070 ひと狩り行こうぜ!
人によっては、グロく感じる描写があります。
「セバスチャン。今日のお昼って、もう決めてる?」
うららかな日差しを受けて、お馬と街道を行く。
いや~すっかり日差しが春めいてきましたねぇ。まだ暦で言えば異世界でも冬のはずですが、街道わきの灌木をゆらし、頬をくすぐりながら吹きすぎる風が甘いです。
皆様お久しぶりです。越谷優@異世界漫遊中でございます。
はぐれ者の村周辺で仕入れたオクトープスの干物を土産に、しばらく実家におりましたが。また戻ってまいりました。あ、もちろん地元名産の紅葉ま○じゅうは、ぬかりなく箱買いしております。
いや~魔導って便利。青いネコ型ロボットのポケットの様な収納鞄に入れておけば、腐る事もなく。元気にお留守番中の愛するメイドちゃん達にはもちろん、たぶん元気にお仕事中の阪本先輩と……う~ん。ルーカスさんにもあげるかな。今後またお休みをいただくための布石として。
いや、賄賂じゃありませんよ? ただのお土産です。
そんな風に、お土産の配分に思いをはせておりましたらば。
「目的の街には夕刻までにつきそうですので、お昼は軽いものにしようと考えておりました。猪型魔獣のカツのサンドウィッチにミネストローネのスープでしたらすぐご用意できますが?」
はい、素敵執事様の「(主の空腹に気づかず)ちょっと申し訳ない」微笑み頂きました~!!
っく! これが格闘ゲームならばクリティカルヒット。一発で「You Lose!」の文字が画面にでかでかと表示される事でしょう。
もうね。いつもきっちりオールバックで決めている朽ち葉色の前髪が、朝からの乗馬で少しだけ乱れて。ひいでた額に二三本こぼれかかって、それがまた、また……!
「あ、うん。大丈夫」
そう、大丈夫よ、優。貴女ならやれる。春の日差しで一層光り輝くセバスチャンの微笑みに心臓を打ち抜かれようと、笑顔で会話できるはず。
お馬さんが驚いちゃうから、乗ったまま転げ回っちゃ駄目、ゼッタイ!
「まだ、お腹がすいているわけじゃないんだけどさ、たまには変わり種を食べようかなぁ~と」
ご主人様のプライドにかけて、魔獣駆除中よりよほど気合を入れ微笑みながら返せば。
「変わり種、でございますか。昆虫型魔獣なら、販売用にいくつか収納しておりますので、佃煮にでも致しましょうか」
「あ、いや。昆虫食にはまだ目覚めてないから。お気づかいなく」
あさっての方向に解釈されたので、平常心を取り戻せました。
しかし油断はできない。微笑み衝撃波(無自覚)がいつ発動するかは、神々ならぬ身にしてみれば分からず、備えあれば憂いなし。
こっそり気合を入れ直して、街道わきにひろがる森からでてきたものを指さしたわたしです。
「虫じゃなくてさ、ほら、アレ」
「あぁ、なるほど。そう言えばアレはまだ狩った事がございませんでしたか。街道近くにも関わらず、中々の大物でございますね」
「ね~。日本でならそろそろ啓蟄だからさ。冬眠から覚めたばかりで、寝ぼけて方向間違えたんじゃない?」
「そうかもしれませんね。ふむ……地球と同じであれば、味は少々淡泊でございましょうから、にんにくと生姜を良くきかせたから揚げにいたしましょうか」
「うん。残りはハンバーグとスープの種に加工しよう。あ、かば焼きもいいなぁ~。あぁでも、胆のうと血は売った方がいいかな?」
「皮と牙、骨も高値で取引されております。あの型のものは毒持ちとそうでないものが確認されておりますが、あいにく手元の資料ではアレがどちらか判別できません」
っ! 危なかった。
いまの「お役に立てず申し訳ない」憂い顔は、構えていなかったら瀕死の重傷を負うところだった。もちろん身体ではなく心に。萌えで。
「あ、それは大丈夫。あのお嬢さんが襲われそうだから、まずは首落としちゃうよ」
表面上はあくまで余裕の笑みを浮かべて、お馬から降りてっと。
「んじゃ、ひと狩り、いってきま~す!」
「行ってらっしゃいませ」
ひゃっは~! 今日は蛇(体長10メートル?)祭りだぜぇ!!
