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+09 現地協力者

山田尚典ヤマダタカノリ巡査は、県警に配属になって五年になる。


婚約者は居るが、まだ独身だ。

彼が現地協力者に成ったのは、須藤要が県警本部に配属となり、須藤巡査とチームを組んだ後だった。


「須藤巡査の情報を流すだけ?」

「そうだ。その貢献に見合う収入と、出世の便宜を図ろう。」


たまたま立ち寄った飲み屋で、声をかけてきた男の話に乗ったのは、同僚の個人情報など、たいした犯罪にはならないと思った事と、結婚資金をどうしようかと考えていたからだ。

勿論、その場で即決した訳ではなく、多少の葛藤は有った。


その時は、依頼主の素性は知らない方が良いと言われ、報酬の受け渡し方法として渡されたキャッシュカードは、知らない人物の名義になっていた。

金の流れはバレないし、税金の対象にもならない。

少なくとも、出世に便宜が図れるのならば、県警か警視庁の内部に関係者が居るか、影響力の有る人物なのだろう。


一応は、県警業務に影響のある情報を流さなかったのが、彼に残された良心か、分別フンベツだったのかも知れない。


指示された方法で流した情報の報酬は、アルバイトとしては意外と良い収入になった。

そして、NSAの局員が来ると言う連絡が、県警の内部通達より一ヶ月も早く来たことから、この仕事の依頼主が、興信所や内部監査室では無い事が、理解できた。


「えぇっ?俺が後始末するんですか?」

「県警関係者が、夜中に鍵も返さずに、荷物を持って非常階段から逃げ出す映像が防犯カメラに記録されていたんだ。早目に対応が必要だろう。」


ジョンソン氏が失踪した翌朝、係長に命じられたのは、彼の後始末だった。

彼は非常連絡先に、県警本部を記入しており、ベッドメイキングに入ったホテル従業員が、荒らされていた部屋を見て通報したらしい。

ジョンソンの立場は、ある意味で山田巡査の後釜であり、彼が戻るポジションでもある。そして、山田のポジションは須藤巡査よりも低い。


「面倒な事だな。」


山田巡査は先に、状況をアルバイト先に連絡を入れた。

そして、ジョンソンの泊まっていたホテルへと足を運ぶ。


従業員立ち会いの元に、部屋を確認し、一応は写真を撮って、荷物の整理と、宿泊代金とカードキーの請求書を預かった。


署に戻る前に、アルバイト先からメールが届いた。

依頼主の方から、ジョンソンのメールアドレスを使って『身内に不幸が有ったので、急遽の帰国』というメールを送ったらしい。

当然、ホテルで撮った写真なども、アルバイト先にもコピーして送っている。

多分、身内の不幸に動揺して情緒不安定になり、暴れたと判断されるのだろう。


「山田さん。ジョンソンさんが急遽、帰国したらしい。」

「そうなのか?俺はホテルの後始末をしてきたんだが、そんな理由だったのか?」


元の部署に戻った山田巡査と、須藤巡査が交わした会話は、その程度だった。

知っては居るが、知らない振りをするのが正解だろう。


その後、係長から、空港に居るだろうジョンソン氏を探して荷物を返す『努力』をする事を命じられた。


「あー、面倒だ。」


私腹に着替えて、須藤達用に準備された覆面パトカーを借りて、空港に向かう。

途中でアルバイト先と連絡を取って、指示も仰いだ。



◆◆◆◆◆



幸いな事に、ジョンソンは未だ空港に居た。

署内では、遠目にしか見ていないが、別途に顔写真も貰っている。

警官制服でもパトカーでも無い理由は、第三者による不要な騒ぎを避ける為だ。


アルバイト先からの依頼も有って、『現地協力者』として接触したかった山田巡査には、都合が良かった。


都合よく空いていた、ジョンソンの後ろ側の席に座ると、背中合わせに声をかける。


「エージェントJ49。なぜ急に任務を放棄した?」


ジョンソンは、その呼び方に現地協力者か、バックアップ要員である事を悟った様だ。

山田巡査はジョンソンと、殆んど面識が無いので、気付かれる恐れは少ない。


「俺には。いや、普通の奴には無理だ。あれは、彼は呪われている。『ゲスト』でさえ逃げたくらいだ。」


ジョンソンは異様に怯えていた。。


「なぜ、報告を上げない?」

「上げたさ。でも、リアルタイムで書き替えられて、事実上、伝わらないんだ。」

「そんな馬鹿な?」


情報局員ならば、複数の手段を持っている筈だ。


「これはゴーストの仕業だ。そうでなければ、俺が狂っている。」


確かにホテルの状況は、ポルターガイストの跡と言えなくは無い。

しかし、そんな事が、実際に身近で起きるとは、普通の人には受け入れられない。

ジョンソン自身が、精神錯乱をお越し、部屋を荒らしてしまったと考えるのが無難だろう。


ただ、ここでソレを本人に指摘しても意味はなく、騒ぎを起こすだけだ。


「俺が調べた時は、不思議な奴ではあったが、そんなオカルトじみた事は無かったぞ。」


そう言って、肯定も否定もしないのが無難だろう。

ただ、この男は、もう使えないだろう。


「事務的な後始末は終わっている。身内に不幸が有ったので、急遽、帰国の手配に奔走していると言う事になっている。」


ジョンソンは、ただただ頷いていた。


「それと、これは忘れ物だ。」


背もたれを越えて、席の反対側に。つまりジョンソンの横に、紙の手提げ袋を送り込んだ。


横目で、袋の中を覗き込んだジョンソンは、顔を歪めて逃げる様に席を立った。


「頼む。処分しといてくれ。」


そう言うと、ジョンソンはキャリングケースを持って、人混みに消えていった。


手提げ袋の中には、ホテルに置いてきた上着など、彼の持物が入っている。


「仕方がないなぁ。」


山田巡査は、『努力した』と言うアリバイ作りの為に、空港と紙袋の中身が見える写真を撮ってから、ひと息ついた。


それから、アルバイトの依頼主に、一部始終をメールで送り、紙手提げを持って空港を後にした。


署には『渡せなかった』と報告をする。

決して『見つからなかった』とは報告しない。


後は、別部署の管轄だ。


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