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伝説の魔導士? イエイエ、ただの出稼ぎです。  作者: 海山ヒロ
ちょっと嵐の予感? 編(仮タイトル)
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066 縁日では、意外な縁(えにし)を結ぶこともある。 1

今回の舞台は、日本。番外編に登場した優の従妹が出てきます。

「ユウ姉、ほらはやくっ!」



 ぴっ、ぴっ、ぴーひゃらら、どんどんどんどん、ぴーひゃらら。



 何処までも軽快ないようでいて、その癖、どこか物悲しさも漂うお囃子の音を聞きつけて、前を歩く従妹マユの足が速まった。



「いや、急がなくても、音はこっちに向かって来てるんだから。目的地は一緒だし」



 子供の時と変わらない彼女の様子に笑いながら答えれば、拳を握って力説されてしまった。

 


「お神輿は一緒に練り歩いてナンボでしょ!」

「はいはい。御御輿と一緒に練り歩いて、しっかりお腹を空かせてから屋台を制覇するわけね」

「そうよ! 明日は仕事だから控えめにしなきゃだけど、今年はドイツビールの屋台もあるって言うし、お神酒もゲットしなきゃ!」



 あぁうん。3つ下の従妹のお祭り好きは、変わっていない様子です。

 子供のころはおじさんおばさんの手を振り切って林檎飴やいか焼きに突進するだけだったけど、今はお小遣いの制限がないもんね~。


 はやる気持ちを抑えきれなくなったのか、ついには走り出した従妹の向こうには、町内ちびっ子たちが担ぐ子供みこしが。秋晴れの空からさんさんと降り注ぐ陽を受けて、お神輿の飾りが輝き、周囲に金色の光を振りまいている。

 眩しさに思わず手を額にかざせば、無防備になった脇を秋の風がすぅっと撫でていった。


 どうも皆さんこんにちは。ぶらり異世界の漫遊の旅からちょいと一時帰省している越谷優こしたにゆたか、30歳です。

 いやいやいや~。新・はぐれ者の村でシーフード・フィーバーを満喫した後、そう言えば今年はお盆に帰省していなかったなと、帰って来たのですよ。

 お土産は、ヒュー君達と作ったオクトープス君達の干物です。外国産(嘘はついていない)だけどと言って渡したところ、「肉厚で滋味豊か。美味い」とヒモナーの父さまから好評を博しました。


 で。


 本日は、秋特有の強い日差しに背中と頭頂きを焼かれながら、昼間っからビール片手にそれを七輪で焙っていたらば。酒の匂いのするところにその影ありの従妹がひょっこり現れ。

 「ユウ姉! 帰るならなんで連絡っ、そうだ! お祭り行こっ」と、よくわからない脈絡で近所の神社の秋祭りに行くことになったと言う訳です。秋ですね。


 最近は少子化と町内会に入る人が少ないとかで、秋祭りも縮小傾向にあると聞いていましたが、実家の近所はまだまだ盛んな様子。

 そろそろ色づき始めた銀杏並木が美しい神社の境内だけではなく、〆縄を張り巡らされたその前の通りにも色んな屋台が建てられて、賑やかなこと。結構、結構。


 お。あれはジャンボたこ焼き。お祭り価格で中々お高いけれど、お囃子を聴きながら食べるこのお味はプライスレス。ひと船目はソースと青のりで、ふた船目は醤油と鰹節でいくか。

 あ、ドングリ飴もいいねえ。液体の方は飲まないけれど、あれのコーラ―味とソーダ味が好きなんだよなぁ……。そう言えば昔、弟のあきらが、レモン味を喉に詰まらせちゃって、結局出せたは良いけど、それ以来飴自体を食べられなくなっちゃったんだよなぁ。



「って、そう言えばマユはどこに?」



 久々に見る屋台にウキウキしていたら、従妹とはぐれてしまったようだ。

 こちらでは本来の姿スマホに戻った銀色の執事様セバスチャンをポケットから取り出し、電話をかけようと画面をタップしていたら。



「あっれ~! ジーンさんじゃん。何してんの~」



 彼女のすこしだけ掠れた(はいそこの貴方、正解です。酒焼けです)高い声が、前方の屋台から聴こえて来た。

 どうやら射的の屋台で、知り合いと遭遇したらしい。



「マユ。ここにいたんだ」

「あ、ユウ姉。はぐれちゃだめじゃん」



 近づいて声をかければ、ゆるく編み込んだいまはハニーブラウンの髪が頬に当たる勢いで振り向かれ、軽くお叱りを受けてしまった。


 ここで、「いやいや、はぐれてるんは君もやがなっ」と阪本先輩ばりに突っ込んではいけない。

 昔々、うちの家族と彼女の家族で遊園地に行った折。ハーメルンの笛吹きにつられる子供のごとく着ぐるみを追い掛けた挙句しっかり迷子になった彼女は、着ぐるみの中の人が親切にも連れて来てくれた迷子センターで待っていたわたし達に、おんなじこと言ったからね。


