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聖女の塔  作者: 河辺 螢
11/11

11 終(つい)の地

 ヴェントゥスヒルに戻ると、フィーリアは男爵家令嬢の家庭教師の面接を受けたが、令嬢ではなく子息の家庭教師と一家の女性の護衛を任されることになった。

 令嬢に教えられるのは座学程度で、女性としての礼儀作法などは人に教えられるほど身についてはいなかったが、騎士の作法や剣術は得意だったので、納得のうえ引き受けた。

 仕事が決まると、数日間居候していたエアハルトの屋敷を出て街の中に部屋を借り、仕事にも慣れてくるとしばらくこの街に住むことを決めた。


 エアハルトは王都での騎士団の仕事がない時にはヴェントゥスヒルに戻り、時々街で一緒に飲み明かす友となり、フィーリアを見守り続けた。


 国外追放の期限、三年が近づくと、ビリディスからフィーリアの元へ帰還を打診する手紙が届くようになった。もうそんなに経つのか、と、軽い気持ちでそのことをエアハルトに話したのだが、

「少しだけ待って欲しい」

と、ずいぶん真剣な顔で言われた。

 エアハルトは家督を継ぐために騎士団をやめ、ヴェントゥスヒルの屋敷に住むようになった。

 長年家族から打診されながらずっと渋っていたにもかかわらず、あっさりと西アルクスマリス領の経営を引き受けると、毎日を忙しく過ごす傍ら、時間を見つけてはフィーリアに会いに行き、説得の末、フィーリアをアルクスマリスに永住させることに成功した。


 フィーリアが着けていることさえ気にしなくなったイヤーカフは、元々対の魔法道具で、一方を着けている者の居場所を対を持つ者に示すものだった。

 エアハルトは、聖女奪還のため、元の用途も忘れて通信魔法を付与して他国の魔法使いに渡したが、そのイヤーカフ本来の力が、最後まで戻らないその魔法使いが塔から脱出できていないことを伝えてきた。

 光る塔を背に、長い髪をたなびかせて戦う姿は、見とれるほどに美しかった。

 塔から落ちたところを救出し、安全なところに待避させても消えるようにいなくなる。イヤーカフが導くまま、途中の道端の木の下で眠っているのを見つけた時、エアハルトはたまたまでもその魔法道具を渡した自分を褒めずにはいられなかった。

 にわかに付与した通信の魔法はすぐに切れたが、アルクスマリス国内くらいなら充分に居場所を感知できる。アーリアの婚姻式に出るため、アルクスマリスに近づいて来るのを感じ取った時は思わず笑みが漏れた。その後も旅をするフィーリアの無事を感じ、ヴェントゥスヒルに住むようになってからは、危なっかしいことに首を突っ込み、無茶をしがちなフィーリアの危機を何度か救うことができた。

 魔法道具としての機能がなかったとしても、そこに描かれた紋章を見ただけで、アルクスマリスでフィーリアに無体を働こうとする者は激減し、フィーリアを守っていたことなど、当人は知るよしもない。

 しかしその後、友人から妻になっても、守りのイヤーカフが必要でなくなることはなかった。



 同じ頃、アルムラピス帝国は終焉を迎えた。


 帝国の威信のため、と魔力を持たぬ大臣達からその力の提供を求められ続けた新皇帝は、自身の魔力枯渇を恐れ、ついに帝都から逃げ出した。自ら帝位を廃し、遠く離れた北の地に移り住むと、アルムラピス国内の一領主として慎ましく暮らすことを選んだ。

 先の皇帝の残した遺産を継ぐ者は、誰もいなかった。

 魔力が尽きた魔法都市は光はおろか、水さえも得ることはできなくなり、人々は帝都を離れた。

 五つの塔と城壁に包まれた花のような都市は静かに枯れていき、やがて廃墟となった。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

2021年、投稿初年、

これが最終投稿


振り返って読むと、意図せず、節電推奨物語になってしまってました

エネルギーを大切に

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