第6話:今宵の宴 英雄という名の囚人
一転して、町の中央広場は狂乱の渦にあった。
「英雄誕生!」の叫びと共に、最高級の酒が振る舞われ、豚の丸焼きから立ち上る脂の香りが夜空を焦がす。人々は歌い、踊り、見ず知らずの男の「幸運」を称え合った。
その狂騒の中心、最も高い場所に設置された玉座のような椅子に、ルシアは座らされていた。
「……あ、あの……。本当に、ハズレだった気がするんです。書き間違いというか、インクのシミというか……」
ルシアが震える声で隣の男に訴えかけるが、豪華な甲冑に身を包んだ騎士団長ヴァルガスは、その豪快な笑い声でルシアの言葉をかき消した。
「ハッハッハ! 謙遜するな、英雄殿! あの穴から『特賞』を引き抜く指先……まさに神に愛されし者の業だ。明日、貴殿と共にダンジョンへ向かえること、我が騎士団の誇りと思おう!」
ヴァルガスの背後に控える五名の精鋭騎士たちも、一斉に剣を抜き、ルシアに向けて敬礼を送る。
その視線は熱狂に満ちているが、ルシアにはそれが、獲物を囲む狼の群れに見えて仕方がなかった。
宴の隅で、一人静かにワインを口にする女がいた。
ロゼリア・ウォーハート
彼女の冷ややかな美貌は、この騒がしい宴の中でそこだけが凍りついているかのような錯覚を抱かせる。
彼女はルシアを見ようともせず、ただ腰に差した自らの剣の柄を、静かに、そして強く握りしめていた。
「……伝説、ね」
その一言には、深い蔑みと、それ以上の「何か」への渇望が混じっていた。
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軟禁:黄金の檻の静寂
宴が最高潮を迎える中、ルシアは「英雄の休息のため」という名目で、城の最上階にある豪華な客室へと案内された。
案内役のエルドは、部屋の入り口で一度だけ立ち止まり、ルシアを振り返った。
「英雄殿。この部屋は、あなたの安全を守るためのもの。外には騎士を配しておりますゆえ、どうか明日の出発まで、ごゆるりとお休みになるといいでしょう」
ガチャリ、という重々しい施錠の音が響く。
部屋には、シルクの寝具、銀の食器、そして極上の食事が並んでいた。
だが、窓から外を覗けば、そこには槍を構えた衛兵たちのシルエットが、月明かりの下で等間隔に並んでいる。
「……これ、完全に軟禁じゃねーか!!」
ルシアは叫び、天蓋付きの豪華なベッドに倒れ込んだ。
薬草二週間分。ただそれだけを求めてこの町に来たはずだった。
安宿に一晩泊まり、ぶらっと町を探索するだけだったはず……なのに、今、俺の手元にあるのは「運のタネ」という奇妙な木の実と、世界を背負わされるという絶望的な片道切符だけだ。
「……助けてくれ、誰でもいいから……」
ルシアの悲痛な願いは、夜の風に乗って消えていった。
もはや、なすがままのルシア!
さあこの先どうなるのでしょうか…
明日もご期待ください。




