 俺は残りのジョブについても順番に聞くことにした。


「シフォンさん、料理人はどうやって戦うんですか?」

「料理人は、包丁を投げて戦います」

「えぇっ!? それ料理人なんですか!?」

「はい。包丁を使いますので」


 包丁使うだけじゃん。


「あの……ピザ屋は……?」

「ピザ屋は、鋼のピザを投げて戦います」

「鋼のピザって何ですかっ!?」

「鋼でできたピザです」

「それ、ピザなんですか?」

「ピザの形をした鋼と言った方が正確かもしれません」

「それ、ピザ屋になるんですかっ!?」

「武器がピザの形をしていますので」

「…………」


 目茶苦茶だよ、もう。


「げ、芸人は……?」

「芸人は、スライディングをして戦います」

「何でスライディングなんですか?」

「滑るってことじゃないかな?」

「あぁ」


 ……って、納得してどうする。


「料理人とピザ屋って、けっこう強いんじゃないか?」

「弓使うよりもぉ包丁とかピザとか投げる方が敵に当たりやすそうだしぃ」

「お兄ちゃん、ピザ屋さんいけますよー!」

「え? 俺がやるの?」

「でも、遠距離攻撃できるジョブが他にあるのは分かってよかったかも。昨日はそれで苦戦したしね」


 小町さんの言葉に、俺も納得する。

 全部接近戦に持ち込まなきゃいけないとなると、さすがにキツイ。

 あとは誰がどのジョブを選ぶかだ。

 だが、その前に。


「シフォンさん、包丁とピザって投げるとどうなるんですか? 手元に返ってくるんですか?」

「戻ってきません。新しい包丁やピザを、HPを消費して作り出すことになります」


 魔法みたいな扱いか。


「人形も同じですか?」


 今度は小町さんが質問をする。


「はい。人形もHPを消費することでいくらでも作り出すことができます」

「HPはどれくらい減るんですか?」

「人形の場合は、一体作り出すごとにHPが半分になります」

「は、半分?」

「はい、半分です」

「包丁とピザは?」

「一つ作るごとにHPが1減ります」


 包丁とピザがすごくお得に感じる。


「あ、シフォンさん。俺からもう一個」

「はい?」

「俺、昨日『手術』って言わなくても回復できた気がするんですけど」

「はい」

「もしかして『手術』って言わなくても回復できるんですか?」

「できますよ」


 できるのかよっ!


「何で『手術』って叫べって俺に言ったんですか?」

「『手術』と叫びながらメスを振ると回復すると申し上げましたが、回復するときには必ず『手術』と叫ぶ必要があるとは申し上げておりませんので」

「何か、すごい屁理屈のように聞こえるんですけど」

「十分条件と必要条件の違いです」


 ……何の話ですか、それは……。


「よく分かんないですけど、叫ばなくてもメスを振れば回復するってことですか?」

「いえ。メスを振るだけでは回復はできません。魔法の根幹にはイメージが必要なんです。誰かを回復させたいと願っても、実際にその人を回復させるイメージを持つのは、皆様には困難なことではないかと思われます。そこで、回復するイメージに一番近い『手術』という言葉を皆様にご案内いたしました。ですが、本当にその人を回復させたいという強い想いがあれば、その想いがイメージとなりますので、メスを振るだけで回復ができるようになっております」


 分かるような分からんような。


「え……っと、昨日は俺が本気で回復したいって思ったから、メスを振るだけで回復できたってことですか?」

「平たく言えば、そういうことになります」

「あの、じゃ、火を出すときに熱い言葉を叫べって言うのも同じですか?」

「はい。本当に火を出すイメージがあれば、竹刀を振るだけで火が出るようになっております。ですが、火が出るイメージが持ちづらいと思われるため、イメージを補助するために熱い言葉を叫ぶようにご案内いたしました」

「『手術』って言わなくていいならぁ、ことりんはぁ回復役やるよぉ? もともとことりんって癒し系だしぃ」

「ことりんちゃん、人が回復するイメージって持てる?」

「いつものことりんのままでいいってことでしょぉ?」

「いつものことりんお姉さまだと、馬鹿な男しか回復しなさそうですよー」

「響平はいいかもしれないけどな」

「俺、ことりんに癒されたことないんだけど」

「そういうこと言うならぁ響平は回復してあぁげなぁい」

「え、ことりんが回復役やるの決定なの?」

「まぁ、本人もやりたがってるし、いざとなったら『手術』って言ってもらえばいいから、ね?」


 「手術」って言ってくれるのかなあ……。


「わたしと麦穂ちゃんは昨日と同じでいいかなって思うんだけど、響平君と結渚ちゃんはどうする?」

「あたしは魔法少女がいいですー」


 魔法少女にこだわるなあ、この子。


「結渚ちゃんさ、そんなに魔法少女好きなの?」

「だってかわいいじゃないですかー。ふりふりの服ですしー。しかもお兄ちゃんの好きなコスプレですよー?」

「コ、コスプレは忘れてっ!」

「結渚ちゃん、昨日敵にあんまり効かなかったから、別のに、ね?」

「えー。でも、あたしそんなに攻撃力高くないですよー?」

「防御力なら高いんだから、前に出てみんなの盾になればいいんじゃないか?」

「イヤですよー。痛そうですしー」

「さすがに結渚ちゃんを前に出すのは、ね?」

「料理人かぁピザ屋でいいんじゃなぁい?」

「でも結渚ちゃんってさ、攻撃力弱いだろ? 遠距離攻撃もあんまり向いてないんじゃない?」

「結渚、やっぱりお前は人形遣いやれ」

「あたし強い人とか知らないですよー」

「麦穂でも出してぇ突っ込ませればいいからぁ」

「むー。包丁投げるよりはそっちの方がいいですけどー」

「じゃ、結渚ちゃん人形遣いで、ね?」


 これでみんな決まった。

 俺以外は。


「響平、お前は何にするんだ?」

「うー……ん」


 俺のステータスだと、どれを選んでも微妙なのは変わらない。

 しかも今回、回復役もとられたから、ますます選べるジョブがない。


「ピザ屋さんでいいんじゃないですかー?」

「敵に突っ込ませてもやられるだけだしな」

「火とか氷とかもぉ響平だと出せそうにないしぃ」

「響平君、ピザ屋さんと芸人さんとどっちがいい?」

「その二択なんですかっ?」

「だって響平君、包丁握ったことないでしょ?」

「ピザ投げたことだってないですよ?」

「ピザじゃなくて鋼だと言っていただろう」

「鋼だって投げたことないからっ!」

「じゃー、あたしと一緒に人形遣いやりますかー?」

「それもちょっと……」

「響平はぁ、何ならできるのよぉ?」


 みんなの視線が突き刺さる。

 できそうなものがないから困ってるのに、できるものを聞かれても。

 結局、俺はピザ屋になった。

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