時を運ぶ馬車
タケシがサラディアを拝領して4ヶ月。商会の呼びかけが功を奏して、帰郷する者の数が増えてきた。
数棟の長屋はいっぱいになり、さらに建築中だ。
全員役所で登録し、職を与えた。
自分で屋台や露天を始める者も出始め、城趾の周りには、わずかずつ街らしい賑わいが戻って来た。
馬車ポンプ工房は工業地区に、クレス工房も農業地区に移して、増産に励んでいる。
元の工房は、女達が賑やかな、カゴ編み工房と食堂兼給食施設になった。
そして井戸端にあるのは......
タケシの作ったセンタクキ。
足でペダルを踏むと中の洗濯槽が回転して、ポンプから水を直接入れられるように、ホースも付けてある。ローラーの絞り機で脱水する。
いつも籠を持った女達がおしゃべりしながら順番待ちしている。
その脇に、赤ん坊を乗せたベビーカー。役所で申し込むと、商会からレンタルされる。
商会の行商も、2班がフル稼働して、完全に軌道に乗った。
今日は、国軍にランプ納品の第1便が発った。
リシェルが、キックボードでシュィーっと走る後ろを、レオンがタッタカ走って追いかける。城址公園のベンチでオセロする老人と孫。けん玉している子供達。
「もう......街ごとショールームやな」
タケシがつぶやく。
「私もソロバンを覚えました。あれは便利ですな」と、ローデリック。
肉屋の前では、干し肉までクルクル回っている。
「完全にスルメやな......」
「あぁ、あれは柔らかく干せるので評判が良いようです。冒険者がせっせと肉を獲ってきますな」
「ま、現金収入一番やもんな」
「で、防災都市構想の方ですが、そろそろ始められますよ」
「人足りるか」
「少しづつですが。人はまだまだ戻りますゆえ」
「なら進めよ。肉体労働や、日当に給食券つけたって」
「わかりました」
黒馬車の荷台に座って、足をぶらぶらさせていると、ピアーナがやってきた。
干し果物をかじっている。
ヒョイとタケシに1切れ渡す。
「これお気に入りなんですぅー」と言いつつぶりっ子ポーズ。
「.......魔石チェックすんだ?」
「バッチリですぅ」
「そっかご苦労さん」
「私、暇です」
「あんたが暇なんは、平和の証拠や。そやけ、気は抜かんといてな」
「はぁーい」
ーーもう自分で回る街や。
ゆっくり回りながら大きくなるんや。
子供達の笑い声。遠くの槌音。肉の焼ける匂い。
花壇にはリシェルの植えた花が。風に揺れていた。
ーーさてと、次はあっちやな。
ミナセに帰ってきたタケシは、馬車工房へ直行した。
「どうや、仕上がったか?」
「はい。見てください」
そこにはーー
黒地に赤と金で縁取った屋根。正面には王家の紋章を掲げた屋根飾り。
きらびやかではないが、上品に装飾を施した車体は、一目見ただけで格の違いを見せつける。
「.....ええやん」
後ろ扉を開ける。
中は無駄なくまとめられた空間。家具の随所に丁寧な細工が施され、ソファーの重厚感のある織物が、空気を引き締めている。
振り返ると、ニヤニヤしている職人達。
「よっしゃ。持って行くで」
「おー」
「ガッポガッポ!」
「ガッポガッポ!!」
「カツミ、一緒に行こか」
「えー。うちドレス着るんいやや」
「せっかく作ったのに」
「あ。オットーがクルトーの店に戻ったみたいやから、そっちに行こかな」
「まぁ......それでもええけど」
壁に掛けてある服は、黒地に黄色い縁取りをした詰め襟服に黄色いタイ。横に、首飾りの入った箱が置いてある。
それを見てため息をつくタケシ。
「......絶対似合わんよな」
「そんなことないよ。あ。帽子もできてるで」
カツミが箱から出したのは、つばがピンと反った中折れ帽。
ポンと頭に乗せられる。
「ええやんタケシ。ちゃんとそれっぽいで」
「それっぽいってなんやねん」
帽子のつばを軽く触る。
鏡もないのに、なんとなくわかる。
似合ってるかどうかやない――
そう見せるんや。
「帽子脱いだら普通のおっさんやけどな」
「ほな脱がんかったらええやん」
「一生かぶっとけってか」
フッと笑って、壁の服に目を戻す。
「クルトーのとこで着替えるか……こんなん、ずっと着てられんしな」
帽子を服の下に置く。
「――ガッポガッポや」
小さくつぶやいた。
アルネア王国王都アルネシア。広いメインロードを、2台の馬車が城へと向かっている。
正装したタケシの黒馬車。その後ろに連結された馬車は、白い幌で覆われている。
王城の門を抜け、緩やかな坂を登り切る。
駐車場に停め、連結を外し、黒馬車を移動させていると、城から1団が出てきた。
国王カイルを先頭に、取り巻き貴族達。一番後ろからリゥトスが手を振った。
「国王陛下、お持ちいたしました」
帽子を取り、うやうやしく礼をする。
「うん。タケシ、幌あけて見せてくれ」
タケシが白い幌を引いていくと、黒く光る馬車が現れた。
「ほぉー」
「これは大きな馬車でございますな」
「さすがコンドウ殿、美しい馬車だ」
口々に称える貴族たち。
ーーいやいや。ここからが本番やで。
「陛下、中をご覧ください」
タケシが後部ドアを開き、折り畳みの段を引き下ろして設置すると、カイルは馬車に登った。
ストンとソファーに腰掛けるカイル。
中を覗く貴族達から、感嘆のため息が漏れる。
「おぉ........これは.......」
「まるで応接室のようだ.....」
タケシも中に入る。
「いかがですか、陛下」
「あぁ。すごくいいソファーだ。これならゆっくり寝られる」
「ちょっとお立ち頂けますか」
カイルが立ち上がると、タケシは折り畳みテーブルを脇に畳み込み、ソファーをゆっくりと前に引き出す。
背もたれがパタンと落ちて、広いベッドになった。座面下の収納から、毛布とクッションを出してその上に置いた。
「お二人でご使用頂けます」
「タケシ、これは凄いな」
ベッドにゴロリと寝転ぶカイル。
貴族達は、もはや言葉も出ない。
「タケシ、これなら長旅でも大丈夫だな」
「はい。宿がわりになる程度の装備はございますので」
「タケシの馬車なら揺れも少ないし、楽になるなぁ」
「はい。もちろん足回りも最新の技術で仕上げてございます。快適な旅をお約束いたします」
外に出て、もう一度馬車を正面から見上げるカイルがふと目を止める。
「タケシ、あれは国軍に入れたライトだね」
「はい。ライトはサラディアで作っております」
「そうか。国軍が、夜間行軍が楽になったと言っておったな」
「はい。前方を広く照らせるようになっておりますので」
「つまり夜も移動できる......」
「はい。ご自身は寝たままで」
カイルがゆっくりと振り向いて、貴族達を見回した。
「フフッ。皆ももっと聞きたいであろう。茶にするか。タケシ、来い」
後ろでリゥトスがニヤッと笑った。




