音なき刃
木立の中を軽快に、黒馬車が進んでいる。
子爵の爵位を得て、サラディアの領主になったタケシは、サラディアで領民達に統治を伝え、街づくりの方針を決めて、ミナセへ戻るところだった。
黒馬車の荷台では、カツミとヒューイがオセロに興じている。
「タケシ、後どれくらい?」
「30分位ちゃうか」
「ほな、もうひと勝負する?」
「もちろんです。次こそ勝つ!」
街道を行く黒馬車は、もうすぐミナセに入る。
御者台のタケシも、のんびり手綱を握っていた。
肩のカースケが、パサッと飛び立った。
「ん?」
どうした?っと思った瞬間、急に馬が暴れた。
ヒヒーン!前足を高く上げたかと思うと、今度は後ろを蹴る。
タケシは必死に抑えようとするが、首を左右に振られ、御者台から弾き飛ばされ、道端の大石にしたたか頭をぶつけた。
「タケシー!」
ーーあ、カツミや.......
そう思った途端、意識が途切れた。
「タケシ、タケシ」
ーーあ、カツミや。
薄く目を開ける。
「うん。もう大丈夫じゃ」
ーーん?スクナ様?
意識がはっきりした。
ガバっと起きる。
「もうちょい寝とけ」
「カツミ?」
「うち、ここにおるよ」カツミがニュッと顔を出す。
「よかったぁ」ヒューイの声だ。
タケシがゆっくり寝転ぶ。
「まあ、頭打っとるが、心配いらん。傷は残るがの」
「スクナ様ありがとう」
「石頭でよかったの。ほっほー」
「で、どうなったんや」
急に馬が暴れて、タケシが落ちた。駆けて行く馬車を、通りがかった冒険者が止めてくれたそうだ。
その冒険者達が、タケシをギルドに運び込んでくれた。
「タケシ、気が付いたか」
「スサノー様、ご迷惑おかけしました」
「ゆっくりしておけ。後でヤマトに送らせるから」
「すんません」
「うむ。ちょっと気になるから、付近調べさせとるからな」
「?」
「タケシよ。子爵になったなら護衛くらいつけろ」
「なんかあるんですか?」
「いや。わからんが。カースケが胡椒玉投げとる」
「あの時か.......」
「まぁともかく寝とれ」
コンドウ家の座敷。タケシは布団でゴロゴロしている。
「タケシ、大丈夫かい」ルークが顔を出す。
「あぁ」額の傷には何やら薬が貼ってある。
「ちょっとわかったよ」
「何が?」
「こんなものを見つけたって」
ルークが手のひらを広げると、鈍く光る小さな石。
「この石は、音の魔石」
「音?」
「多分魔道士だ。だからミナセの外で、馬に向けて放ったんだろうね」
「んで、馬が驚いて?」
「そういうこと」
「ふーん。何や地味やな」
「ああ。嫌がらせのつもりだろうね。でも君が怪我した。父に報告するよ」
「そんな大層な」
「いや。君は子爵だよ。貴族に向かって攻撃して、怪我をさせた。これは重大な犯罪なんだよ」
「......」
「さすがにね、直接攻撃する奴なんてまずいない。今回も馬だっただろ。でも魔法攻撃はズルい。父が一番嫌うんだ。だから絶対騒ぐと思うけど、そこはほおっておけばいいから」
「そうなんや.......」
「うん。後でまた来る。渡すものがあるから」
「あれ?ルーク帰ったん?」
「また後で来るって」
「そう。タケシ、ワラビもち食べる?」
「おぉ。食う。ひさびさやー」
「フフン。まあ食い気あるから元気やな」
「おう。べっちょないでー」
「タケシさん、大丈夫っすか」
「あぁもう全然平気」
「よかったっす」
「やっぱ護衛いるかなぁ」
「まぁ、カエル勇者が行ったっきりだし」
「レオンはサラディアに置いとかなあかんねん。ドラゴン来るかもしれんから」
「えー。ハリセンで勝てるん?」
「スライムボール使うって。めっちゃ遠投練習しとったわ」
「うっそ」
「すごいぞ、レーザービームや。口に放り込むねんて」
「マジっすか。なんか勝てそう」
「今さら護衛かー。めんどくさいなー」
「あ、カツミさんから聞いたんですけど、防災都市構想やるって」
「あぁ、お前にちょっと行ってもらおと思ってたんやけどな......どうすっかな」
タケシが統治することになったサラディアは、ドラゴンの被害で街が壊滅していた。タケシが復興に尽力し、やっと瓦礫がなくなって、小さな街を作り始めたばかりだった。
サラディアには元領主の娘、リシェルがいる。タケシの養女となり、街の復興を願っているが、まだ8才の少女である。
タケシは、自分を師匠と呼んで付き従っていた勇者レオンを、リシェルのそばに置き、領主代理として守らせると決めた。
街の実務は今、執事のローデリックが支えている。
ーーまだ、復興は始まったばかり。
「アキラに行ってもらったら早いんやけど......」
「僕行けますよ」
「地図見て、構想だけちょい練っといて。後、役所書類のたたき台」
「書類はルークさんに貰ったらいいっしょ」
「あ。そっか」
「らしくないっすよ。タケシさんにしては。めんどくさいんでしょうが」
「ハハっ。気合入り過ぎやな」
「ボチボチですよ」
「お前に突っ込まれるとはな.......」
タケシはバタンと寝転んだ。
ーーちょっと落ち着こ。疲れたまってるんかも......
ぼんやりするうちに、すぅーと眠りに落ちた。
「タケシ、ご飯やで」
「んー」ムックリと起きたタケシ。
「やっぱり疲れたまってたんやで、気ぃ張りすぎとったから」
「そうやなー」
「ちょっと2、3日ゆっくりした方がええよ」
「うん」
「タケシが倒れたら終わるで」
「ああ。すまんな、カツミ」
「ルーク来てたけど、また明日来るって」
「そっか。腹減ったー。今日何?」
「つまみ作った。ちょっと呑もか。〆はラーメン」
「ええなー」
そうや。カツミとゆっくりすることも、ここんとこなかった。
何も言わんけど......寂しかったかな。
旨いなーこれ.......
「カツミ、これ何や」
「湯葉。お味噌巻いてん」
「俺初めてや」
「タケシおらんでも色々出来てます」
「何かくやしい.......」
2人で呑む酒が、妙に染みた。
翌朝ーー
「タケシーおはようー」
「ルークか、おはよう」
「いいもの持ってきたよん」
「何?」
差し出した袋はちょっと重い。
口を広げて覗くタケシ。
「??」
「えへへ。ま せ き♪」