***
蛇をゲテモノ扱いする人はいるようだが、現代でも蛇の食べられる店は全国各地にある。山近くに住む民以外が獣肉を食べる機会の少なかった江戸時代では、貴重なタンパク源として珍重されていたらしいし。
さらに日本以外ならばポピュラーな食材の一つとして、スープや鍋の材料になっている。上海で食べた竹と蛇のスープはさわやかなお味でいくらでも食べられそうでした。甘辛たれのホイコーローと相性よし。
あ、そうそう。自衛隊ではサバイバル訓練の一環で、自分たちで獲ったのを調理するらしい。
うん、うん。比較的容易に獲れるし、癖のないお味で栄養満点。素敵食材。それが蛇。捌くのも難しくないところがいいよね。
はい、まずは軽く水洗いしておき、首を落とします。まだ生きている場合は、尻尾を釘などで固定して、頭の下を捕まえた状態でやりましょう。
尻尾をつかんだ状態で頭を落とそうとすると、咬まれる可能性が高いです。毒なし蛇なら痛くて血が出るだけで済みますが、ハブなんかだと血清が必要です。
ちなみに尻尾を固定していないと、腕に絡みついてきます。蛇君の締める力は中々のものなので、腕がうっ血してしまいます。アマゾンにいる巨大アナコンダ君なら、身体に巻きつかれてお陀仏の可能性も。気をつけましょうね!
さて。頭を無事落とせたら、切り口からはさみなどを入れて、腹を裂きましょう。内臓は手でかきだすのが一番です。
皮は少しずつ剥いていき、引っかかりができたらしっかりつかんで、思いっきり引っ張って、一気に剥ぎましょう。でも異世界産の魔獣ならば、皮は高値で売れます。できるだけ完品で納品できるよう、慎重に。
そして異世界ならば、これらの作業がすべて魔導でさくっとできます! 手も周りも汚れません。あぁ本当に魔導って(以下略)。
種類にもよるだろうけれど、蛇の味はあっさりした鳥の胸肉に近いかな? ただし小骨が多いから、から揚げにするにしても、ハンバーグにするにしてもガンガンたたいてミンチ状にしましょう。
骨ごと食べればカルシウムもしっかりとれます。貧血気味のお嬢さんにもお勧めです。
「あの……魔導師様?」
おや。久々の蛇に、テンションあげあげで調理をし終えたところで、声をかけられましたよ。お嬢さんが、目を覚ましたようですね。
うん。調理後で良かった。いくら恐慌状態にあったとはいえ、襲われている状態で気絶しちゃうような方ならば、捌いているのを見たらまた気を失っちゃうだろうからね。
か弱いお嬢さんの目につかないように、ランチのから揚げ分はセバスチャンに渡して、それ以外は収納してっと。
「気付かれたようで何よりです。あ、これよかったらどうぞ。気つけには甘いモノが一番ですからね。紅茶も冷めないうちにどうぞ」
さすがうちの素敵執事様。道っぱたに乙女を放置するなんてするはずもなく。わたしがさっくり蛇君を狩って調理している間に、街道沿いの木陰にテーブルセット(寝椅子とチェア編)を出して、彼女をそっと横たえておいてくれました。
テーブルの上には、可憐な菫に似た花かごと、紅茶にアヌリン謹製のチョコサブレ。完璧です。
あ、ちなみに。
寝椅子は、飴いろの枠に小さな薔薇がちりばめられた朱子織の逸品。向こうのネットオークションで見つけまして、メイドちゃん達が狂喜乱舞しましたので、買ったものです。自分たちで使うんだろうと思っていたらば、「優様にぴったりです!」と林檎のほっぺで旅のお供に用意されました。
彼女たちの方が似合うと思うんだけどな。
「あのっ」
チョコとアッサムのマリアージュを堪能しておりましたら、どうやらお嬢さんもひと心地ついたようですね。わたしが促すままに紅茶をぼんやり飲んでおられましたが、はっとした表情でこちらを見詰めてきました。
「助けていただいて、本当にありがとうございました」
あぁ、うん。この方はきっと真面目な方なのでしょうねぇ。寝椅子からわざわざ立ちあがって、テーブルの横に立ち。なんだろう……地球でいうならカテーシーに似ているけれど、それより深く膝を折って、お辞儀をしてくださいましたよ。
踝まである藤色のワンピースの裾がふわりと広がり、可憐です。ワンピースの上に着ているオーバースカート? エプロン? の色は、黒かな。それとも深い紺色? 胸元と裾の刺繍が美しい。
それに、長いひれのついた帽子と、形の良い耳と長い三つ編みの先で揺れる銀細工のような飾り。これであの歩きやすそうなブーツの先がとがってたら、タタールの民族衣装にそっくりだな。
この方、というか子? いくつくらいだろう。
ほっそりとした鼻梁のあたりにほんの少しそばかすが散っている以外、乳白色のお肌はつやっつや。さっきまで青白かったけれど、紅茶とチョコレートで血色は戻ったようですね。そしてふっさりとした睫毛に縁取られたアーモンド形の瞳の色は―――おぉう! 薄いすみれ色ときましたか。
なるほどさすがはセバスチャン! テーブルを飾る菫は、彼女のワンピース以外にも、瞳の色にかけて(優の妄想です)あるんだね!
