輝き忘れた星①
学は、目を覚ました。
枕元に置いてあったスマホを手に取って、画面を見る。日付が変わったばかりの時刻が、画面に大きく表示されていた。
スマホをまた枕元に置いて、静かに目を閉じた。階下から、怒声が飛び交っているのが聞こえてくる。学はゆっくりと目を開けながら、深くため息をついた。
またか。既に、それ以上の感想は出てこない。学が中学生になった頃ぐらいから、両親の関係は冷え切っていた。原因はなんなのか、高校生一年生の学が見当をつけるには、漫画やドラマから得た知識に依るしかなく、結局、どこをどう辿っても不倫ぐらいしか思い至らなかった。もしそれが事実だとしても、学はショックを受けることはない。もしかしたら、両親の会話に違和感を感じ始めた段階で知っていたら、相応の衝撃を受けたかもしれないが、慣れ始めている現在で知ったとしても、そっか、の一言で片づけられる。
学はベッドから起き上がり、青色のカーペットの上を素足で歩いて行く。階下から、ガラスの割れる音が響く。脆くありながらも、儚く美しい音色だった。学は窓にかかった青いカーテンに手をかけた。
僕の心は、ガラスのように脆く美しいのだろうか。
カーテンを開けて、外界を映し出す窓を見据える。きっと、ガラスなどではなくプラスチックで出来ているのだと思う。落としても叩いても、割れることはない。ただただ、形が崩れてぐちゃぐちゃに、歪になっていくだけだ。
半分開いていた窓を全開にして、夜空を見上げた。学の住む地域は灯が少なくて、星がよく見える。音を吸い込むような黒の中で、存在を示すように星がキラキラと輝いている。自分がその黒の中に入ってしまえば、核融合反応など出来ず、太陽の光も届かないで、光ることなく闇に溶けて終わりだろうと思う。
だからこそ、学は星に惹かれた。星を眺めている間は、自分という存在が星のすぐ側にあるような気がした。隣で光り輝いている星の恩恵を受けることが出来た。別の誰かの光を利用して、自分も光り続けられる。
学は机の横に置いていた白い天体望遠鏡の先を夜空に向けた。学がまだ小学校低学年だった頃、両親が買ってくれた物だ。屈折式の望遠鏡で、質で言えば中レベルのものだが、学にとってはかけがえのない望遠鏡で、嫌なことがあった日には、何時間も望遠鏡を覗いて星を見ていた。
レンズを覗いてぼやけた視界のまま望遠鏡を動かす。恒星の群を見つけて、ピントを合わせる。
学は大きく息を吸いこみ、肺に溜まった黒々としたものと一緒に息を吐きだした。視界の先に、幾つもの光輝やく星が見える。まるで、いたずら好きの子供が黒いカーペットの上に色とりどりのビーズをばら撒いたかのようだ。




