今度は野球ゲーム その5
攻守交替し、俺たちが守備につく番だったが、ベンチ内では女の子4人に土下座している哀れな男がいた。
もちろん俺だった。
土下座している俺を冷たい目線で見下ろしながら麦穂が言う。
「お前は本当に反省してるのか?」
「反省してます。申し訳ありませんでした」
ことりんはほっぺを膨らませたままこっちを見ようともしなかった。
「ことりん様。誠に申し訳ありませんでした」
俺の謝罪の言葉すら受け取ってもらえない。
「響平君、女の子に140kmのボールに当たりに行けって言うのはさすがにどうかと思うよ?」
「おっしゃるとおりです」
「それもみんなで話し合って決めたんじゃなくて、響平君が勝手にボタン押すなんて」
「返す言葉もございません」
小町さんのお説教が俺を締め付ける。
「お兄ちゃん、あたしも怒ってるんですけど」
「本当にごめんなさい」
「許してほしいですかー?」
「はい。許してください」
「お兄ちゃんが一億円くれるんなら許してあげてもいいですけど。あ、そういえば、このゲームクリアしたらちょうど一億円もらえるんでしたっけー? 不思議な偶然ですねー。ちらっ。ちらちらっ」
結渚ちゃんのお金への執着が一番マシに聞こえる。
「で、こっちの守備だぞ。どうするんだ?」
俺は顔を上げてみんなを見るが、相変わらず俺に注ぐ視線は冷たかった。
「と、とりあえず最初は俺が……」
「よし、行け」
麦穂の言葉を受けて、小町さんがストレートのボタンを押す。
次の瞬間、俺は熊のぬいぐるみが握るボールになっていた。
ピッチャーが投球動作に入り、キャッチャーミットめがけて俺を投げる。
自分がボールになって熊のぬいぐるみに投げられるとか、考えてみれば無茶苦茶だった。
このゲーム考えたヤツはやっぱりアホなんじゃないだろうか。
とりあえずど真ん中にいくと打たれそうなので、外角低めにいくようにイメージする。
ボールになった俺の身体がピンポイントでアウトローに決ま――
「うおぃ!」
急に目の前にバットが出てきて、ボールになった俺の身体をぶん殴る。
俺は激しく飛ばされ、左中間に転がり、バッターランナーは2塁へ向かう。
初球を打たれてツーベース。
審判がタイムを宣告したところで俺の意識はベンチへと戻った。
「打たれたな」
「びっくりした。急にバットがきたので」
「痛くはないんだろう?」
「痛くはなかったけど、すげーびっくりした。今までの人生でバットでぶん殴られたことないし」
バッターボックスを見ると、次のバッターは早くもバントの構えをしていた。
「次のバッターにバントさせないために変化球いきたい……ん……だけ……ど……」
俺に注がれる視線があまりにも冷たいので、俺は途中から口ごもる。
「響平。お前は、私たちにバットでぶん殴られてこい、と?」
「いや……でも、痛くない……です……し……」
「響平君、さっきの反省してるって言葉は嘘だったのかな?」
「嘘じゃない……んですけど、試合には勝ちたい……で……すし……」
「お兄ちゃん、あたしだけは味方ですよー。あたしが行ってあげますよー」
「え、結渚ちゃんいいの?」
みんな冷たいから、結渚ちゃんが天使に見える。
「いいですよー。……あ、でも野球界において誠意はお金らしいですよー。お兄ちゃんの誠意見たいですねー。ちらっ。ちらちらっ」
「……俺がもう一回行ってきます……」
こうして、攻撃のときも守備のときも、すべて俺一人でやることになった。
攻撃のときはすべて強振なので、バットにあまり当たらない。
自分がバットコントロールを意識しなければプレイヤーが自動で調節するとシフォンさんが言っていたので、バットになった俺は目をつむり、プレイヤーにまかせるというのを試してみたのだが、やっぱりあまり当たらない。
たまに当たっても、みんな強振なので打線が繋がらない。
それでも、やっているうちに恐怖感はなくなり、ホームランを打ったり、打線が少しだけ繋がって、何点かとることができた。
しかし、守備の方はどうにもならなかった。
全球ストレート勝負。
しかも球が遅い。
バックスクリーンの電光掲示板を見ると、62kmだった。
いくらなんでもそりゃ打たれる。
打たれるたびにボールになった俺はフィールドを転がり、ピッチャーに投げられてはまた打たれ、またフィールドを転がり、といったことを何回繰り返したか分からない。
気のせいだったと信じたいが、途中で泣いていた気がしなくもない。
そして、3回終了時点で20点差、5回終了時点で15点差、7回終了時点で10点差がついていたらコールドというルールのため、3回表の俺たちの攻撃が終わった時点で試合は終わった。
33 - 4。
3回コールド負け。
ボロ負けだった。




