表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
褐色のイリア  作者: カラスの子
序章
1/2

褐色の少女イリア

 私には体の弱いお母さんがいます。


 お父さんはいません。


 少し前まで住んでいた山間の小さな村は戦争で無くなりました。

 灰になった村から、お母さんと二人。大きな街に避難して来ましたが、誰も助けてくれる人はいませんでした。

 お母さんは仕事を探しましたが、うまく見つからない間に病気になってしまいました。

 私は仕事を、お母さんの代わりに探しました。

 でも、小さな子どもに任せてもらえる仕事何てありませんでした。


 それでも探していると、私とお母さんが住み着いたスラムのお姉さんが仕事を教えてくれました。

 お姉さんが紹介してくれたのは、娼館の裏方の仕事でした。

 お客の相手の終わった娼婦の女性たちの部屋の後片付けに、仕事の終わった女性たちの体を濡れた布で背中など拭くのです。

 娼館には私以外の女の子たちも働いていました。

 娼館にとっては将来の働き手の確保もあるのだそうです。

 それでも働ける場所なんてないので、私は娼館の裏方の仕事にありつけたのは助かった話です。


 「お母さん、体大丈夫?」


 お母さんが体調を壊して一月。

 お母さんは日に日に弱っていきます。

 このスラムにいる限り、お母さんをお医者さんに見せることも薬を買うことも出来ません。

 娼館の仕事では、野菜クズとパンを一つ買うのがやっとなのです。


 もっと稼がないと。


 娼婦にでも成れば少しは違うのでしょうが、私はまだまだ小さく子供です。それに、私の肌はお母さんに似て褐色で白い肌のこの国の人達とは違って異質です。

 瞳も紅く。

 髪も白い。

 娼館のお姉さんに聞いてみたところ、需要は少ないらしいです。


 私の様なスラムの人間が稼ぐ方法はもう一つあります。

 冒険者です。

 ダンジョンや魔の領域と呼ばれる場所に住む、竜を狩ったり。古代遺跡を見つけ一攫千金を求める仕事です。

 ですが、やっぱり私は子供で、冒険者になるにも体力も力もありません。

 魔法でも使えればと思いますが、それも魔石が必要で、魔石を買うのならお母さんの薬の方が遥かに安くで買えるそうです。


 「お嬢ちゃん、お母さんが病気なんだって?」


 「うん」


 もう、何もお母さんにしてあげられないと思っているところに、声を掛けて来たのは娼館によく来るおじさんでした。


 「そうか、それなら良い薬があるけれど。いるかい?」


 このおじさんの事は、娼館のお姉さんたちは嫌っていましたが、私は薬と言う言葉に飛びつきました。

 それが間違いでした。

 私は、誘拐されたのです。

 おじさんと向かった場所には、古びた幌馬車と男たちが居ました。おじさんは話をつけてあげると男たちの方に向い、私は抵抗する暇もなく。口を塞がれて捉えられ袋の中に、後は、ただ揺れる馬車の振動を感じるだけでした。


 私は暴れました。


 怒鳴られ殴られました。


 私はどうにか逃げ出そうとしました。


 何度も蹴られました。


 幾度も繰り返し、私は大人しくなりました。


 古びた幌馬車には、私以外にも何人もの子供たちが居ました。皆、泣き疲れて大人しくしています。

 私たちを誘拐した男たちは、一日にパンと水を渡すだけでお腹が空きます。


 「・・・お母さん」


 残してきた病弱なお母さんを思うと不安が襲い何度も声を殺して泣きました。私にはもう何も出来ません。

 このまま奴隷として売られるのでしょう。

 そう思っていましたが、助けられたのは突然でした。


 大きな轟音と共に幌馬車が揺れます。


 何が起きているのか分からない内に、外からは騒音が響いてきて。突然、馬車が走り出したと思ったら馬車が大きく揺れて倒れ。

 私は外に放り出されました。

 悲鳴も上げることも出来ないまま草むらに放り出され。痛む体を抑えながら顔を上げると、私たちを攫った男たちが何者かに襲撃されている様でした。


 私は咄嗟に草むらの奥に逃げ込みます。


 響いてくる剣撃の音に立ち上がる火の魔法が怖かったのです。

 このままでは奴隷として売られるだけだと思いましたから、私は騒乱に隠れて逃げ出しました。


 「こら、逃げるな!」


 見つかりました!

