四匹目▶ノミなホラー鏡
『綺麗な満月の夜、あそこのあっちのこちらな館の中庭に、大きな鏡の怪物が出る。実在するか確認して、LINEで写真送って欲しい』
そんな依頼が猫谷サイキック調査局に舞い込んだ。
二頭身のシャム猫、ネスコ先生はもちろん依頼を受け、決意の眼差しで助手のユニを見上げた。
ユニはスルーしたままカメラを磨いている。
「ユニくん」
「あーあ、いつか本物の超能力見てみたいな~」
「ユニくん、これ」
すぐ傍で短い手を伸ばしているネスコ先生。握られた依頼書がヒラヒラと揺れる。
「しつこいですね」
面倒くさくなったユニは仕方なく受け取り、見もせずにテーブルにピラりと投げた。
「大事な依頼書なのに!」
「これ、本気でやるんですか?てか、そんな曖昧な名前の館なんて聞いたことありませんよ?」
「助手くん、君の目は節穴かね?依頼書をちゃんと見てみたまえ。地図と行き方が書いてあるじゃないか」
助手はもちろん目を通している。ネスコ先生が勝手に暴走することのないように事前に。
だが、ここどこだよ的な曖昧な地図に「猫谷駅徒歩5分」としか書かれていない。徒歩5分の館などココしか見当たらない。
(どうせ依頼がこなくて暇になった先生の悪戯だろう)
そう思ってゴミ箱に捨てていた物をわざわざネスコ先生が拾って持ってきたのだ。
「一応確認しますけど、それまさか……」
「私の悪戯だけど、何かね?」
「やっぱりかよ!」
そんなわけで、叱りはしたものの、結局ヒマなネスコ先生に付き合うことになった。
虫眼鏡とパイプまで持ち出したネスコ先生。ユニはわざとらしく大きな溜息を吐いた。
ピョン
溜息でネスコ先生の頭からノミが飛び出した。
「おい猫……どこで付けてきた?」
「痒いと思ったらノミかー」
「今すぐ洗いますよ!」
探偵ごっこを切り上げさせ、とりあえず洗濯ネットに突っ込む。
「そこまでしなくても!」
「泡立ちがいいからです」
丁寧にゴシゴシと洗いながら、そういえば、とユニは首を傾げる。今までこの珍獣UMAにノミが付いていたことなど見たことがない。
だいたいにして、普通の猫と同じノミがつくんだろうか。そう思うと、あの飛んだノミもUMAの類に思えてきた。
「先生、ノミ探ししません?」
「虫なんて探してどうすんのさ。それより鏡の怪物だよ」
「その遊びは終わりです。今日は本物の怪異が見れるかもしれませんよ」
「ふむ、痒くされた報復もしたいし」
「それ、どうでもいい」
洗っている間にネスコ先生からノミが出てこなかった。となれば、あれは唯一のものだ。ユニは胸が高なった。
やっと猫谷サイキック調査局の活動ができる。依頼を受ける、ではなく!ふしぎ調査こそがこの機関の意義。そしてオカルト好き大学生ユニがいる120%の理由だ。
ドライヤーでふわふわになったネスコ先生は、ブラッシングされながらノミについて考えていた。
「鏡の国でティータイムした時かな」
「ふーん、優雅ですね。……は?」
聞き返そうとしたユニの前からいつの間にかネスコ先生は消えていた。
冗談は顔だけにしろ!
文句を言いつつ、ユニはネスコ先生ではなくノミを探しに向かった。
「目視できる程度だったことしか思い出せないな。中庭でも行ってみるか……ん?」
「ユニくん、見つかった?」
中庭が見下ろせる二階の回廊で、ネスコ先生がのんびりと歩いていた。こちらに体を向けている。
中庭はネスコ先生の背後だ。
伸び上がる影はどんどんネスコ先生を包む。
空は満月だ。
「キキー!」
「ユニくん、変な声出してどうしたの?」
「猫なのにどこから聞こえてきてんのかわかんないのかーー!」
ノミ的な巨大な鏡は、満月の光をキラキラと受け、どんどん大きくなる。ユニはネスコ先生の首根っこを引っ張り影から抜け出した。
「なにあれー!」
「おまえが書いた依頼とノミだろ!」
「し、しらないよー!悪戯だし!」
「鏡の国はどうした!」
慌てまくる一匹と一人は、カメラだけは構えた。
やがて、ノミなのか鏡なのか分からない生物?は満月へ登り、消えた。
***
次の日、猫谷サイキック調査局にネコポスが届いた。
『血、まずかった』
妙に達筆な文字で書かれたクレームが短冊で届いた。
宛名:ノミ
今回も謎は謎のまま終わった。
~完~




