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今度は野球ゲーム その6

 試合が終わり、俺たちは初めの部屋まで戻された。

 俺は椅子に座り、そのまま机に突っ伏した。

 さすがに疲れた。

 正直、もうここでゲーム棄権して帰りたい。

 変なゲームばっかりやらされるし。

 どうせみんな冷たいし。

 元はと言えば、異世界に行ってハーレムを作るはずだったのに、どう考えてもハーレム展開になんてなりそうにないし。

 もう異世界行くとかハーレム作るとかそんなことは考えず、残りの高校生活は誰ともからまずに一人寂しく便所飯しながら過ごします。

 体育の授業で「2人1組作れ」とか言われるたびにお腹痛いふりして保健室行きます。

 いや、その前にそんな思いしてまで高校行く必要なくね?

 大学行くんだったら高認って道もあるし。

 むしろグレて高校中退って設定にした方が箔が付いていいんじゃね?

 で、そこから高認でいい大学行った方がサクセスストーリーとしてはかっこいい気がする。

 よし。

 高校辞めよう。


「……君?」


 高校辞めてどうしようか。

 まずグレるところからだ。

 グレるって何すればいいんだろう?

 盗んだバイクで走り出したり、夜の校舎窓ガラス壊してまわったりすればいいんだろうか。


「……君? 響平君?」


 名前を呼ばれて顔を上げると、小町さんが俺の顔をのぞきこんでいた。

 間近で見て改めて思う。

 この人、やっぱりかわいい。


「大丈夫? 響平君」

「大丈夫です。ちょっと疲れただけです」


 さっきは小町さんの鬼畜な一面を見てしまったが、俺のことを心配して声をかけてくれる。

 かわいくて優しい。

 さすが女子大生のお姉さま。


「で、ボロ負けだったが、対策は思いついたのか?」


 小町さんに見とれていた俺に麦穂が話しかけてきた。


「え? 対策?」

「対策だ。普通にやっても勝てそうにないだろう」

「まぁ、そりゃそうだけど」

「まさか何も思いつかないままやられっ放しだったんじゃないだろうな」

「え……と……」

「おい。それじゃ何のために一試合お前に預けたか分からんだろう」

「ちょっと待て。そんな話聞いてないぞ」

「言わなくても分かるだろう。スポーツ漫画とかだとよくあるというのに」


 あるか? そんなの?


「とりあえず、強振とストレートだけじゃ勝てないことは分かった」

「当たり前だ。もっと実戦的なのがあるだろう。どのバッターがどのコースに強いかとかどの球種に弱いかとか、このカウントだと相手はこの球を待つ傾向があるとか、向こうのピッチャーのクセとか変化球の精度とか」

「強振とストレートだけじゃそこまで分かんないだろ」

「じゃ、お兄ちゃん、今度はミートと変化球でもう一試合やってくるしかないですねー」

「やめて」


 結渚ちゃんの言葉に、思わず俺は泣きそうになりながら答える。


「でも響平、お前途中から普通に打ってただろう。何かコツでもつかんだか?」

「やってるうちに慣れたな」

「慣れないと厳しいか」

「目つむってプレイヤーに任せても打てるときあったし、プレイヤーのバッティングがよかったらそれでもいけるかも」

「そうか」


 俺の言葉を聞いて麦穂は少し考え込み、ややあって口を開いた。


「思ったんだが、熊のぬいぐるみにやらせずに、プレイヤーをプロ野球選手にしてみんな目をつむってやれば勝てるんじゃないか?」

「…………」


 何で気付かなかったんだろう。

 その手があった。

 野球をやるのに、選手を熊のぬいぐるみにした時点で間違っていた。

 誰だよ、熊のぬいぐるみにしようとか言ったヤツ。

 ……俺だった。


「……じゃ、それで」

「響平君、それならわたしたちは目つむってるだけで勝てるってこと?」

「お兄ちゃん、本当に勝てるんですかー? 翌日冷たくなってベンチで発見されたり、病院内で静かに息を引き取ったりしなくていいんですかー?」


 俺の返答に、小町さんと結渚ちゃんが心配そうな声をあげる。


「勝てるかどうか分かんないけど、一流選手そろえれば多分大丈夫だと思う」


 答えながら俺は疑問に思った。


「ってか、みんな野球の試合続けるの?」

「勝てるのなら当たり前だろう」

「あたしは一億円欲しいですしー」

「棄権したらあの動画公開されちゃうから、ね?」


 意外にもみんなやる気らしい。

 ただ一人、ことりんを除いては。


「お兄ちゃんがことりんお姉さまの機嫌を損ねたんですから、お兄ちゃんが何とかしてくださいー」


 結渚ちゃんに言われなくても分かってます、はい。

 俺は一人離れたところに座っていることりんに視線を送る。

 ことりんはほっぺを膨らませたままそっぽを向いていた。

 あのほっぺはいつから膨らんでいるんだろう。


「ことりん…………さん……?」


 俺はことりんに声をかけるが、ことりんからのリアクションはない。


「この度は、申し訳ありませんでした」


 やっぱり、ことりんからのリアクションはない。


「あの……今度モンブラン1個おごりますんで……」


 ぴく。

 ことりんの顔が少し反応した気がする。


「……モンブラン1個ごときでぇ……」


 実はモンブラン欲しいんですと言わんばかりの声をことりんが出す。

 もう一押しかもしれない。


「2個」

「2個ぉ?」

「3個」

「3個ぉ?」

「……10個」


 ことりんのほっぺの膨らみが消える。


「今回だけだからねぇ」


 買収完了。

 思ったよりチョロかった。

 こうして、俺たちは再試合に挑むことになった。

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