第十話 模擬戦
第一章の内容を再構成したものを、10話で投稿しなおします。
一度読んだ下さった方ももう一度読んでみてください。
そして、1800PV&688ユニークユーザーになりました。
これも、皆さんのおかげですありがとうございます。m(__)m
セレス、アルク、イクスの三人は訓練場へと向かっていた。
「そう言えばお父様」
「ん?なんだい?」
「来年、アルク君も学園に通うのですか?」
「あぁ……うん、そうだね。アルク君はセレスの騎士だから一緒に通ってもらうよ」
「学園……ですか?」
「はい。7歳になると、帝国民は帝都の東にある学園の入学試験を受ける事が出来るんです」
学園について不思議そうな顔をしたアルクにセレスは教えてくれた。
「帝国民と言う事は、国民のだれもが試験を受ける事が出来るのですか?」
「そうだね。その制度になったのはファルミアが皇帝になってからだけどね」
アルクの質問にイクスは答えた。
「お母さんは、不公平が嫌いですから。チャンスは誰の手にも与えられるべき。だそうです」
と、セレスは、微笑んだ。そう言った時のファルミアを思い出したのだ。
そんな事を話していると、三人は訓練場に着いた。
「では、私は着替えてきますね」
そう言い、セレスはメイドが待機している方へと小走りで走って行った。
「アルク君。この前、二人と話してみてどうだった?」
イクスは、セレスの姿が見えなくなったのを確認すると、アルクに真剣な表情で問う。
「どう……とは?」
「正直、君はこの城に来てどう思ったのかを聞いているんだよ」
「どう思った……ですか……。正直、僕は怖かったです」
「怖い?何がだい?」
(この答えは予想外だな……この少年が何を怖がるんだ?)
イクスは、内心そんなことを思う。
それは、アルクを評価しての事だった。普通の子供……いや、大人でもそうだろう。
普通、拷問を受けた人間は、人間不信になる事が多く、他者との接触を酷く怖がる。しかし、イクスがファルミアやセレスから聞いたアルクの様子からは、そう言った事は見受けられなかったのだ。
「ファルミア殿下や、セレス様あの二人に、抱きしめられた時……自分はこんなにも……」
「お待たせしました!」
イクスの問いに、答えようとしたアルクの言葉を遮る様にセレスが、白のシャツと、赤色の短パンに着替え、帰って来た。
「はぁ……お帰り。セレスも戻ってきたし始めようか」
「?」
イクスのため息に少し不思議そうな顔をしたセレス。
「分かりました、イクス様。お前ら、今日は三人も助人が居るから、気を引き締めていくぞ!」
「おう!」
騎士団の団長が団員に言うと、騎士たちは大きな声で返事をする。
(相当、練度は高いみたいだな……)
と、アルクが言えるのも、前世で世界中を飛び回っていたアルクは、軍の関係者や、軍人と会う機会、一緒に訓練をする機会があった。その為、軍事関連の事には少し強い。
「それでは、お願いします。イクス様」
「分かったよ。バール騎士団長。さて、取りあえず。私の戦いを見てもらおうか。そうだな……」
と、イクスは騎士たちを見渡すが、すぐに目を逸らされてしまう。
と言うのも、イクスはこの国で2番目の実力を持つ人物だからだ。
(なら、丁度いいか)
イクスは、内心そう思うとアルクに視線を合わせた。
「アルク君やろうか」
イクスはそう言い、微笑みかけた。
「僕ですか?」
「うん。どうやら、君がここに居る事に納得していない人物が何人か居るようだしね」
アルクは、城に仕えている貴族や、使用にからは、セレスの遊び相手、専用の執事見習いと思われている。
しかし、アルクが自由に行動している事に誰も疑問に思っていないのはファルミアが連れてきた子供だからだろう。ファルミアは度々突拍子も無い事をやる事が有るのだ。その為、『またか……』で済んでしまうのだ。
(まぁ、そのついでに君の実力も見せてもらうよ)
イクスは、内心そう思っていた。しかし、それはすぐに崩れ去る事になる。
「分かりました。お相手お願いします」
「頑張ってね。アルク君」
「はい。精一杯頑張ります。」
アルクは、訓練場の真ん中で待つイクスの下へと向かい、前に立つ。
「武器はどうする?」
「そうですね……片刃の剣が有ると助かります」
「なら小僧、これを使うと言い」
そう言い、バールが片刃の片手剣を投げた。
「ありがとうございます。バール騎士団長」