 でも、もう足を止められません。

 私は、森の奥へ奥へ逃げます。追っ手は居ないようですが、この後は分かりません。とにかく今の内に出来るだけ遠くに逃げる事しか考えておりませんでした。


 「きゃぁ!」


 森の中をどう進んだのかが分かりませんが、小さな沢に出て倒れこんでしまいました。

ずぶ濡れですよ。


 「冷たいよ、お母さん。ひく、ひぅ」


 体が濡れて冷たく寒く。

 お母さんの温もりを思い出して、涙が止まりません。それでも逃げなければと、ずぶ濡れの泥まみれで沢を上流へと進みます。


 「あっ」


 見付けたのは岩場の亀裂でした。しかも、かなり深そうで入り口は大人では通れないほど狭い。

私は岩場の亀裂へと入りました。

亀裂は入り口こそ明るかったですが、奥はとても暗く。じょじょに視界が奪われていきます。


 怖いよ。怖い。


 それでも進むのは、奴隷として売られたくなんてないから。

 あの男たちに捕まりたくないから。

 お母さんの元に帰りたいから。

 だから、奥へ奥へ進みました。


 「ふきゃぁぁぁ!!!!」


 足が滑り私は落ちていきます。

 お母さん!

 殆ど食事を与えられず、何度も暴行され。滑り落ちながら体中を痛め。

 何処かに落ちた私はもう体力も気力も殆ど失っていました。


 「お母さん、助けてよ」


 遠くにいるお母さんに助けを求めますが、当然、助けなんてありません。

 痛いよ。痛いよ。


 「痛いよ・・痛いよ・・・いたいのぉ、おかあしゃん、おかあしゃんふぅぇぇぇんんんん!!!!」


 私は遂に泣いてしまいました。

 どれだけ泣いたところで助け何てありませんから、しばらくしてノロノロと立ち上がり。ようやく先の方に見える光に気が付きました。

 痛む体をどうにか動かし光へと進みます。


 「あっ」


 そこにあったのは大人の倍ほどもある淡く光る石版でした。


 「いやぁァァァ!!!!」


 何故、私は手を出してしまったのでしょうか!?

 石版に触れた瞬間、石版は光を放ち。無数の文字が空中へと浮かび上がり、私へと流れ込んできます。

 一度に大量の情報が脳へと送り込まれ。


 私は、光る文字の渦の中に沈んで行きました。




 そこは天をも超える巨大な建物が地平線まで広がっていました。

 夜は昼のように明るく。

 信じられない程の人々が溢れ。

 街ほどもある船が行き交い。

 空を飛び。

 天空には多くの人が住む円筒形の世界が、無数に浮かんでいます。


 これは神の世界なのでしょうか?


 その光景に驚いていますと、突然、円筒形の世界が爆発し。

 地平線まで広がる巨大な街に落ちて行き。

 溢れる光と共に、街も世界も消え去りました。

 たった一つの光に、無数に浮かんでいる世界が崩壊して行きます。

 これは何なのでしょう!?


