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第18話 白閃が引き裂くは


 眩しい照りつける太陽、見渡す限りの青い空。

 森の中でも、開けた土地。


 ぼくの目の前にある景色は、そう――濃霧に覆われたシーアン・フォッグの只中などではなく、明るい森林の中に広がる鮮やかな緑色だった。しかも、食事を取った時に見た大勢の騎士たちが会話を交わす姿までもがあって、先ほどまでの光景と比べるとあまりにものどかすぎた。


「ま、まさか……本当に全部幻……?」

「そうね、あの女にいっぱい喰わされたのよ。私たちは幻を見せられてたの。ここで眠っていただけで、私たちは一歩もこの場を動いていなかった。幻惑の沼地(シーアン・フォッグ)の危険を潜り抜けられるか、デモンストレーションってところね……」


 アイリが首をすくめ、栗色の騎士フィオーナが待つ奥へと足を進める。けれど、ぼくは足がうまく動かなかった。いや、違う。とある奇妙な態度を目にして、ぼくはその表情を浮かべる人物の顔にくぎ付けにされたのだ。


「どうしたの、リアン?ロゼッタとゴリラなら、ほっといてももうすぐ目が覚めるわ。さっさといかないと、あのいけすかない女騎士に――」

「なんで……なんで、そんな顔してるんだ、トト?」


「……っ!!!!」



 そこには、ぼくの顔を見つめながら、まるで信じられない物でも見るような瞳をする鳥の被り物を被った少年――トトの姿があった。



 ―――


「がっはっは……!道理でおかしいと思ったぞ!ワシらは、シーアン・フォッグに足を踏み入れなくていいように貴様らを説得しようと思っておったのに、封印剣レゾナンスの説明を受けた直後、まるで記憶が飛んだかのようにシーアン・フォッグに足を踏み入れておった」


「幻――夢の中だからこそ、そのことに疑問を持たなかったってわけね。考えてみれば、おかしかったわ。次々とモンスター達が襲ってきて、まるでモンスター・パレードよ!」


 バルザックが豪快な笑みを見せながら、よかったよかったと安堵をし、ロゼッタさんが顎に手を当てながら思案する。ぼくら五人の大罪人が囲う先には――フィオーナが兜を取った姿で、不敵な笑みを浮かべて立っていた。


 何度でもひきつけられてしまう美貌だ。馬の鬣のようにしなやかな栗色の長髪。鋭すぎる金色の眼光は、どうしてか視線を留められてしまう。少しは見慣れて、心を落ち着けて見れるようになった気はする。けれど、人並外れた美貌であることは、誰の目にも明らかだった。


「ふん、私たちを試してたってわけね!あんたの魔法かしら?何にしろ、ありがとう。あんたのおかげで、私たちの力じゃシーアン・フォッグ攻略は不可能ってことが証明できたわ!」


「――ってことです。皆が言っている通り、ぼくたちは望んでいます。シーアン・フォッグに足を踏み入れずに済む方法を。ぼくたちは、本当に封剣レミナンスのことなんて知りません。証明はできないかもしれません、信じてくれなくてもいいです。けれど、シーアン・フォッグでの刑だけは取り消してくれませんでしょうか?どんな形での無償の手伝いでも構いません。このままぼくたちがシーアン・フォッグに向かったところで、妖精樹(ピクシー・ウッド)の宝石を手に入れることなんて、夢のまた夢……無駄死にするのが目に見えています。どうかシーアン・フォッグ行きだけは……」


 どの立場なのか、腕を組んで偉そうに言い放ったアイリと対照的に、ぼくは頭を下げて懇願する態度を取った。


 この際――いや、元から体裁をあまり気にするタイプではないが、手段やプライドにこだわっている場合ではない。なんとしてでも、シーアン・フォッグ行きだけは取りやめて貰わなければ……。


 けれど、ぼくらの懇願を運命があざ笑うかのように――フィオーナは浮かべていた不敵な笑みすら消して、冷たい瞳でぼくらを見据えてきた。


「それはできない相談だな。むしろ、逆だろう。お前たちは――あれだけの連続の襲撃に対し、幻の中とはいえ見事に対処してみせた。ブレイダーとニードルズのみ手に余る様子だったが――それも、ここ」


 フィオーナは、自身のこめかみを人差し指でつつく。


「――を使えば、超えられない試練ではないだろう」


「確かに、連続の襲撃だからこその苦戦ではありました。けれど、断続的であっても、ずっと続けば――」


「おまえらは、シーアン・フォッグを超えられる!それとも、まさか、大罪人の分際で全員生き残ろうなどとは思っていないだろうな?なにより――」


 フィオーナが腰の曲剣を突然、引き抜く。地面に素早く突き立て、巻き起こった旋風がぼくらの頬を激しく撫でた。


「先ほどのテストで、封剣レミナンスの所持者が判明した!!」


「「「「「っ……!!」」」」」」


 戦慄が走った。肌が泡立つ。心臓が激しく脈動した。誰もが予想もしていなかった事実に、それだけはありえないだろうと思いこんでいた現実に、お互いの視線を交わし合って、思わず犯人捜しを開始してしまう。


 ぼくら――否、ぼくらの中の一人だけは冤罪じゃない?本当に封剣レミナンスを盗んだ、大罪人……が紛れ込んでいる。


「つまり、貴様らは冤罪ではない。事実、大罪人として、封剣レミナンスを盗んだ盗賊の一味として、罪を償うために、シーアン・フォッグの攻略に挑むのだ!!」


 覇気と共に、フィオーナが言い放った一声に。

 腕が震える。心の臓がわし掴みされたかのように、激しく脈動して苦しくなる。


(誰かが犯人……この中に本物の大罪人が――)


 こんなのどうやって、誰を信用すれば――



  ―――


「おっと忘れるところだったな……」


 ぼくら大罪人メンバーが暗い面持ちで、ついにシーアン・フォッグに出立しようとしていた時だった。


 先頭を歩いていたフィオーナが突如踵を返し、その腰からゆっくりと曲剣を引き抜いた。


 ぼくらの気持ちはとっくに沈んでいて、これ以上追い込む必要がないほど、落ち込んでいたというのに――。


 フィオーナは、最後尾を下を向いて歩いていたトトの前へ進むと――その震える体を、抜き放った白閃の一撃で斜めに両断していたのである。


「役立たずに、用はない――!」

 


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