アルクは、投げられた剣を華麗にキャッチすると、バールに向かって頭を下げる。
「さて、始めるか。ルールは魔法無し、の剣術勝負。相手が参ったと言うか、武器を失ったら勝負ありだ。相手を殺す攻撃は禁止。寸止めならOKだ。それ以外は何でもあり。どう?」
「はい。それで構いません」
「それじゃぁ、始めようか」
その声を聴きアルクは、剣道の構えをする。
「変わった構えだね」
「そうですか?」
「あぁ、隙がありそうで無い良い構えだ」
二人が、軽く談笑すると、バールが戦闘開始の準備を始めた。
「それでは、勝負……始め!」
そして、二人は走り出した……と言う訳では無く。逆に二人とも一歩も動かなかった。
(これは……凄いな。此処まで戦闘慣れしている6歳を僕は見たことが無いぞ……)
イクスは内心そう、愚痴る。
「ふぅ……っ」
アルクは軽く息を吐くと、イクスに向かって走り出した。
「っく……」
アルクの、驚愕的な速度でしたから放たれた剣は、イクスの喉を的確に狙って放たれた。
それを、ギリギリでよけ、後ろへ飛ぶイクス。
「ふぅ……っ」
イクスは、後ろにかかる力を無理やり、前に持って行くと、アルクにカウンターを放つ。
しかし、これはアルクの剣に阻まれる。
『カキン』
暫く、競り合いが繰り広げられる。しかし、アルクの筋力では上から加えられるイクスの力に耐えられる訳も無く、アルクは、すぐに後方へと飛んだ。
アルクは空中で前方に体重を移動させ、前傾姿勢で着地、その後そのままイクスへと横向きに剣を振るう。
しかし、それを見透かしたかの様にイクスは、アルクの剣を押さえつけるかの様に剣を振り下ろす。
だが、アルクはそれを読んでいた。イクスが剣を振り下ろそうと前傾姿勢になった所でアルクは剣を手放した。
イクスはその行動に驚愕する。しかし、そんな暇もつかの間イクスは体が押された様な感覚に陥る。
それは、イクスの懐に入り込んだアルクがイクスの衣服を掴み手前に引っ張っていたのだ。
イクスがバランスを崩すと、アルクは前方向にかかった力を利用し前方に投げる。そして、地面にぶつかった衝撃が背中に伝わった直後に腹部に重みを感じ、歪んていた視界を覚醒させると目の前に二本の指と、汗一つ、呼吸一つ乱さず、ただ無表情の少年が居た。
(なぜ、君はどこまで……恐怖を抱いているんだ……)
実際に剣を交えたイクスには、今のアルクの表情はそう思えた。
「……まいった」
イクスは右手に握っていた剣を手放し両手を上にあげ、宣言する」
「やったぁ!アルク君凄いよ!お父さんに勝っちゃった」
と、はしゃぐセレスの声が聞こえ、アルクは『っは』とした。
「すいません。武器を手放したので僕の負けですね」
と、笑顔を見せて言ったアルクは、イクスの上から降りる。
その、言葉にイクスやセレスを含めたその場の全員が驚愕していた。
普通は、審判が違反とし、試合を止めなければそれは、違反でも何でもない。
今回の場合は、ただバールが見入って言い忘れただけだったが。
「アハハハハハ。本当に君は面白い。これは、セレスもファルミアも気に居るわけだ。……この試合は僕の負けだ。自分の体も立派な武器だからね」
そう言い、イクスは立ち上がるとニコリと笑った。
(正直、何故ファルミアも、セレスもこの少年を気にかけるのか分からなかった。確かに、フェリス様の息子だと言う事もあるだろう。けどファルミアの、あの入れ込み様は、それだけじゃ無かった……急にアルク君を養子にすると言いだした時はびっくりしたけど……これは、逸材だ。戦力としても頭脳としてもこの国に居て欲しい人間だ。でも、何処か危うさがアルク君にはある……そこがファルミアも気になったのかも知れないな。)
アルクを見ながら内心思うイクス。
「さて、僕は負けてしまったけど、アルク君の実力は分かって貰えたと思う。分からなかった人は……今すぐこの場から出ていけ」
イクスは、最後の言葉を冷たい言葉で言った。それは、アルクの実力をまぐれと割り切る人間は、相手の強さも図れない愚か者だからだ。
イクスの言葉を察したのか、誰一人としてその場から動かなかった。
その場に居た全員が重苦しい表情をしていた。たった一人の少女を覗いて……
「セレス様、何か嬉しそうですね」
「だって、初めてお父様がぶちのめされる所を見られたのですよ?気分が良いに決まっています」
と、恐ろしい返事が返って来た。