 涙目だったけど。



「屋台に目移りしちゃって。それはそうと、友達に声かけてたんじゃないの?」

「おっとそうだった。ジーンさん、おひさ~」



 問いかければ、またくるりと振り返って、何故かサムズアップ。

 小柄な彼女のずいぶん上の方に相手の顔があるので、頭を思いきり傾げている。



「おう。誰かと思ったらマユミ嬢じゃねぇか。確かに久しぶりだな」



 屋台の威勢の良い呼び込みや、おもちゃを親に強請る子供の甲高い声。

 そんな周囲の喧騒に消されることなく、軽い口調のくせにずうんと腹に響く、バスに限りなく近いバリトンの声が聴こえた。



「最近見ないから河岸変えたのかと思ったら、格ゲーに飽きちゃった?って言うか、それで射的って渋すぎでしょう!」

「そうか? こんな近い距離の的を射るだけでご褒美くれるなんざ、こちらはずいぶん親切なモンだって感心してたんだぜ?」

「いや、そんなに景品ゲットできるの、ジーンさんくらいだって!」

「いや、簡単だったけどな?」



 なにがツボにハマったのかけらけらとおかしそうに笑う真弓マユに、おどけた表情を浮かべるその御仁の横には、可愛らしい包装紙に包まれた大小様々な箱が小山をなしている。

 ついでに言えば、この屋台の主と思われるおじ様がややひきつった顔でこちらを見ていた。



「あ、ユウ姉、紹介するね。このイケメン氏は、ジルナリウス・アウグスタさん。ウチがいっつも行くゲーセンで何度か対戦してさ~。一度も勝てないから技教えてもらおうと思って声かけたのが最初。まさかここまでイケメン様でしかも外国人だとは思わなかったけど、日本語うまいし、ゲーム超うまいし、中身までイケメンだし」



 そんなわけで、会えば声を掛け合い、対戦する仲になったらしい。


 イケメン様と言いつつも褒め言葉には聴こえないマユの言い草を相手が気にする風でもなく笑っているので、わたしはそうなんだと相槌を打った。

 内心では、彼女の態度に少々驚いていたのだが。


 驚いたのは、そのあけすけな物言いにではない。あれは彼女の家族内でのデフォルトなのだから。

 しかし美容師という職業柄か、誰とでも気さくに話す従妹の真弓はその実、人みしり……というか、本当に気を許す相手は少ない。つまりよほど親しい人間の前でなければ、常に大きな猫を2、3匹被っている。弟の玲が「別人28号」と笑うくらいのものを。


 ちなみに笑うのはあとで、身内だけになった時である。我が弟はやんちゃなところはあっても、危機管理はきちんとできる子だから。


 まぁそんなわけで。そんな彼女がうちの家族といる時のような素の表情と態度で接する相手に、わたしは俄然好奇心を刺激されてしまったのだ。

 マユと目線を合わせる為、彼がかなり下を向いているので丁度いい。ぶしつけにならない程度に観察させてもらおう。


 年の頃は……30代後半? 笑うと目尻に皺ができるから、40代に入っている? でもコーカソイド系なら30代でも……。

 身長は、玲と同じくらいだろうか。肩幅や身体の厚さは、1.5倍はありそう。あの子も発掘やフィールドワークで鍛えられているはずだけれど、人種や年齢の差だけではなく、この御仁の身体は……あぁ、そうだ。サカスタンのハッスナー隊長の身体つきに似ている。


 くるくる変わる表情に惑わされそうだが、よく見なくとも整った精悍な顔の持ち主だ。がっちりした顎が好ましい。あれが渋い声をさらに響かせる共鳴板の働きをしているのかもしれない。

 左眉の端に目立つ傷があって、そこらへんもハッスナー隊長を連想させるのかもしれない。まだ持ったままの射的用のおもちゃの銃が、彼が持つと本物のように見えてしまうところも。


 そしてさっきから気まぐれな秋風に遊ばせている髪は、癖の強いはしばみ色、と。



 マユと彼の軽妙な掛け合いを眺めつつそこまで観察したわたしだが、彼を一目見たときから気になっている事がある。

 何故だろう。初対面のはずなのに、わたしは彼をどこかで見たことあるような……誰かに似て、嫌違う。似た雰囲気? 匂いを知っている様な……。


 そしてなによりも、その名前が。



「ジルナリウス、アウグスタさん」



 思わずもれた呟きに、マユが楽しそうな笑い声をあげた。



「そう。いかめしい名前でしょ~。外見はともかく、こんなに軽~い感じなのにね」

「ははっ名前負けしてるって? ほっとけ。だからジーンで呼んでくれっていてるじゃねぇか。えぇと、こちらはマユミ嬢ちゃんの……?」



 そう言いながら、翡翠色の瞳がこちらを向いた。

 あぁやっぱり。瞳の色は違うけれど、その形と雰囲気が。

 


「初めまして。真弓の従姉の越谷優です。……もし呼びにくければ、ユタカで」



 彼と真正面から向き合いひとつの確信を得たわたしは、軽く頭をさげ、そう付け加えた。


ちょっと思わせぶりに引っ張ってみた。

続きは明日。予約投稿済みです。

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