20話 見たモノ、見ているモノー02
「お前に図書館と亜空を任せた後、俺は急いで千寿を探しに行ったんだ。
その事には何の苦労もなかったよ、なにせ、いつものあの【研究所兼探偵事務所兼占い所】で、水晶を眺めていたからな。
それで、事情を簡単に説明して、千寿を屋上まで連れて行ったんだよ。【雨の空】を【見て】もらうために。
そこまでの一連の流れにも、まぁ色々と瑣末な問題が、有ったには有ったんだが、今回聞いてもらいたい話とは関係ないから飛ばすぞ。
それで、雨が降り始めてから、二分後くらいに、上手い具合に天井が崩れて、作戦は成功した訳なんだが。
あぁそうだ、上手くやってくれてありがとな、茉莉。正直、俺の意図が何処まで伝わってるのか、凄い不安だったんだよ。
そこで、ふいに鞘香が俺の方を見ている事に気付いたんだ。
今考えると、それ以前の事も見られてたんだろうけど、俺はその時、図書館を出てから、始めて鞘香の存在に気付いたんだ。
俺も今まで知らなかったんだが、アイツの【代償】である【存在感】は、【作品】が壊れる事で回復するみたいだ。
可逆の【代償】なんて、有るとは想像してもなかったけど、多分アレはそういう事なんだろうと思う。
正確に確認出来た訳ではないが、下から煙が立ち上って来るに比例して、アイツの姿がよく見えるようになったからな。
俺は慌てて鞘香にかけよりながら声を掛けた。
でも、アイツは、確かに俺の方を見てるんだけど、俺の事は見てないんだよ。
なんかな、虚空を見てるっていうか、虚ろな目をしてたんだ。
それから―――部屋に戻ってから今までずっと―――アイツは何を話しかけても、反応してくれないんだ。
俺に対して怒ってるとかなら、まだよかったんだが、もし俺が、図書館でアイツの位置が正確に見えなかった事によって、アイツの心の傷を、えぐってしまったんだとしたら―――
―――正直、やりきれないよ。」