手に入れた幸せ
僕は神に感謝した。僕にやり直す機会を与えて下さったのだ。
全てを思い出した僕は彼女を強く抱きしめた。確かに彼女はここにいる。それを信じさせてほしくて。
彼女は僕の腕から逃れようとしていたが、しばらくすると大人しくなった。
もう離さない。離したくない。
次に彼女を殺されたら僕は、きっと狂ってしまうだろう。そう確信できた。
あの虚無感の正体は、彼女を失った僕の心そのものだった。彼女に出会って満たされたのも、考えてみれば当たり前のことだった。
もう二度と会えないと思っていた彼女に、もう一度会えたのだから。
ずっと何かに邪魔をされていて思い出せなかった。だけどやっと思い出せた。
イザベラに僕がずっと言えずにいた言葉を真っ直ぐ伝えた。
彼女は僕がアマンダ嬢を好きだと勘違いしていた。前回はそれを何故か否定できなかったのだけど、今の僕にはそれができる。
僕はありったけの想いを彼女に伝えた。だけど彼女は僕の言葉を信じていない。
きっと彼女も今、何かに邪魔をされて上手く答えを出せずにいる。それを僕が、ぶち壊してやる。イザベラと僕を引き裂くものは、何としてでも消してやる。
前回の彼女のことを、止めることができなかった処刑のことを口に出せば、彼女は目を見開いた。
その瞳には、失われていた色が徐々に戻っていく。
覚えているのかと問われ、そうだと答えると彼女の瞳には完全に色が戻っていた。
ああ、会いたかった!イザベラ!
「わた、私もカルロス様が、好きです」
そう震える声で懸命に僕に気持ちを伝えてくれる彼女は以前の彼女で、あの他人行儀な彼女はもういない。愛しい愛しい、僕の婚約者。
僕はついに、大切なものを取り戻した。
「僕も好きだよ。愛しているよ、イザベラ」
もう二度と、君を失いはしない。
彼女との日々の大切さを改めて痛感した僕は、一日一日を大切に過ごしていた。
それをぶち壊したのは、僕らを引き裂いた憎きアマンダ嬢だった。
「どうして!?なんで悪役令嬢とカルロス様が仲良く歩いているの!?」
鬱陶しいストーカー女がきた。だが歯向かうというのなら、僕もそれに答えてやろう。
「アマンダ嬢、何を言っているんだい?僕らは婚約者同士なんだから、それくらい当たり前じゃないか」
そう言って僕はイザベラの身体を引き寄せた。もう二度と、引き裂かせはしない。
邪魔する何かがなくなった僕は、前回の反省を生かしてイザベラへの溢れんばかりの愛を周りに見せつけた。絶対にイザベラに勘違いさせない為に。周りにアマンダ嬢との恋を勝手に応援されない為に。
あの悲劇を二度も繰り返したら僕は間違いなく発狂する。
まあ次は絶対に彼女にあんなことさせないけど。あんな間違いを犯させない為に、僕は彼女に僕の痛い程の愛を知らしめた。
舞踏会では他の男性とダンスをさせない為に彼女にずっと僕の相手をさせた。彼女が他の男子生徒と話しているとそれを遮って邪魔をした。僕がアマンダ嬢を好きだと馬鹿な勘違いをしている、なんとも許し難い友人たちが来たときには人目も憚らず彼女に愛を囁いた。二人きりのときには彼女と手を繋いだ。
ちなみに手を繋ぐ以上のことはしていない。彼女に嫌がられたら僕は死にたくなる。手を繋ぐ以上のことは、僕たちが結婚してからでいい。ゆっくりでいい。だって絶対に僕は彼女と結婚するからね。
これらの僕の努力の甲斐あって、イザベラは間違いなく僕がイザベラを愛しているのだとやっと信用してくれた。これで彼女の友人であるキャサリン嬢からとやかく言われることもなくなるだろう。
キャサリン嬢は僕の次にイザベラを独占するので嫉妬して彼女から引き離したくなるのだが、前回イザベラを信じきれなくなりそうになっていた僕と違い、キャサリン嬢は最後まで変わってしまった彼女を正そうとしてくれていた。彼女を最後まで信じていた。
悔しいけれど、イザベラの幸せを願う気持ちは僕と同じくらいキャサリン嬢にはある。僕と結ばれる手助けをしようとしてくれたし、彼女が心許せる数少ない貴重な彼女の友人なので甘んじて許そう。
