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覇王の余生は不労所得スローライフ  作者: 井上幸将


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第一話『元覇王、不労所得Tシャツでベッドから起き上がる』

新作はじめました。よろしくお願いします。

「……ふむ。戻れた、のか」


世界を滅ぼさんとする邪神を討ち滅ぼし、己を頂点とした国を長きにわたって統治し、臣下たちに見守られながら大往生を遂げたはずだった。


しかし、次に目を覚ました俺――ジンが視界に捉えたのは、異世界の宮殿の天井ではなく、見慣れた安物のマットレスと、実家の狭い自室の天井だった。


鏡を見ると、皺だらけだったはずの顔は、皺もほとんどない二十歳そこそこの若者の肌に戻っている。


ついでに服装は、引きこもり生活の相棒だった、ヨレヨレのジーパンに室内でも使えるビーチサンダル。そして胸元にデカデカと漢字で『不労所得』とプリントされた、お気に入りの白いTシャツ姿だ。


「ふはっ、まさかあの激動の日々が、全て老い先短いニートの見た夢……というわけではなさそうだな。魔力は、当時のまま残っているぞ」


指先に灯る、世界を滅ぼせるほどの濃密な漆黒の炎を見つめながら、俺はふかふかの枕に頭を沈めた。


前世では世界のために働き詰めだったからな。

今世は死ぬまで、この実家でだらだらと余生を過ごさせてもらおう。現世は俺にとって、人類人数分の仕事を終えた後の『合法的な有給休暇』なのだから。


しかし、起き上がってみたものの、異世界で自分の周りにいた優秀な部下たちが誰も居ない事に気が付く。


「今さら身の回りの世話を自分でやるのも面倒だし、誰か呼び出すとするか」


ベッドから一歩も動きたくない俺は、寝転がったまま指先を軽く振った。自室の床に、禍々しくも美しい漆黒の魔法陣が展開し、空間を裂いて何者かが姿を現す。


まばゆい光の中から飛び出してきたのは、鋭い犬歯と獣の耳を覗かせた、野性味溢れる茶髪の青年――人狼族の若き頭領、ガルウだった。


「ボスーーーッ!! ご無事でしたかァァ!!」


ガルウはドサッと床に膝をつき、嬉しさのあまり見えない尻尾を激しく振りながら俺のベッドにしがみつく。


「おいガルウ、うるさい、声がデカいぞ。ここには葵(姉)と凛(妹)がいるんだ。静かにしろ」


「はっ!? ここがボスの生家ですか! ……して、俺は何をすれば!? 敵国の殲滅ですか!?」


「いや、まずはその格好をどうにかしろ。あと、喉が渇いたから外にある『コンビニ』という店に行って『コーラ』っていう黒くてシュワーッとする美味い飲み物を買ってこい」


俺はベッドの隙間に隠しておいた千円札を拾い、ガルウに差し出した。


「覇王たるこの俺が、わざわざ外まで歩くわけがないだろ。……あと、その衣装は目立ちすぎる。これでも着ていけ」


俺がパチンと指を鳴らすと、生活魔法(あるいは覇王の権能)により、ガルウの野生的な毛皮の衣装が一瞬で『グレーの特大スウェット上下』へと変化した。


「……ふむ。なかなかに地球に馴染んでいるな。ではガルウ、初めてのおつかいだ。残った金は小遣いにしていいぞ」


「ハッ! 覇王ジンの命、このガルウ、魂に代えても遂行いたします!!」


スウェット姿の最強人狼は、音もなく窓から夜の街へと飛び出していった。それを見送った俺は、再び布団に潜り込む。「ふぅ……。やっぱり持つべきものは有能なパシリだな。さて、ガルウが戻るまでスマホのゲームでもするか」こうして、かつて世界を統治した覇王の、一歩も動かない極上のニート生活が幕を開けたのだった。

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