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暗黒十字と魔剣・コラプサー

 黒い光は3人に幻を見せてきた。あの大海嘯の場面だった。目の前にはフォマルハウトがいる――。

「フォマルハウト!」

 しかし、彼はガクルックスの持っていた剣に胸を突き刺された。カペラはトラウマになりそうな場面を見せられ、「いやあ、やめて!!」と悲鳴を上げた。最愛の人を失った場面をまた見せられる――これほどの地獄があるだろうか。

《ふっふっふ。我は暗黒十字。お前ら人間の心の隙間につけ込んでやるのだ》

 アヴィオールも顔をゆがめている。いやだ、もうやめてくれ!! 父さんの死ぬ場面なんて見たくない!!

《ふははは!! お前ら人間は弱い!! 心の隙間につけいればいとも簡単に…》

 しかし、その幻に動じない人物――カノープスは、暗黒十字を柱の角にガンガンッ、と叩き付けた。

《ぎゃああ!!》

 今度は暗黒十字が悲鳴を上げる。が、意に介さずカノープスは十字架をぶつけたり振り回す。そうこうしているうちに幻が消えた。我に返ったカペラとアヴィオールも唖然としている。

「ちょ、カノープス!」

「ああ? これ、何でしゃべるんだ?」

《おい、こんなことしてただで済むと思っているのか!? 俺は天下の暗黒十字だぞ! お前ら人間の心なんて、あっという間に蝕んでやるんだからな!》

「でもお前、自分だけで充分に働けないんじゃないのか?」

 図星だった。暗黒十字は、欲望の深い者が握ってこそ本当の効果を発揮する。十字架そのものだけでは長く幻を見せられないのだ。現に、カノープスが衝撃を与えると幻が消えた。

「ちょうどいい、ガクルックスとアクルックスの居場所を教えろ」

《ふん、誰が教えるか! 知りたければ自分で探せば…》

 悪態をつく十字架。しかしカノープスはその両端を両手で持ち、にらみつけた。

「へし折るぞ」

《ひいっ!!》

 十字架は金属製なので簡単には折れないだろう。が、それも並の人間の場合である。カノープスの腕力は同世代の男性の数倍はある。折ったりねじ曲げたりするのはわけもない。ギギギ…と耳障りな音がする。本気で折るつもりだ。

「十数えるうちに吐け。一、二、三…」

《わ、分かった、教える! 教えるから!!》

 カノープスは必死に命乞いをする十字架を床に突き刺し、近くにあった木槌で打ち付けた。「ぎゃあ!」という悲鳴を無視し、冷徹に言い放つ。

「さ、とっとと吐いてもらおうか。あいつらの居場所と、お前の正体、そしてあの剣のこと…」

《はあ!? さっきは居場所だけって…》

 カノープスは十字架を踏みつけてにらむ。

「お前、バラバラにされたいのか? あ?」

《は、話す、話すから!》


 まずは剣のことから。

《あの黒い剣は魔剣だ。名前はコラプサーって言うんだ》

「魔剣・コラプサー?」

 カペラが聞き返す。黒くて太い刀身、拵えは髑髏など禍々しい意匠で、いかにも魔剣といえる代物だ。ちなみにコラプサーとは、ブラックホールの別称である。

《あの剣がこの世に誕生したのは、今から300年以上前のことだ》

 最初、コラプサーはナイフだった。当時の北の村の西海岸で、無理心中を図った男女がいて、その時に使われたのだ。その時までに、既におびただしい数の人間の血を吸っていたらしい。十字架曰く「拷問や処刑に使われてきたんじゃないか」とのことだ。

 男女の遺体がある現場で1人の女がナイフを見つけ、手に取った。その女は、再婚した夫に崖から突き落とされたものの、九死に一生を得たのだ。

《その時、夫や社会に抱いた恨み・憎しみが膨張したんだ。ナイフはそれを吸い取って、突然魔剣に覚醒した》

 拷問、処刑、無理心中…そして女のどす黒い心。それらが結集して、血に塗れた刀身が黒く変化したという。女はその剣に魂を乗っ取られて、夫や自分の子供の命を狙った。

《その子供ってのが、初代紫微垣だよ》

「え!?」

 全員が驚く。カノープスですら目をみはった。まさか、そんな逸話があったとは。

《母と子の戦いでナイフははじき飛ばされ、山津波に飲まれて行方不明となったんだ》

 しかし300年後、ナイフは海流に流されて蟹の目町に現れ、1人の漁師に拾われた。その時は何の悪事も起こさなかった。魔力が弱っていたのだろう。

《その拾った漁師は赤星団ってテロ組織に入り、そのナイフを首領に預けた。だけど、その首領は『血で錆びたナマクラ』と思って、占領した北河荘のどこかに置きっ放しにしたままだったんだ。ちなみにその漁師ってのは、警備兵に捕まった末、不可解な死を遂げたらしいぜ》

 カペラはハッとした。

「まさか…アクラブ!?」

 フォマルハウトとルクバトが捕縛し、尋問中に死んだ男だ。妖星疫の薬の効果が切れたか、その副作用が原因と思われる。

《そしてテロ事件の後――コラプサーはとんでもないことをしでかすんだ》


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