071 ハーレム野郎が現れた!
ハーレム野郎が現れました。どうしますか?
会話する
闘う
仲間になる
―どうしようセバスチャン。『回避する』の選択肢がないよ!
―ご安心くださいませ、優様。こちらはゲームの様な世界ではございますが、ゲームのごとく必ず選択肢を選ばねばならないわけではございません。どうぞお心のままに。
―そうだよね。スシーラさんもこのハーレム君をぽーっとした顔で見つめちゃってるから、引き渡してフェードアウトってことで!
―畏まりました。
***
こんにちは、皆様。日本ではすっかり日差しも強くなり、桜も満開のこの頃。いかがお過ごしですか。越谷優@異世界の城壁都市・ラグーサの市場です。
のっけっから一昔前のRPGゲームのごとき選択肢が脳内によぎっているわたしですが、これにはわけがあります。
いえね。ここら辺ではセルパンと呼ぶ蛇型魔獣から助けたお礼に、観光ガイドをしてもらうべく街に来たのですよ。そちらの世界のタタールの民族衣装によく似た服を着た、菫色の瞳の美少女スシーラさんと。
異世界ぶらり漫遊旅の3つ目の訪問先となるこの街は、幾つかの門以外は高い城壁に周囲をぐるりと囲まれた街です。古代から中世、場所によっては近世までのヨーロッパでよく見られた都市構造ですね。
最初に訪れたカルプニア連合王国ではすこし青みがかった石の三重城壁だったのに対し、このラグーサの城壁はバラ色かな? 街の中でひしめき合うように立つ建物の壁も同じ色だし、アドリア海沿岸の古い街でよく見かけるようなオレンジ色の屋根瓦を乗せているから、このあたりは砂岩と赤土が多いのだろうか。
あ、ちなみに。先ほどから「城」壁と言っておりますが、日本と違って壁で囲まれているのは、街全体。
異世界でもそれは同じで、一応中心(実際に建てられている場所は別として)となる建物はありますが、サカスタンでは城と言うか宮殿。カルプニアは……まぁ、城かな。外から見た限りでは。そしてこのラグーサの街にあるのは、領主の館だそうです。
ちなみにちなみに。
サカスタン皇国でもそうだったんですが、今まで観た城壁は三つともほぼ垂直にたてられた、高さを重視したものでした。城門で入場チェックの列に並ぶ間、砲撃に備えるんなら分厚く傾斜をつけた城壁にするだろうから、こちらには大砲がないのかな? と高々と築かれた城壁を見上げてぼんやり考えておりましたが―――。
よく考えれば、この城壁で主に防ぎたいのは、人間はなく魔獣でした。
いや~そうだった、そうだった。
セバスチャン検索でも数十年単位で国もしくは街同士の戦争は見つけられなかったし、異世界では人間同士で争う前に魔獣との闘いで精一杯のようで。だからわたしが出稼ぎ魔導士やれて、かつこんな風にのんきに旅行ができるくらいの報酬を頂けているんでした。
いやいやうっかり。
まぁねぇ。いくら高く壁を築いたところで、雀型魔獣みたいに羽のある魔獣が来たら飛び越えられちゃうし、竜型魔獣なんかに襲われた日にゃ、衝撃で大穴があいちゃうだろう。
あ、乗りあげられてもダメですね。重さで崩れます。
あれでもそう言えば。
ルーカスさん曰く、サカスタンの各都市の外壁にはかなり強力な衝撃吸収の魔導が込められているらしい。じゃぁこの街の壁にもこめられているのかなぁ……? サーチとかしたらわかるのかしら。
覚えていたら調べよう。うん。
とまぁそんな考察をしつつ、城門のわきにあった獣舎でお馬さんを預けて街に入りました。
あ。RPGや冒険物語でよくあるような、城門での諍いや衛兵の厳しい取り調べイベントも特にありませんでした。ちょっと残念。
それはともかく、旅の楽しみの一つであるご当地グルメを満喫する為に、まずスシーラさんに案内してもらったのは、市場です。基本ですね。
可愛らしい笑顔で「この街一番の市です」と連れて来てくれた常設市場は、香辛料と肉とアルコールと人の汗と獣の皮と脂とその他さまざまな命の香りに溢れておりました。おぅ。この街出身だと言うスシーラさんの洋服から想像していたとおり、かつてカシュガルで覗いたスークを彷彿とさせる賑わい。テンションあがってきた~!