友人たちは僕の恋の相手の認識をやっと改めた。何故かアマンダ嬢を好いている彼らはアマンダ嬢にアタックしていくようになった。今までは僕に遠慮してアマンダ嬢にアタックできずにいたようだ。勘違いも甚だしい。
誰が婚約者のいる男に擦り寄るような、何故か僕の居場所を把握しているような恐ろしい女を好きになるものか。
友人たちはアマンダ嬢をめぐって醜い争いを繰り広げているようだが、好きにすればいい。僕はイザベラと一緒にいられればどうだっていい。
「悪役令嬢のイザベラは私に嫉妬して醜く私を罵るはずなのに!処刑されるはずなのに!こんなのおかしい!攻略対象のはずのカルロス様はイベントの場所に何故かこなくなっちゃうし、そんなに攻略してなかったはずの攻略対象に口説かれるなんて展開はなかった!なんでよ!私の推しはカルロス様なのに!」
アマンダ嬢が何を言っているのかはよく分からなかったが、何故か知らぬはずの処刑のことを知っている。
「カルロス様が死んじゃったからリセットしたはずなのに!なんで!?」
アマンダ嬢は間違いなく、前回の僕らの結末を知っている。
イザベラが処刑されたことも、僕がイザベラを追うように死んだことも。それに気付いたら、僕は彼女を殴り飛ばしたくなる衝動を抑えて側近にアマンダ嬢を捕らえるよう指示をした。喚くアマンダ嬢は醜くて、目も当てられないような女だった。僕の友人たちはあれの何がいいのだろうか。
あの僕を邪魔してきた何かは、きっとアマンダ嬢と紐づいた悪意の塊だ。僕の想いがアマンダ嬢にあるように見せかけたり、イザベラにそうしなくてはいけないと思わせて死に追いやった明確な悪意。
それはきっとアマンダ嬢の幸せの為だけにある、僕らの幸せを無視する強い力。
だけどもう、僕はそんなものに負けはしない。もう二度と、イザベラを失ってたまるものか。
捕らえたアマンダ嬢は二度と出てこられない修道院にぶち込んだ。友人たちがどうしてそんなことをしたと喚いていたが、構うものか。アマンダ嬢の家は不正を働いていたし、丁度良かった。まあ理由がなくても作って修道院にぶち込んでいたけれど。
もう僕とイザベラを引き裂かせない為、あの悪意の塊である変な力に二度と邪魔をさせない為にできることはしておくに越したことはない。
イザベラにはアマンダ嬢のことは転校したと伝えておいた。納得していない様子だったが、深くは聞いてこなかったのでアマンダ嬢の件はそこで終わった。
結婚式の日、僕の隣に確かに彼女がいることを確認する。泣きそうな顔を堪える彼女は、今何を思って僕の隣にたって、傍にいてくれるのだろうか。神父の話を聞きながら、彼女の手を握った。
神に愛を誓いあい、その証明の為に唇を重ね合わせた。
名残惜しいが柔らかい彼女の唇から離れると、僕たちは笑い合った。
神様、僕にチャンスを与えて下さってありがとうございます。
僕たちは自らの手で、幸せを掴み取ることができました。
少し照れくさそうに笑うイザベラはとても綺麗で。彼女を見る人たちの目を塞いで僕だけが見ていたいくらいに可愛かった。
でも今は幸せだから。このくらいの幸せのお裾分けは許そう。
もう二度と、君を失わせはしない。これからも僕は、君を死んでも愛し続けるよ。
同じくらいとは言わないけれど、君も僕に愛を返してほしい。愛されているのは感じるけれど、君を一度失った恐怖はどうにも拭えなくて。
君が笑ってくれないと、君が嬉しそうにしてくれないと僕はまた君を失うんじゃないかと不安で、きっと狂ってしまうからね。
僕だけのイザベラ。愛しているよ。
ランキングに何故か載ってるし、アクセス数伸びすぎててビビった。何が起きたの。
それはともかく、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
これにて完結です。