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ステラ  作者: 将花
輝き忘れた星
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 学は天体望遠鏡から顔を放し、枕元にあったスマホをズボンのポケットに入れた。窓を閉めて青いカーテンも閉める。靴下を履く時間も惜しみ、ゆっくりと部屋の扉を開けた。部屋の電気を消して、真っ暗な廊下に出る。スマホの画面をタップして液晶に微かな光を灯す。背面のライトは光が強すぎるので、使わない。


 液晶から放たれる明かりを頼りに、閉じる音が鳴らないようにゆっくりと部屋の扉を閉じた。スマホの液晶を斜め前に向けて、少し先の床を照らす。階下から、母親の甲高い声が響いた。学は、少し前にプレイしたホラーゲームを思い出した。敵に見つからないように、徐々に歩を進めていく。見つかれば掴まって、画面が暗転する。黒い画面の中から、痛々しい音と悲鳴だけが聞こえてくるのだ。


 両親に見つかったからと言って、命を落とすようなことはない。怒られて部屋に放り込まれるだけだ。しかし、今の学にとっては、その、【だけ】が非常に恐ろしいことだった。地上に降りて来た桃色の星の元に行けないことは、学の身体は破壊しなくとも心を破壊する。学の中でキラリ、と煌めいた何かが、音もなく砕け散ってしまう。学はそんな気がしてならなかった。


 一階に降りて、リビングの様子を窺う。母親は椅子に座って、机でうつぶせになっている。父親はそこから少し離れた位置にあるキッチンで、缶ビールを呷り何かしら呟いていた。

 

 学は両親の様子を一度見た後、すぐに目を背けた。思考が巡る前に、反射的に脊髄がそうさせた。


 学は待った。はやる気持ちを抑えて、リビングの横を通り抜けられるタイミングを待ち続けた。時間にすれば、一、二分のことだったが、学には十分以上に感じられた。


 うつぶせになっている母親は、右腕だけを勢いよく机の上で振り払った。その手にガラスのコップが辺り、衝撃を受けたコップは弾き飛ばされ床に落ちた。ガシャン、という音を立てて幾つかの破片となる。学は、ガラスが割れる音に紛れて、足早に廊下を駆けた。廊下を走る音が、ガラスの割れた音の余韻に紛れていく。


 学は玄関に来て、素足のままスニーカーを履いた。玄関のドアノブに手をかけて回そうとするが、金属の軋む音が薄暗い廊下に突き刺さる。リビングまで音が届かない保証はない。しかし、学はもう抑えられなかった。ドアノブにかけた手が、星を掴もうとして勝手に動いていく。


 ばれる。


 焦燥と困惑とが学を襲う。金属の軋む音がする。学は一度、強く目を閉じた。瞼の裏には、天の河が広がっている。無数の星々は、学のことなど意に介さず、光り輝いていた。そんな星たちを、桃色の星は引き裂いた。道標を残すように、桃色に光る軌跡を描いて、地上に向かって流れて行く。


 学は目を開けた。ドアが開く。またガシャン、とガラスの割れる音がした。学は外へ飛び出して走り出した。ドアが閉まる音がどれほどの音量なのか気にもせず、頭上に星々を浮かせる世界へと向かった。


 キラキラ輝く、無数の星々。僕を呼んでいる、桃色の星。


 地上には、ガラスの破片しかなかった。

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