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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者


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第4話:初対面の眼光

福引きが世界を回す!

続きです!

 道具屋周辺の喧騒は、夜の帳が降りても一向に衰える気配を見せなかった。


 誰かがどこからか運び込んできた安酒の樽が割られ、見ず知らずの冒険者たちが「伝説の剣」の噂に花を咲かせ、勝手に未来の英雄譚を語り合っている。


 その熱狂の渦の中心、一番の当事者であるはずのルシアは、店の隅で立ち尽くしていた。

 手の中には、まだ少し湿り気を帯びた「特賞」の赤い紙。

 重い。

 物理的な重さではない。人生を根底からひっくり返しかねない、理不尽な重圧だ。


「……あの、すみません。これ、やっぱり間違いってことで返せませんか?」


 近くにいた神殿の係員に小声で尋ねてみたが、返ってきたのは事務的な微笑だけだった。


「当選者は、あちらの個室へ。手続きがございますので」


 断る空気など、どこにもない。

 というか、国家規模の祭事にも等しいこの福引を「やっぱり無しで」などと言った瞬間、背後の酔っ払いたちに何をされるか分かったものではなかった。


 逃げ道を探して視線を泳がせた、その時だった。

 波が割れた。


 物理的に人が突き飛ばされたわけではない。ただ、その男が歩いてくるだけで、騒がしかった音が一段、また一段と音量を下げていく。


 現れたのは、一切の無駄を削ぎ落としたような黒衣の男だった。

 派手な装飾はない。剣を帯びているわけでもない。

 ただ、その姿勢があまりに正しく、その歩みが一点の淀みもなかった。


 男の視線が、一直線にルシアを射抜く。

「……お主が、そうか?」

 ただそれだけの言葉だった。


 なのに、ルシアは自分が檻の中に閉じ込められたかのような錯覚に陥った。逃げ道など、最初から存在しなかったのだと思い知らされるような、静かな威圧感。


「福引の特賞、当選者ということでお間違いないですな?」


 責めるような口調ではない。淡々とした、事実の確認。


 エルドと名乗ったその男は、ルシアの手にある「特賞」の紙を、品定めするように見つめた。ほんの一瞬、その眉がピクリと動いたのをルシアは見逃さなかった。


「あ、はい。……たぶん、そうです」


「たぶん、とは面白い。運命を他力本願で受け入れる姿勢、嫌いではありませんよ」


 エルドは冷徹な眼差しのまま、小さく口角を上げた。


「私の名はエルド。この町の福引管理を任されている者……とでも申しましょうか。司祭の末席を汚している身ですが、実務は私のような者が担当しております」


 管理。


 その言葉が、今のルシアにはやけに現実的な響きを持って聞こえた。ファンタジーな「伝説」の話をしているはずなのに、この男が話すと、それは逃れられない「契約」のように聞こえる。


「して、名はなんと申す?」


「え、あ、ル、ルシア!ルシア・ラクサスです…」


「では、ルシア殿、まず、残酷な事実をお伝えせねばなりません」

 エルドは一歩、ルシアに歩み寄った。


「貴殿は英雄ではありません。この紙を引いただけの、ただの当選者だ。まだ、何も成していない。……いいですね?」


 周囲の冒険者たちが「おいおい、そんな言い方ねえだろ」とざわつく。


 だが、ルシアだけは違った。その言葉に、わずかな救いを感じたのだ。

(そうだ、俺は英雄じゃない。ただの運がいい〈悪い〉一般人なんだ。)


「ですが」

 エルドの言葉が続く。


「貴殿が英雄でないとしても、ここから逃げることは叶いません。……規則ですので」


 ルシアの喉が、ヒュッと鳴った。


「規則? そんなの、さっきの紙には書いてなかった……」


「特賞当選者は、現物を確認し、受領の署名をするまで立ち会う義務がある。

神殿とギルドが定めた厳格なルール。

拒否すれば、福引の公正性を汚した罪として……まあ、あまり良いことにはなりませんな。何より世界が許さぬ」


 逃げ道を塞ぎ、外堀を埋め、最後に崖っぷちへ追い込むような物言い。


 エルドは、怯えるルシアを安心させるかのように、さらに声を落として囁いた。


「だか、安心なされよ。これは、貴殿を守るための規則でもあるのです。もし貴殿が一人でこの町を出ようとすれば、明日にはその首を狙う者が列をなすこととなる。伝説の剣の所有権とは、それほどまでに血生臭い」


 守る? 何から?

 問いたいことは山ほどあった。だが、エルドはそれを許さない。


「伝説の剣は、まだこの町にはないのです。それが保管されている『ある場所』に向かわねばならぬ。言い換えれば、これは巡礼。あるいは、強制連行。どちらの言葉が好みですかな」


 決定事項だった。

 祝福でも、依頼でもない。ただの業務連絡。


「まあいいでしょう。今宵はここで、神殿の保護下でお休みいただくゆえ。明朝、日が昇る前に出発となる手筈。……荷物は、それだけでよろしいか?」


 エルドが指差したのは、ルシアがいつも薬草の採取に使っている、薄汚れた背負い袋だった。


 背後では、主役を置き去りにした宴が始まりを迎えようとしていた。


 狂乱の夜。その中心で、ルシアは自分が取り返しのつかない巨大な歯車に巻き込まれたことを、ようやく理解し後悔したのだった。


「なんてこった。ゆっくり眠れないのか……。」




明日からは毎日20時前後の投稿となります。

よろしくお願いします!

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