第10話 密談 2
三之宮伯父の言葉は続く。
「もう既に動いているお前に、今更何を、と言うだろうがな。しかしながら、国の方が動きに付いて行けてないのだよ。お前の働きを、今まで隠蔽して来たことが、今になって仇となっている。総理を始め我々大臣、各省の次官クラスまでは、お前の事や働きは周知している。しかし実務を担う、その下にいる者たちには全く信じられず、中には作業を投げ出してしまう者さえ居る」
伯父は言葉を切るとミードのグラスを飲み干した。
「何だ、慎一郎。箸が進んどらんではないか。食え食え。俺は、今日お前との飯を楽しみにして来たんだぞ。飯を食いながら、俺だって重たい話なぞしたくないわ」
慎一郎は料理を口にする。あぁ、うにうまい。和牛の手毬寿司うますぎる。
その時、表から女将の声がかかる。
「失礼いたします」
女将と中居が入って来て、お造りの皿ををそれぞれの前に出していく。
「お造りで御座います。
先生、お飲み物はいかがいたしましょう」
「日本酒を冷たいので貰おうかな。皆も好きなものを頼みなさい。ん? 同じ物でいいのか? では女将それで頼む」
伯父は中トロを箸で取りながら言う。
「畏まりました。山形の吟醸酒が宜しいかと思いますのでお持ちいたします」
女将は出て静かに襖を閉めた。
「さて、話しの続きだ。
そんな訳でな、法整備がちっとも進まん。今年度中の国会は先ず無理だろう。
そこでだ…。慎一郎、先日報告に有った、魔力調査と言うものを、お前から詳しく聞きたい」
三之宮伯父は、大トロを口にしながら言う。
慎一郎は、箸を置くと伯父に向かう。
「魔力調査は現在も、都内を中心に定期的に行っています。報告に上げた様に、都内三ヶ所でそれが確認されています。場所は新宿、渋谷、上野です。
魔力が残った跡、これを魔力残滓と言いますが、これは、魔法使いが魔法を発生した場所と効果を及ぼした場所の二ヶ所に残ります。具体的な例で言えば、ゲームなどにファイアーボールと言う魔法が有りますが、これを使う場合、火の塊を発生させた場所これが発生場所ですね、そしてこれを飛ばして着弾、爆発する。これが発動場所です」
慎一郎は手振り等を交えながら説明する。そしてグラスの残りのミードを口にした。
「失礼いたします。お酒と揚げ物をお持ちしました」
女将と中居が、お酒と揚げ物の乗った盆を持ち入って来る。それぞれに配膳し終えると手早く出て行った。
慎一郎は説明を続けた。
「先ほどの説明の様に魔法を使えば、必ず魔力は残ります。しかしながら、それは数時間から数日かけて霧散消滅していきます。これは発動した魔法にかけた魔力量によって変わります。今回発見された三ヶ所のものは、どの場所も発動前に止められたものではないか、とのことです。中でも新宿のものは、六メートル程の距離に三ヶ所有り、魔力が少しづつ減る様な並びだったそうです。調査員の考えでは、これは歩いていた人を追いかける様に発動しようとしていたのではないかとの事です。
この様な事から、この三ヶ所は何時発動してもおかしくないと考えます。更に憂慮すべきは、昼夜問わず人通りが非常に多いと言うことです。もし、これが発動した場合、多くの人目に触れる、最悪の場合は多大な犠牲が出るかも知れません」
慎一郎は、冷徳利に入った吟醸酒をグラスに注ぐと、一気に煽った。刺身も一切れ摘む。あぁ、中トロうまい。アオリイカも摘まんじゃえ。
伯父達三人は黙り込んだままだ。煽りすぎたか?
「その発動の時期や確率などは、予測出来んのか?」
父憲史郎が冷酒を飲みながら、慎一郎に問う。
「それは、難しいと思います。ただ、発生場所はいずれも人通りが非常に多い場所である、と言う事です。この事は、都内では多くの場所で発生しうるとも言えます。
それと…。こちらを見ていただきたいとおもいます」
慎一郎は、ジャケットの内ポケットから、スマホを取り出すと、とある動画サイトから一つの動画を選び、その画面に映し出した。そのタイトルは『恐怖 新宿でナゾの発光現象を目撃!』
そのショート動画は、撮影時間は不明だが夜間である事は分かる中、友人と話しながら歩く撮影者の五メートル程先のアスファルトの地面に、直径三十センチ程の円形の光が、うっすらと光っていた。それに近付くにつれて光は弱まり、一メートル手前には消えてしまった。動画内では、撮影者とその友人達が、ひとしきり騒いで動画は終わっている。
慎一郎はスマホを消しポケットに戻すと言った。
「この動画は一昨日、私の妹が在る動画サイトで発見して、私に知らせてくれたものです。私は動画の内容を確認し、すぐさま課員を撮影場所へ向かわせ、調査を行わせました。現場は新宿歌舞伎町一丁目の靖国通りに面した歩道上です。これは先ほど報告しました新宿調査地点から、五十メートルほどの距離です。課員が現着し直ぐに調査を始めましたがすでに、現場の残留魔力は消失していたとの事です」
慎一郎は冷酒を手酌で注ぐと一息であおり、赤身を二切れ口に放り込んだ。そして再度グラスに冷酒を注ぎながら伯父の様子を伺うと、うっすらと笑みを浮かべながら冷酒を飲んでいる。何だ?何を企んでる?
「慎一郎、これは何かしらの魔法が発動する前兆と、とらえて良いのか? 今は官僚みたいな答えでは無くお前の考えをはっきり言ってくれ」
父憲史郎が表情を無くして言った。
達磨大臣を見ると顔を引き攣らせている。発動していないとは言え、魔法を見るのは始めてなのだろう。
伯父だけが、顔をニヤつかせている。
「近々、何かしら魔法が発動するでしょう。恐らく召喚魔法かと思います。召喚魔法は、その魔法に条件付けを行い、その条件に適った対象を召喚先に送ります。たぶん、この歌舞伎町の通りを、その条件に適う人物が良く通るのでしょう」
慎一郎は酒を一口含み、蓮根の天ぷらをかじる。
「先ほども言いましたが、何時起こるかと言う予測は出来ませんよ。ただ、おきる確率は非常に高いです。予防は難しいですが、警戒はしておいた方が良いでしょう。所轄の地域課の巡回を調査場所を中心に増やして貰えれば良いかと」
慎一郎は車海老の天ぷらに噛り付くと、その奥にある玉子の天ぷらに気が付いた。俺が好きだったの女将さん憶えてくれてたんだ。
「慎一郎よ。事件となった場合の五課としての対応は大丈夫なのか?」
伯父が真面目な顔をして聞いてくる。
「先ほど言った車両の件もそうですが、装備がまだ不十分です。事案に成った場合、相手方に乗り込み急襲するかたちになりますのでSATと同等のものが望ましいです。それと出向組の二人に二〇《フタマル》式の支給は可能でしょうか?出来れば使い慣れた物を持たせてやりたいのですが」
慎一郎は、まだ遅れている支給品に不安になる。特に装備品や火器は深刻な問題となる。
「車両は先ほど言った様に対処する。二〇式だがこれは少し待ってくれ、先に八九式を送る。装備の方と相談しなければならん」
これには、父憲史郎が答えた。
「あとですね、外部協力者の火器携帯なのですが。これは許可いただけ無いのでしょうか?以前よりお伺いを立てて居たのですが」
「駄目だ」
父憲史郎は即答だった。




