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第11話 針蚊の群れ

 栗色の長髪が、濃霧の中で鮮やかに煌めく。前方を鋭く見据えるヘーゼル色の瞳が、微かな緊張を覚えているのか揺れていた。

 その右手に握るは、銀色の曲剣。そこまで一度も刀身を目にしたことがなかったのだが――ニードルズという極大の危険の来訪を前にして、ついにその銀に輝く刀身が露となっていた。


 ロゼッタさんが小さな切り傷を多数負った体で、肩で息をしながら息を呑みながら言う。

 

「ニードルズはまずいですわ。――トトさんとアイリさんの事が心配なのは分かりますが……、一度忘れた方がいいですわ、リアンくん」

「は、はい……!分かってます……!」


 ロゼッタさんが言いながら、槍を弧を描くように振う。すると、中空から半透明のウーパールーパーのような魔法生物3体が出現し、ぼくのブレイダーに引き裂かれたズタズタの左腕にピトリとはりついた。生き物が傷口に触れる痛みを感じ、ぼくは悲鳴をあげそうになった。が、その魔法生物たちが頬をこすりつけるようにエラで傷口に触れた瞬間、そのエラが無数の細い糸となって傷口を縫合しはじめた。


桃色の繕い(ピンク・メンド) ――!」


 ロゼッタさんが優しくそう唱えた瞬間、傷口が見る間に塞がっていった。

 ぼくは、その脅威の回復魔法に目を丸くしながらも――。


(「うわぁ、可愛いしすごいけど、私程じゃないわね! 」とか、アイリだったら毒づくだろうな…)


 と、頬を膨らましたアイリの姿を思い浮かべてしまった。さっき、ロゼッタさんに言われたばかりなのに――。


「ニードルズのヤバさなら、物知りじゃないこのワシでも知っとるぞ……!」

「ええ……いわば、ニードルズは、シーアン・フォッグに存在する、【沼の主】(フィールドボス)……!!」

 

 

 濃霧の奥から、無数の羽音の正体が、ついにぼくらの視線で捉えられる範囲へと姿を表した。


 それは、一見すると中空を回遊する巨大な黒い怪魚。しかし、目を凝らすとそれが無数の羽虫――手のひら大程ある線の細い虫の集合体であることが、見て取れる。ソレは完璧な連携を見せるかのように、まるで本当に一個の生命体であるかのようにギョロリとこちらを少し首をまげて振り返り――大口を開けて迫ってきた。

 恐るべきは、その驚異的な接近速度である。

 

 あくまでソレらは、一つの生命体ではなく。あくまで魚としての動きは見せかけだけで、実際の移動速度には一切影響を及ぼさないはずなのに……。


 グンッ――、と。その巨大なヒレを後方へ掻きだした瞬間、爆発的な速度でぼくらの目の前にそれはいた。


 綺麗に横並びとなっていた、ぼくらの目と鼻の先だった。

 無数の羽虫たちが奇妙な程に高い羽音を響かせながら。赤い眼光を閃かせながら。

 ぼくら目掛けて、尻から伸びる大きな針を突き出してくる。


 ぼくが、ロゼッタさんが、バルザックさんすら――反応できず、棒立ちとなって顔面を蒼白に染める中――。


「遅い……!!」


 ニタリ、と。

 栗色の女騎士、フィオーナが頬を釣り上げて不敵な笑みを浮かべていた。

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