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魔剣との邂逅①

「ひどい……」

 カペラが手を押さえてつぶやく。そばにいたフォマルハウトも、顔をしかめている。四人の候補生にいたっては、初めて見る光景に後ずさりしていた。

 双子が去ってから2カ月後のことだ。東の都の小道に、大量の血がまかれていたのである。その血の池には、引きちぎられた人間の手足、内蔵の一部、目玉などが浮かんでいる。

「まるで、あの時みたいだ…」

「ええ」

 フォマルハウトとカペラは、15年前に北河荘で起きた立てこもり事件を思い出していた。多くの犠牲者を出した赤星党のテロ――実際にその場にいた彼らは、記憶を引き出すのに時間はかからなかった。

「おう、フォマルハウト」

「ルクバト」

 近くにいた壮年の警備兵が声を掛けてきた。ルクバト――例の立てこもり事件を制圧したチームの指揮官であり、フォマルハウトとは旧知の仲だ。

「あの時を思い出すな」

「お前もか。ただなあ、不可解なことがあるんだよ」

 ルクバト曰く、遺体の他の部位が見つからないのである。この血の量から推察すると、殺害方法は体を八つ裂きにしたか強い力で引きちぎったかである。が、それならば遺体はバラバラになって散乱するのだが、それがない。特定の部位を持ち去るとしても理由が分からないし、持ち去る際に血が滴った形跡もない。

「え? どういうこと?」とカペラが首を傾げて聞く。フォマルハウトが言うには、現場に残っている部位からすると、犯人はかなりの量の部位を持ち去ったはずだ。が、持ち去る時に傷口から血が滴るはずだから、血痕として残るようなものである。が、周りを見てもその形跡がない。「台車とかで運んだか、液体が漏れない袋に入れて持ち去ったか…」

「猛獣が食べたってのは、ありえない?」

「カペラ、ここは都だよ? 田舎や山奥ならともかく、そんな猛獣がいたら警備兵がすぐ気付くし、撃退するよ」

 フォマルハウトはルクバトを指さす。彼ら警備兵の働きは、東の都の治安維持に欠かせないし、精鋭部隊を揃えているから、治安も保たれている。

 とりあえず、フォマルハウトたちは天牢庵に帰ることにした。

 天牢庵に戻った候補生たちは、先の事件について話していた。

 ミモザは「猟奇的な犯人だが、1人じゃ遺体を運び出せない。複数人の仕業じゃないかな」と言った。

 アヴィオールは「猛獣の線はないのかな。地面もだけど、建物の壁にも血がべったりと付いていたし」と言った。が、ミアプラが「馬鹿ねえ、父さんも言ったでしょ? 都に猛獣は来ないって」と返す。

 3人の話をよそに、カノープスは1人で黙々と剣の素振りに励んでいる。

「おーい、カノープス。少しは話に混ざったらどうだい?」とミモザが声を掛けるも、

「俺は誰が犯人かなんて興味はない。少しでも早く、力を付けたいんだ」

 すると、ミアプラが肩をすくめた。

「付き合い悪いわねえ、友達なくすわよ?」

 皮肉めいた口調に対し、カノープスは顔を向けずに素振りを続けながら答えた。

「友達なんて大勢いても、たいして役に立たねえよ。頼れるのは自分の力だけだ」

 家族のケアを続けているだけあって、説得力があった。


 その頃。フォマルハウトは、カペラやルクバトを交えて例の事件について話していた。3人が囲むテーブルには古いファイルが並べてある。

「これは?」

 カペラが尋ねると、フォマルハウトが言った。

「15年前の立てこもり事件のものさ。実は、あの事件と似たところがあって、引っ張り出してきたんだ」

 フォマルハウトが言う“似たところ”とは、遺体がなくなっていたことである。立てこもり事件の時は、首謀者のアンタレスは遺体で発見され、シャウラは劇薬の作用で肉体が消滅したのを視認している。が、その他の遺体が回収されなかった。

 3人とも、赤星党や警備兵部隊が多く犠牲になったのを目撃している。戦闘が終わり、建物の外で手当を受けたり事務処理をしたりしていた時、兵の1人が駆け込んできて、「他の遺体が見当たりません」と告げたのに驚いたことを、よく覚えている。

フォマルハウトは「あの数の遺体を、自分たちが不在の1時間足らずで持ち出せるだろうか?」と不可解に思い、事件後も真相を究明しようとしたが、結局は謎のままだった。その一連の事件の流れがつぶさに記録されているのである。

 今回の事件を機に、あの謎も解明できるかもしれない。そう思って、過去の資料を掘り返したのである。

「遺体があったであろう場所に遺体がないというのが、二つの事件の共通点だ」

 北河荘の見取り図には、遺体が多くあったと思われる場所が記載されている。もっとも、生存者の記憶だけを頼りに書いているので真偽のほどは定かではない。が、見る限りでは1階から5階まで合わせると20カ所はある。そのように散らばっている遺体を全て回収できるかはやはり疑わしく、また実行する目的も分からない。

「何か、呪法や薬の類いは考えられないか…?」

 ルクバトがつぶやくと

「そうだな、それしか考えられないな」

 と、フォマルハウトも返す。

 星の大地では、けがや精神を癒やす「天漢癒の腕輪」をはじめとした呪法、赤星党のアンタレスが使った「大火の薬」などが存在する。おそらく、犯人はそれらに属する不可思議な力を持っていると想定できる。

 しかし、何のために――?


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