 神の世界が壊れて行くのです。


 「あぁ」


 「あぁァァ!!」


 神の世界が消えゆく光に呑み込まれて行く。

 そして、私もその光の中に呑まれた。







「あぁぁぁァァぁ!!!」


 私は自分の悲鳴で起き上がり意識を取り戻した。けど。

 辺りは真っ暗です。


 どうやら、石版いえモノリスは光を失っているようで光がありません。

 体は痛みもなくなっていて、空腹も感じません。

 脳へと直接送り込まれたモノリスの情報は、私に多くの事を教えてくれます。


 アレは、あの夢は、白き船の神々の世界で起こった事であること。その記憶であること。


 そして、石版はモノリス。


 星の世界を渡って来た白き船の神々が戯れに人へ与えた魔法の力と技術を書き記した物。

 人の魔力を引き出し、魔法を与える媒体。

 白き船の神々が人々に与えた七十七枚のモノリスの一つ。


 どうしてこんな場所に忘れられてあるのかまでは知りませんが、私は魔法を得たことだけは分かりました。


「大いなる神々よ。深き闇の中に全てを照らす明かりを与え賜え。光よ!」


 私の祈りの言葉によって、魔法陣が現れる。それは様々な色の光を纏い。球体の魔法陣の中に無数の魔法陣が大小重ならずに描かれていた。

 紡がれた祈りに、魔法陣は白き光の球に姿を変えた。

 モノリスの光を失って闇に包まれていた周囲は、光の球で明るく成った。

 モノリスにより脳に書き込まれた魔法は、思いのままに使えるようで、私は自分で使っておきながら、初めての魔法に驚いてしまっています。


「わぁ!凄い」


魔法の驚きから、明るく成った周囲の様子を見てまた驚きます。

周囲の壊れかけの壁には、モノリスの神話を描いた神々のレリーフで埋め尽されたいます。

ここはやはり神殿だったのでしょう。

であれば出口があるはずですが。


ありました!


石造りの神殿ですが、扉は木製だった様で朽ちて壊れた扉だった物の残骸に覆われていました。


「大いなる神々よ。澱みたる風に再び力強き流れを与え賜え!風よ、砕け!」


光の球と同じ様に神の魔法陣が描かれましたが、先程の光の球とは違う神の魔法陣で、今度は収束した旋風に変化しました。

元から脆くなっていた残骸は、風の力で細かく砕け散りました。


モノリスのある部屋を出てどうにか形を成している通路を進んで行くと、大きな部屋へと出ました。

その部屋は、壊れた壁から光が差し込んで明るくはありますが、出口は完全に壊れ。

外へと出られません。


「大いなる神々よ。澱みたる風に再び力強き流れを与え賜え!風よ砕け」


風の魔法では今度は通じませんでした。


「・・・・よし!」


弱い魔法では此処から出られないと思ったのが間違いでした。


「大いなる神々、神々を統べたる三柱の大神。月の女神が手にし全ての勝利を約束せし光の剣よ、私の手にてその力を開放せよ!砕け散れ!」


 私の脳に書き込まれた魔法で最大の威力を持つ光の剣。力ある言葉に、今迄とは違う大きな神の魔法陣が描かれ。その輝きを増して、その姿を光の剣へ変え。

 私は、そのままの力で振るってしまいました。

 それがどんな結果をもたらすのか分からずに。

 光の剣の一撃で砕ける神殿。

 外へと出られる出口が出来たのも束の間、古びて脆くなっていた神殿は急速に崩壊をはじめました。

 強力な魔法の使用で疲れていたものの、休む暇もなく私は慌てて逃げ出しました。


 魔法を使って逃げ出すにも、何故か意識が纏まらず。魔法を発動できません。


 それでもどうにか壊れ行く神殿から飛び出すと、そこは小さな山の麓でした。大慌てで、更に走って逃げると、後ろで轟音と共に神殿が大地の底へと沈んで行きます。

 これではあのモノリスも大地の底。


 「あ」


 私は不意に、私が入り込んだ亀裂を思い出しました。あれは光の剣の跡だったのではないでしょうか?

 そして、捨てられ忘れられて射た古びた神殿は、二撃目の光の剣で崩壊したと思われます。


 木の影で崩壊した神殿の土煙が収まるのを待っていたのですが、疲れからだったのでしょうか。

 私は、意識を失ってしまいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