第六話 狂気
第一章の内容を再構成したものを、10話で投稿しなおします。
一度読んだ下さった方ももう一度読んでみてください。m(__)m
イクスが廊下の一番奥の部屋を開けると、執務室の様な部屋があった。
しかし、その部屋にある本棚の奥から、エギルと思われる声と何かを殴りつける鈍い音が響いてきた。
「この先か……」
イクスは、本棚をずらす。すると本棚の後ろに扉が現れた。イクスは、扉をゆっくりと横にずらす。すると地下に繋がる階段を見つけた。
イクスは、階段を降りる。階段は短く、地下室と言うより半地下室だった。
そして、階段を下りた先に一つだけある扉をイクスは開けた。
すると、そこにはイクスの想像を絶する光景が広がっていた。
左手に鞭を持ち、少年を殴りつけるエギルの姿と全身が傷や痣、更には内出血で晴れ上がった個所など様々な傷に体中を覆われ生きているのが不思議な位、疲弊しているアルクの姿だった。
「おい……いい加減にしないと殺すぞ?」
何時もの、イクスからは想像もできない低い声を放ちながら、腰から剣を抜きエギルの首筋に突きつける。
普段は温厚なイクスも流石にこの光景を目にしては平常心ではいられなかったのだ。
「あ゛ぁん?」
イラついた様子でエギルは後ろを振り返る。
しかし、振り返った先に居る人物を視認するとエギルは酷く怯えた。
「何だ、その態度は……」
「さ、宰相殿……」
エギルは、恐怖からか拳を強く握った。
「お前も私の剣の腕は知っているだろう?動いたら……殺すよ?」
「……」
殺気の込められた言葉を受け何も言えなくなるエギルだった。
イクスは、元ファルミア専属の騎士だ。その実力は、国内で五本の指に入るとまでされている。当然、エギルの実力ではイクスを打倒することはできない。
それを理解したのかエギルは力なく、その場にへたり込み、股間を湿らせていた。
そんなエギルを確認すると、イクスは、アルクの下へと駆け寄る。
「吸魔の枷か……おい、鍵は何処にある」
「……」
へたり込んでいる、エギルは思考停止しており、話しかけても反応が無かった。
「ッち、何処だと聞いているんだ」
イクスは、エギルに蹴りを入れ正気に戻す。
「あ、あそこに……」
正気に戻ったエギルは、入り口近くのフックに指を伸ばす。
「動くなよ……動いたら、殺すからな」
濃密な殺気を放ちながらエギルを睨む。
「っひぃ」
情けない声を上げたエギルを無視してイクスは鍵を取りに向かう。
すると、ちょうどセレスとファルミアが扉の前までやって来ていた。
「彼方が怒るなんて珍しいわね……」
「あぁ、二人とも中に入るなら覚悟をしておいた方が良いよ……特にセレスは」
「「……」」
扉を隔てようとも伝わるイクスの真剣な言葉にセレスとファルミアは息を呑んだ。
「大丈夫です」
「私も大丈夫よ」
しかし、二人とも即答だった。
二人の言葉を聞き、イクスは扉を開け中に二人を入れた。
「っつ」
「これは……」
二人は、絶句するしかなかった。特にセレスは言葉にならないような悲鳴を上げていた。
「……お父様、鍵は何処ですか!」
「ここにある。今、枷を外すよ」
イクスは手に持っていた枷の鍵を見せ、そう言うとアルクの下へと向かった。
「少し、痛むかもしれないが我慢してくれ」
イクスは、枷の鍵穴にカギを指しアルクを抱きかかえる。
「……」
そこで、意識を失っていたアルクは薄っすらと目を開ける。
すると、アルクの体に大型トラックに跳ねられたような激痛が全身を襲った。
「っいっつ……」
アルクは小さくそう呟いた。
「まだ動いてはいけないよ」
「イクス。治療するからそこに寝かせてくれる?」
「分かった」
イクスは、木の机にアルクをそっと下ろす。
「アルク君!」
セレスは、ようやく冷静さを取り戻したのかアルクの下へと駆け寄る。
「セ……レス……さん?」
アルクはセレスの声が聞こえた方に視線を向ける。しかし、アルクにセレスの姿は見えていなかった。ただ、声とその位置で特定しただけだった。
「すいません……助けてもらったのに……」
セレスは、今にも泣きそうな声で謝る。
「セレス、泣くのは後でね。少し離れてくれる?」
「はい」
ファルミアが治癒魔法を使うために少し離れるように指示する。
「汝・誓約を遂げよ・我の願い聞き届け・我の力となれ……ホーリー・ヒール」
ファルミアがそう唱え終わるとアルクは光に包まれる。すると、アルクは再び意識を失った。
そして、エギルに受けた傷はゆっくりと消えていった。
「はぁ……一応これで死にはしないけど……」
ファルミアは手首に残った傷跡を見た。
「この子、何度か自殺しようとしたわね……」
「「っえ!?」」
「外傷だけで、十か所は血管を切ろうとした跡がある。その度に誰かに治療をされたのでしょうけど……」
ファルミアの推測通り、アルクはスラムで過ごしている頃に何度か自殺を試みていた。
しかし、その度に衛兵に助らえたり、炊き出しをしている貴族に助らえたりと死ぬことが出来なかったのだ。
「相当、辛い事が有ったのでしょね……」
ファルミアの話を聞きセレスは目を見開く。
すると、セレスの頭の中にとある情景が流れ込んできた。
泣き叫ぶ黒髪の少年と、『逃げて‼』と犯されながら叫ぶ黒髪の女性の姿が……
セレスは、その情景を見て瞳から涙が溢れてきた。
「ごめん……なさい……助けてあげられなくて……」
「何か見えたの?」
ファルミアがそう言うとセレスは小さく頷いた。
この世界には、極少数の特殊な眼を持った人間が生まれる事が有る。それが魔眼だ。
しかし、魔眼は自分の意思で発動することはできず、完全なランダムだ。
セレスの魔眼は、他人の過去の一部を見る事が出来る物だった。
「これを話すには……アルク君の許可がいります」
「そう……分かったわ。私も聞きたいことがあるしね」
ファルミアは、アルクの首からかかる首飾りに目を向け、自分の首飾りを握りしめた。
「取りあえず、城に戻ろうか。此奴の処理もあるし」
「そうね」
「はい」
三人は重苦し空気で馬車を過ごし、誰一人喋る事なく城へと戻って行った。
読んでいただきありがとうございます。
徐々に改変後の一章を再投稿していこうと思っています。
それが終り次第、第二章の投稿に入りたいと思います。
最後に、読んでみて面白い、続きが気になると思ってくださった方はぜひ、ブックマーク、評価をお願いします ( `ー´)ノ