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ミアプラの葛藤

 双子が去って1週間――。残った4人の候補生は、毎日修行に精を出していた。が、ミアプラは心が晴れない状態だった。

 あの双子は同期で、一緒に修行をしてきた仲間だ。特段、仲が良かったわけではないけど、励まし合いながらやってきたのは事実である。

 それなのに、彼らの父親はねぎらいの言葉もかけずに見捨てるなんて……。一体どういうつもりなの?

 そんなふうに考えながら歩いていると、東の都のとある役場の前に来ていた。天牢庵の入り口の前を通り過ぎて東に行った所にある。ということは、天牢庵を通り過ぎたのか。

「何やってんだろ、私。ぼーっとしちゃった…」

 Uターンをしようとすると、ふと窓越しの一室に2人の男女が役人と向かい合わせで座っているのが目に入った。男性は不満そうな顔をして、女性は虚ろな表情だ。近づいてみると会話が聞こえてきた。

「では、この離婚届にサインをしてください」

 男性が書き終えると、隣の女性の前にスッと持ってきた。

「書いて」と男性が言うが、女性はなかなか書こうとしない。やがて

「あの…本当にごめんなさい。私、あなたがこんなに苦しんでいるなんて思わなくて」

 弁解するような言葉である。すると男性が、持っていたペンをバンッ! と机に叩き付けた。女性がビクッと肩をすくめる。

「謝れば済むと思っているのか? 家事も育児もろくにせず、いつも俺に八つ当たりしていたよな? 今さら謝っても遅いんだよ!」

 男性が怒鳴ると、女性は目を押さえながら書類にサインをした。すると男性はさっと書類を取り去って、

「じゃあ、そこの受け付けに出してくるから」と言って部屋を出て行ってしまった。後に残された女性は、堰を切ったように泣き始めた。

 離婚か――うちの母親は死別で、その後に継母が来たと聞いている。けど…


〈フォマルハウトは、妻を裏切った〉


 その言葉がずっと心にひっかかっていた。噂話でしか聞いたことのないものだけど、父・フォマルハウトに聞く勇気もなかった。また、幼い頃は気にもとめていなかったことが、思春期を迎えてから鎌首をもたげてきた。


 ――父さんは、前の母さんの話をほとんどしない。


 離婚しての別れなら話したくないと分かるが、死別なら多少は良い思い出があって、カペラがいない時に教えてくれても良さそうなものだ。でも、聞いたことがない。

 前の母さんの話で聞いたのは、自分が赤ちゃんの頃に亡くなったということ、それだけなのである。

 もしかしたら死別ではなく離婚だった――? だとしたら、何で本当のことを教えてくれないの? そんな思いが度々わき起こってきた。


 ミアプラは天牢庵に戻って、いつものように修行のメニューをこなす。が、身が入らない。遠目に、フォマルハウトとアヴィオールが談笑する姿が見える。アヴィオール……父さんと継母の間に生まれた異母弟。両親の愛を一心に受けている男の子。

 私、たぶん嫉妬している。実の父母がいることがうらやましいのだ。心のもやもやは全てそこにあると、何となく自覚し始めていた。

 ミアプラ、アヴィオール、ミモザ、そしてカノープス…この4人が紫微垣の候補生だが、この頃から、彼らが一緒に修行することがほとんどなくなっていた。そんな折――東の都で、ある不可解な事件が多発し始めたのである。


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