記憶の欠片①
「夕姉ぇ!上!」
「そこか!」
ドガッ!
『グオオオオオォォォ...』
「ちっ!かすっただけか!」
先ほどからずっと現れた怪物と戦っている夕歌だが相手はかなり防御力とスピードに長けているため、なかなか攻撃が当たらない。当たったとしても掠り傷程度。
「大技を出してみるか?いや、そんな事をして万が一当たらなかったら...でも、このままじゃ...」
こんな時...と、ふと夕歌は思う。
(こんな時、ソラが戦えたら...)
だが、今ソラは記憶もマチマチで穴だらけで不安定。力を扱えない。だから自分自身で倒さなきゃ駄目なのだ。
(シッカリしろあたし!弱気になっちゃ駄目だっつーの!)
あの時の彼女のおかげで今の自分がいるのだから。
「守ってみせる!せめてこの場所ではお前らの好きにさせない!」
一気に夕歌の髪が暴発し、紅く染まる。体の中のエネルギーが外にまで漏れ出しそれが夕歌の周りで踊っているように見える。
「なに...これ...?こんなの、前は感じなかったのに...」
少し離れた所で見ていたソラは姉があの時とは若干違う事を察知していた。恐ろしいまでの威圧感。そこへ、滅多に外へ出ない道留がソラの側へ歩いてくる。
「まいったわね...夕ちゃん、本気モードに切り替わってるわ。こんな怪物程度あと10分あれば倒せるでしょうに...」
「母さん。え、じゃ、どうして姉さんはあそこまで...?」
「...おそらく...」
いつにも増して道留は深刻な眼差しで語りかけて来る。そこまでになるほど自分の姉は危ない事をやっているのかもしれない。それとも何か敵の技か。
知らずソラはゴクリと唾を飲み込む。
「ちゃっちゃと直ぐ済ませたいからだと思うわ。」
この一言でソラは盛大にコケた。
「それって、つまりはチマチマ敵を叩くのがめんどくさいって事?」
「そうかもしれないし、違うかもしれない。」
「ええ~?どっちなの?」
「人の考えなんて人が解る訳ないわ。推定は出来るかもしれないけれど。」
「...そうだけどさ...」
「クスッ...あの子は心配性で少しお人よしな臆病者なの。」
「へ?あのサディストが?」
「そう。お父さんと同じ。変な所ばっかり似るのよ。何でかしらねぇ?」
「いや、そんな事は置いといて、あの姉さんがお人好しで心配性?どこが?!」
「...ソラちゃん、そんなに知りたければ、少し観察してみたらどう?すぐ分かるはずよ?」
そういい残し、道留はもう一人の娘へ歩を進めていった。
ソラは不安を隠しきれなかった。
「あ...まただ...」
遠ざかっていく姉と母の影を見ながら手を近ずけようと差し伸べるが、やはり届かない。
「また、こうして守られるだけ...」
こうして、また見守ってるだけの自分...そんな自分に嫌気が差す。
いつの間にか自分は道路にペタンと腰を下ろしていた。
「情けない...」
何も出来ない自分が惨めで仕方が無かった。
「力も強さもこの体の中にあるんだ...!」
さっきからずっと、この巨大な力が脈打っている。自分をココから出せと言うように、ドクン、ドクンと。
「なのに!なのに...どうして...」
自身の胸元に両手を合わし、クシャと胸倉を掴むその両手は震えている。
「どうして、あたしは何も出来ないでいるの?!」
力はあるのに、使い方も放出のしかたも解らない。いや、ただタンに忘れているだけ。
それならば。と、ふいに、ソラはフラッと立ち上がった。
「思い出せばいい...」
そして、その鍵はきっと【戦い】の中にある。この力がさっきから教えている。
《大切なモノを守るために行け》...と。
「ック!」
『グオオオオォォォ!』
屋根の上に降り立った夕歌は戦いやすいように敵に攻撃しながら広い場所へ徐々に移動していた。
一人で守る。何が何でも。
それが夕歌が自分自身にした約束。
あの日から修行や、訓練、鍛錬に明け暮れた。この世界に来てからも学校以外の時間があれば全て力を高めるために費やしてきた。もう二度と大切なモノを亡くさないために。
だと言うのに。自分が殺してしまったと思っていた人物は生きていた。よかった。重かったモノが取れた気分になった。でも、それと同時に、揺るがなかった決心が今更になって
「まったく、不甲斐ない!!心が揺らぐ...!たくっ!」
(何かに甘えたいのか自分は。ふざけるな夕歌!気を引き締めろ!)
夕歌は必死に弱くなっている自分と戦っている。こんなんじゃ駄目だと。今までずっと一人で戦ってきたのだから。他人に甘えず、ずっと一人で。だから、これからも。
「一人で十分だ!!」
そう声を張り上げながら夕歌は両手に炎を灯しでかい怪物目掛けて突っ込む。だが、相手も相手、繰り出される夕歌の素早くパワフルなパンチも、一撃一撃かわしながら防御していく。
と、突然、夕歌の姿が消えた。そして、怪物は背中に衝撃が入り遠くへ吹き飛ばされる。それでもすぐに体制を整え、今度は飛行しながら夕歌に攻撃を仕掛けてくる。
「渾身の一撃だったのにあまりダメージなしかよ。防御力高すぎ。」
はぁ。と少しため息。
「ちと厄介な相手だ。こりゃ少し長引くかも。」
彼女夕歌は空飛ぶ怪物を睨みながら電柱柱の上の先っぽに立ち尽くす。風が通り過ぎ、彼女を応援するかのように包み込む。それはまるであの母のよう。
「いくか。」
言うが早いか、彼女は怪物へと攻撃するがために姿を消した。
続く
夕ちゃんかっくいい~♪
夕「あんたにチャン呼ばわりされたくない。て言うかキモい...」
ええ!!ヒド!!!