アルクは、まだ見たことがないが、イクスはセレスにとても甘い……のではなく、セレスからしたら鬱陶しいのである。だから、普段その鬱陶しい虫の様な物が倒されてすっきりしたのかも知れない。
「それでは、アルク君。次は私と魔法の勝負をしませんか?」
「良いですよ」
「何?アルクとセレスは、魔法戦をやるのかい?」
二人の会話を聞いていたのか、イクスが聞いて来た。
「はい、お父様」
「なら、魔法障壁を張らないとね。バール……は脳筋だから、魔法使えないし……」
と、イクスに言われ、何処か残念そうにするバール。しかし実際に魔法が使えないのだからしょうがない。
(バールさんは、魔法なしで騎士団長まで来たのか……凄いな)
と、内心思うアルク。
「そうだ、セレスが張るのが良いかな?」
「私ですか?」
「うん。ファルミアに教えてもらっていただろう?」
「はい。分かりました」
セレスは、そう言うと、訓練場の中心に二重円と五芒星を描き、文字の様なものを描いていく。
(魔術……か)
魔法障壁は、魔術によって作られている。
魔術と魔法の違いは明確で、魔法陣を用いて自称を計算、処理し、触媒を通して奇跡を起こすのが魔術だ。
逆に、魔法は、自己の頭脳で、計算、処理を行い、触媒を通して奇跡を起こす。
つまり、二つの相違点は、使用者の頭脳を使用するかしないかの違いである。
当然双方にメリット・デメリットがある。
魔術は、威力、効力が高いが、発動までに時間を要する。それに対して、魔法は威力、効力は、魔術に劣るものの発動時は一瞬で発動する。
「これで、よし。我・求めるは・絶対の障壁・フィールドシールド」
セレスは、書き終えた魔法陣に向かって魔力を注ぎながら唱える。
する時、魔法陣を中心として、訓練場に光る膜が出来上がった。
「うん。これなら壊れる事は無いだろう。なら、始めようか。僕が審判を務めるよ」
張られた障壁を見てイクスがそう言い、セレスとアルクが闘技場の中心で向かい合う。
「よろしくお願いします。セレス様」
「こちらこそ、よろしくお願いします。アルク君」
二人は、軽く握手をすると、後ろを向き20歩、歩く。
「双方、準備は良いかい?」
アルクと、セレスが小さく頷く。
「それじゃぁ、ルールは、魔法のみの魔法戦。物理攻撃は禁止。ただし、魔法を使って創造した物での物理攻撃は許可する。相手を殺す魔術、魔法は禁止とする。質問はあるかな?」
「無いです」
「私も、無いです」
「うん。それでは両者、戦闘開始!」
その言葉と共に、セレスが魔法を唱える。
「エア!」
セレスの周りに空気を圧縮した、刃が生まれる。
「解析、開始」
アルクが、そう言うと、目に文様が浮かぶ。
「っ……アルク君の魔眼。どんな効果が……行け!」
魔眼を発動させたアルクに少し動揺したセレスだったが、すぐにエアをアルクに飛ばす
「解析完了、ディスペル」
アルクがそう唱えるとエアが消失した。
「っな!……魔法をディスペルした……」
セレスは、驚愕していた。
それもそうだ、前にファルミアが使った『バインド』はディスペルの公式が確立されているため上位魔法を扱う事が出来れば誰でも対抗できる。と言っても上位魔法は相当な処理能力を持った頭脳、でないと取得はできない。
しかし、今回セレスが放ったエアは、低位魔法な為、術式の公式が固定されていない。つまり、人によって公式が違う。その為ディスペルする方法は、存在しないはずなのだ。相手の使う公式が分からない限りは……
「クリエイト」
アルクは、そう呟くと自分の手首を噛みちぎった。
「っちょ……アルク君!」
アルクの突然の行動にセレスが動揺する。
「無銘」
そう呟いたアルクの手には、赤黒い刀身の刀が持たれていた。
「何、その魔法……シールド!アイス・スピア」
セレスは、アルクが作った刀で攻撃されると思い、自分の周りをシールドで覆う。さらに、氷で出来た槍を無数に出した。
「行って!」
その声と共に、アルクに無数の氷の槍が飛んでいく。
「……」
アルクは、飛んできた槍を手に持った刀『無銘』で切り落としていく。
飛んできた槍は、アルクに斬られた途端、溶けたかの様に蒸発しなくなった。
「嘘だろ……セレス様の氷魔法があんな簡単に蒸発するなんて……」
観戦していた騎士達がそう呟く。
セレスは、氷魔法が得意でその固さ、固体で居る長さは、ファルミアを凌ぐと言われていた。
「ファイアー・スピア!」
氷が斬られたセレスは、火魔法の槍を作って放つ。
