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大海嘯③

「ハウト!」

「師匠!!」

 カペラとカノープスが叫ぶ。今、ガクルックスがフォマルハウトの胸に剣を突き刺し、切り裂いた。フォマルハウトの手から七星剣が落ち、その体も膝を折って崩れ落ちた。

 カペラは駆け寄り、すぐに天漢癒の腕輪を取り出して治療を試みる。

「ハウト、しっかりして!」

 が、回復しない。天漢癒の腕輪は時間をかければ治るけがしか治癒できない。致命傷を負ってしまってはなすすべがないのだ。

「カノープス、どうした!?」

 ミモザとミアプラも駆けつけた。

「し、師匠!?」

「――!!」

 2人とも声を失った。何があったというのだ?

「…逃げろ」

「え?」

 フォマルハウトは辛うじてしゃべった。

「津波…が来ている…逃げろ」

 その通りで、すぐ目の前に大海嘯が来ていた。距離にして30m。すぐに自分たちを飲み込んでしまうだろう。間に合わない!

 するとフォマルハウトは七星剣を手探りでつかみ取り、秘剣を発動させて4人に巻き付けた。

「五の秘剣・錨星!」

 渾身の力で七星剣ごと高台に向けて投げつけた。4人は宙を舞って丘の上にしりもちを付いた。

「師匠!」

 丘の下を見た時、自分たちがいた場所が津波にのみ込まれているのが見えた。


 大海嘯は甚大な被害をもたらした。家屋は浸水し、人々は流された。天牢庵の面々は数日間、フォマルハウトの行方を捜した。1週間後、海から遺体があがり、その中に彼がいたのだ。

「ハウト…嘘でしょ?」

 カペラが遺体に駆け寄り、しがみついて泣き始めた。穏やかな表情だが変わり果てた姿。最愛の夫を亡くしてしまった。

「師匠…最後の秘剣で、みんなを助けてくれたんだよな」

 ミモザがぽつりと言うと、古株の候補生3人も顔を手で押さえた。カノープスははじめこらえていたが、目をつむると涙がとめどなく流れた。

 ヤングケアラーの自分を紫微垣の道に導いてくれた恩人――。まさかこんなにあっけなく今生の別れが来るなんて……。

 その数日後――大海嘯の被害が残る中だったが、フォマルハウトのささやかな葬儀が行われた。遺体を火葬し、骨壺に納めた後、一悶着があった。

 ミアプラが1人で泣いている時、カノープスがやってきたのだ。

「何よ」

 いつものようにけんか腰で目を向ける。

「別に」

「あっち行ってよ! 目障りなんだよ!!」

 ミアプラは一の秘剣・魚釣り星を繰り出す。が、カノープスは七の秘剣・文綾の星ではじき飛ばした。

「私情に任せて秘剣を使うな…そう言ったのは誰だ?」

「うるさいわね!」

「ふん、反抗期だったから、父親への態度がきつかったのを悔やんでいるのか?」

 図星だった。しかも、「フォマルハウトは妻を捨てた」という真相を聞けなくなってしまったのだ。その事実が、ミアプラの怒りをさらに激しくした。

「あんたなんかに何が分かるのよ!? 私がどれほど苦しんだと思っているの!!」

 ミアプラはカノープスの胸倉をつかんだ。女子の腕力そのものは強くないはずだが、鍛錬を積んでいるため容易には振りほどけないほどである。

 が、カノープスは意にも介さず、冷徹な言葉を投げつける。

「だったら、何で師匠が生きているうちに聞かなかったんだよ」

 その瞬間、ミアプラの瞳に涙が溜まってきた。目はつり上がったままでカノープスをにらみつけているが、口はへの字に曲がっている。

「師匠とカペラさんの間がどうの、生みの母親がどうのじゃねえだろ! 目の前の家族と向き合えなかった事実を受け入れろ!」

 すると、ミアプラは拳でカノープスの頬を殴りつけた。バキッという派手な音が葬儀場に響く。参列者たちが一斉に振り向くが、カノープスは歯をくいしばって耐えた。

「気が済んだか? ばか娘が」

 カノープスの鋭い一言が、ミアプラの心を刺す。

「師匠は私情や欲望でなく、ポラリスや民を守るために力を使えと教えてくれた。大海嘯が起きたんだったら、やはりあの双子がポラリスを盗んだ可能性が高い。俺は北の町に行くぜ」


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