リアルアンパンマン
「・・あの。」
弘はオートマチックに近付いて声を掛けた。
「あ?何だよ!文句あんの・・な、何だコイツ!顔化け物みたいじゃん!」
そう言ってチャラそうな男たちは気味悪がって逃げていった。
「あ、ありがとうございます!あの男たちスゴくしつこかったんです!」
気の強そうなサラリとした長い髪の毛が印象的な美しい女性だった。
「いや、僕は何もしてないんですけどね。僕の顔見て逃げていっただけですから・・」
弘は殴られて腫れた顔でうまく喋れず、女性がキチンと自分の言葉を聞き取れたのか心配だった。
「・・で、でも、どうしたんですか、その顔?」
「あ、ぼ、僕、ボクサーなんです。今日、試合だったんで・・」
女性は笑っていた。
「僕ボクサーなんですって、ダジャレですか?」
意図せずダジャレを言っていた事に気付いた弘。このシリアスなタイミングでのダジャレに女性は思いの外笑いのツボにハマって笑い続けていた。
「あ~おもしろい人!え、ボクサーなんですか?今日試合だったんですか?」
「はい・・・でも、試合は負けました・・」
「そうなんですか・・・。あ、あの~私、何かお礼がしたいです!失礼ですけど試合終わって食事されたんですか?」
「いえ、まだですけど・・」
「じゃあ、よければご馳走させて下さい!私、父がボクシングジムの会長なんです!だからボクサーが減量で大変なの小さい頃から見てきたからよくわかるんです!お腹空いてるんじゃないですか?」
「え!そ、そうなんですか?」
思いがけない女性の言葉に驚いたけれど、弘に断る理由はなかった。
近くのファミレスに入った2人。
「父のジムは藤本ジムって言います。聞いた事あります?」
藤本ジム?確か会長はアマチュアの世界で有名な方で、アマチュアで実績があるプロが何人かいたなぁ・・・
「1つの事に打ち込んでいる人って、すっっっごく尊敬してるんです!私が中途半端で続かない人間だから・・」
“っ”の発音がカワイイなと弘は思った。
女性はすごく綺麗な方で、笑うとまた違った美しさをかもし出す不思議な魅力があった。
「でも、僕は負け続けの情けないボクサーなんです・・」
「そんな事ないです!じゃあ!私が勝利の女神になってあげます!そしたら本当のお礼になるでしょ?食事だけではお礼した気がしないんで!」
「・・・え?」
「だって、誰も助けてくれなかったのに、あなただけが助けてくれたんだもん!だから次の試合が決まったら教えて下さい!これ私の名前と連絡先です!」
女性は藤本美里さんという名前で歳は弘よりも3つ下の22歳。
美里さんか・・・
思いがけない出会い。
綺麗な女性だったな・・・勝利の女神・・か。でも、お父さんが藤本ジムの会長してるって言ってたなぁ・・
今までの負け続けの自分。
俺、今日で何連敗だっけ・・・1,2,3・・5連敗か・・
18歳で小さな手に大きな夢を握りしめ大阪から上京。19歳でプロデビュー。2連続KO勝ちして、スポーツ新聞の小さな記事になった事もある。
いつからこんなんなったのかな・・・
そりゃ引退勧告されるよな・・・
でも、女性の為に勝つ!って、何か動機が不純だよな・・・
若干の後ろめたさを感じつつ眠りについた弘。