だから上がったテンションのままに、串焼きやトウモロコシに似た野菜を茹でたものを、「夕食が入らなくなりますよ?」なんてセバスチャンに優しく嗜めれらつつ、脳内でその微笑みと声に盛大に悶えながらぱくついていたのですが。
「おぅ、スシーラ。無事に着いてたか」
「も~あんたって、ほんとにどんくさいわねぇ。なんで一緒に歩いてただけなのに、はぐれるのよ」
「そうだよぉ。せっかくザックと楽しく狩りしてたのにぃ、アンタがいなくなったちゃったから、途中で切り上げなきゃいけなかったじゃないかぁ」
「まぁまぁお二人とも。スシーラさんが無事だったから良かったではないですか」
身の丈より大きな両手剣(クレイモアとかバスターソードって言うんでしたっけ?)を背負った、青銀色の髪の男性と。彼に寄り添う(そのうち二人は腕に絡みついていますね)、外見も服装も違えば性格も違いそうな女性3人に話しかけられました。
「アイザック、様……」
そしてどうやらこの4人は、スシーラさんのお知り合いの様です。
さらに言えば、声をかけられた瞬間、肩を跳ねさせて満面の笑みで振り返り、女性達の言葉に眉をひそめたところをみると、彼女も彼の事を憎からず思っており、かつ女性たちの少なくとも二人とはあまり仲がよろしくないようで。
魔獣はびこる異世界で、ろくに武装もしていない、闘い方を知らなさそうなスシーラさんが街の近くとはいえ一人で歩いてるなんて、自殺行為以外の何物でもないと思っていたけれど、この一行とはぐれちゃったわけですね。
でもそれならもっとこう、心配するとか。仲が良くないにしても、なんかあるでしょ。
なんて人ごとながら思っていたわけですが。
「ねぇザックぅ。スシーラ見つかったんだし、まだ時間あるしぃ、もうひと狩りしようよォ」
「ん~? そうだなぁ」
「あんた馬鹿じゃない? せっかく街に戻ってきたんだから、ザックはこれからあたしといい事するに決まってるでしょ? 戦闘狂は一人でどこでも行ってろってのよ」
「はぁ? そっちこそ何勝手に決めてんのかって感じぃ。色情狂はどこでも盛るから困るよねぇ」
「なんですってぇ!?」
「あらあらお二人とも、喧嘩なら城壁外でどうぞ。その間にザックさんと私は食事をとりますので。さ、行きましょう、ザックさん」
「ん? あぁ」
あぁ、故郷のお母さん、お父さん。ついでに真弓。もっとついでに、たぶん今日もどこかで発掘作業中の弟よ。第一印象って、大事ですよね。あと、挨拶も。
正確にはわたしにではないにしても、自分から声をかけて来たってぇのに。こちらがなにも返さないうちに、痴話げんか始めやがりましたよ、この人たち。しかも、一人の男を三人の女性が取り合うという、いわゆるひとつの、ハーレムってやつの様ですよ?
ついでに情報として付け加えると、お嬢さん方の服装もなかなか変わっておられます。
まず。語尾を伸ばして喋るお嬢さんは、濃い草色のマントの下に、皮と金属で作られたビキニアーマーのようなものを着ていらっしゃいます。異世界でそんな恰好している人、初めて見ました。そちらでもアメコミ映画かゲームの中でしか見た事ありませんねぇ。
確かに今日は汗ばむくらいの陽気ですが、寒くないんでしょうか。女性はお腹を冷やしてはいけませんよ?
で。そんな彼女に喰ってかかっている女性は、踊り子スタイルとでも言えばいいのかな。絹の様な柔らかそうな薄い布地がよく発達したお胸やお尻にぴったりそう姿は、中々眼福モノです。脚は踝あたりまで布地で覆われてはいますが、ま~太腿のつけね近くまでスリットが入っていますので、動きやすさ満点。チラリズムも満点。
一応、肩に黒色のマントをかけておられますが、この方、あの恰好で魔獣はびこる街道をきたのでしょうか。
三人目の、口調は丁寧だけれど、ちゃっかり漁夫の利をとる発言をするあたり腹黒さが垣間見えるお嬢さんは、砂色のフード付きローブの前を、しっかり襟元まで留めていらっしゃるので、服装はよくわかりませんね。
あぁでも、そのフードはルーカスさんがいつも着こんでいるローブとよく似ていますし、手に杖も持っておられるので、彼女は魔導士なのかもしれません。
あ。言い忘れておりましたが、三人とも方向性は違えど、美人です。そして痴話げんかの中心で、三人を呑気に眺める男性をみつめているスシーラさんも、美人。というか美少女。
はい、テンプレ。はい、ハーレムですね。本当にありがとうございます。面倒の香りしかしません。
と言う訳で、ちょいとその関係性に危惧を覚えるものの、まぁそれもスシーラさんが選ぶならありなんじゃないかな。だから素敵執事様の助言に従い、ここは回避一択で――――――。
「なぁあんた、日本人だろ? で。ルーカスんところから逃げてきた口?」
行こうと思ったのに、わざわざ日本語でそんな事言われたら、回避できんじゃないですか。
やれやれ。
続きは、明日。予約投稿済みです。