「あの……魔導師さま?」
おっと。美少女をガン見しすぎていたようだ。ここは必殺、ジャパニーズ・スマイルでごまかそう。
「あぁ、失礼。わたしは魔導師ではなく、しがない清掃人にすぎませんから、気軽にユタカとお呼びいただければ。貴女を助けたのは狩りのついででしたので、お気になさらず」
「でも……ユタ、カさん達に助けていただかなければ、蛇型魔獣に殺されていたでしょうから。いまはこれしか持ち合わせがありませんが、街へ帰れば必ず」
そう言うや菫の瞳を持つ乙女は―――三つ編みの先と耳の飾りを外してテーブルに置いちゃったよ!
あらあらこのお嬢さんたら、予想以上の律儀さん。
彼女が気絶している間に、「よっし。食材ゲット! そしてこのお嬢さん、なんか現地の人っぽい。丁度いいやセバスチャン。彼女にこれから行く街の市場情報とご当地グルメやレシピなんかを教えてもらおう!」「救助の対価はそれくらいでよろしいと存じます」なんて画策していたこちらとしては、ちょっと恐縮すると言うか……。
なんか、ごめん。
「いや、お嬢さん。それは貴女の大切なものでしょうから、その柔らかで清いお心だけ受け取っておきましょう」
よしっ。必殺ジャパニーズ・スマイル、アゲインと天然たらしのエドさんのスキルをまねて、丸めこもう。
「でもそれでは、とても……ッ!」
「ではお嬢さん。旅装束でもない貴女は、この近在の方とお見受けします。そしてわたし達はこの先にある街を初めて訪れるわけで。よければ、少し街を案内してくれませんか?」
「え、えぇ、それくらいはもちろん。いえでも、」
「そうと決まれば、先を急ぎましょうか。あ、セバスチャン。ちょいとお行儀が悪いけど、その美味しそうな唐揚げは、馬上で頂くよ」
「かしこまりました。食べやすいように、串にさしましょう。つけ合わせはミネストローネでよろしゅうございますか?」
「うん。ありがとう。さ、お嬢さん。お手を拝借。馬に乗るのは初めてですか?」
「え、いえ。慣れているわけではありませんが。でもあの、」
「では、少々狭いでしょうが、わたしの前に。スカートですから横乗りの方がよいでしょう。ほら大丈夫。魔術で支えますから」
「きゃっ」
「そうそう。まだ貴女のお名前をお聞きしていませんでしたね。あれなるは執事のセバスチャン。わたしはユタカ・コシタニです。先ほども言いましたが、どうぞユタカとお呼びください」
「あ、えっと。失礼しました。私はスシーラ。スシーラ・ガウリと申します」
そんな感じで、美少女を丸めこ……もとい、お願いするのと絶品唐揚げを食べるのに忙しかったわたしでしたから。街道からわずかに奥まった木立の向こうからこちらを伺う集団がいた事には、気づきませんでした。
「へぇ~……あいつ、なかなかやるじゃん」
そして、先頭に立つ青銀色の髪の男がにやりと笑ってそう一人ごちた後、こっそりわたし達の後をつけるために歩きだした事にも。