しかし……
「ブースト」
アルクがそう呟くと、セレスの目には負えないスピードでアルクが走って来た。
そのため、セレスの魔法はすべて避けられた。
「エア!エア!エア」
猛烈なスピードで走って来るアルクに向かってエアを放つも、すべてアルクの後ろに着弾していた。
セレスも、偏差を使っているが、それを利用するかのようにアルクはスピードを徐々に上げて避けているのだ。
そして、完全にセレスがアルクを見失う。
「セレス様」
と、言う声と共にセレスの肩が『トントン』と叩かれ、セレスが後ろを振り向く。
「えい」
そこには、肩に置いた指を立てたアルクがニコリとしながら立っていた。
「ふぇ!ふぁるふふん!(え!アルク君!)」
アルクの指によって頬を抑えられている所為か、何言っているのか分からない。
「セレス様、怖い顔していますよ?」
「ふぁるふふんひふぃふぁふぇふぁふふぁいふぇす(アルク君に言われたくないです!)」
少し、むくれた様な顔をしてセレスは言う。
「僕、そんな顔していました?」
「ふぁっふぃをふぃふぃふぁいふぇ(さっきの試合で!)」
と、少しセレスをからかうのが楽しくなってきたアルクだった。
「えっと……試合は此処まででいいのかな?」
イクスが、呆けた顔で言った。それもそうだろう、魔法戦の終わり方があれなのだから。
「はい。終わりです」
「うぅ~~てっきり、その剣?で斬られると思ったのにぃ~」
そう言い、アルクの右手に持たれた刀に目線を落とす。
「これで、斬られたらセレス様、死にますよ?」
アルクのその声に、セレスとイクスはぞっとした。
アルクは、声色、表所を一切変えずにそう言ったのだ。まるで何処かの暗殺者の様に……
「この剣には、呪いがありますから」
そう、ニッコリと笑う。
「そ、そうなんだ……」
セレスがそう言うと、訓練場の入り口から声が聞こえた。
「お~い、やってる?」
ファルミアだ。どうやら息抜きを目的に自分で執務から逃げてきたようだ。
「ファルミア様」
騎士たちは、片膝をつく。
「あぁ、良いわよ。そんな事しなくても。それより、誰か私の相手をしてよ」
そう、屈託のない笑顔を見せるファルミアに騎士団が顔を引きつり、大量の汗をかく。
どうやら、過去に何度か酷い目に遭った事が有る様だ。
それから、ファルミアVS騎士団全員と言う模擬戦が夕方まで続いた。
おかげで、騎士達の練度が二段階程上がったが、それ以降イクスとセレス、アルクは試合、訓練が一切できなかった。
「はぁ……はぁ……」
「ファルミア、そろそろ許してあげたら?そうしないと本当に死んじゃうよ?」
そうイクスが言うのも、すでに騎士たちの3分の2がリタイアして、セレスが治療しているからだ。
「それもそうね……んぅ―――――――すっきりした」
ファルミアは、両手を上げ伸びをすると、満面の笑みで言った。
しかし……
「もう!お母様のバカ」
と小さく愚痴るセレスが居た……
(なんか、凄く怖いな……)
ファルミアの、魔法で凸凹になった訓練場の修復をしていたアルクはセレスを横目にそう思う。
なにせ、セレスの周りに何か黒いオーラの様な物がアルクには見えたのだ。
「後で……」
「っあ……これヤバいかも」
何処か焦ったかのようにファルミアが言った。
その後、セレスの氷魔法によってファルミアが執務室に閉じ込められたのは、また別の話だ。
読んでいただきありがとうございます。
徐々に改変後の一章を再投稿していこうと思っています。
それが終り次第、第二章の投稿に入りたいと思います。
最後に、読んでみて面白い、続きが気になると思ってくださった方はぜひ、ブックマーク、評価をお願いします ( `ー´)ノ
二章予告
「これですか?これは、魔術理論の公式を魔法理論の公式に置き換え……」「ま、まぁ。そうですね。意外と落ち着いています」「大丈夫ですよ。見えてませんから」「魔力をデータ化する道具ですね」
「私はマリよ」「人は一人で生きていけないのよ」「僕は一人でした」「こんな事になるなら私は消えてしまいたいです……」「セレス?誰それ」「はは……私本当に……」「セレス様その役目は僕の役目です」
「違います!これは、私が望んでこうな……」「あなたは強い……僕よりも。だからあなたは消えてはいけない。この国を、この世界を守る役目があります」「嫌です!私が……んぐ!?」「あれ?私何を……」
『第二章 人は人の記憶には残れない