065 言ってみて、やってみせねば人は動かじ。
ちょいと長くなりましたが、切れどころが悪いので、一気に8000文字越え。
「ひっ、来るな、来るなぁっ」
「ついて来るなっ、わしのオトリになれッ」
「もうダメだっ終りだっ神様ぁっ」
は~い皆様。お元気ですか? 越谷優@異世界・はぐれ者の村の森の木の上です。素敵カッコイイ執事様が用意してくれた軽食で元気百倍。第二ラウンドもがんばりますよ~。
あ、ちなみにさっきから聴こえているのは、一目散に森に入って行った村長達の悲鳴です。みんなで牡丹鍋をするのに丁度良さそうな大きさの魔獣に追いかけられておりまして、阿鼻叫喚のようです。
「……ユタカさん、そろそろ」
「ん? まだ大丈夫でしょう?」
「うわぁああ゛っ、足をっ足をやられたっ」
「いやでも、」
「助けてくれっ誰かぁっ」
「ほらっ、もう無理ですよ」
「いやぁ。もう少しいけるでしょう」
当初の予想に反して、村長達は結構走れたようです。人間の底力ってやつですかねぇ。せっかくですから今後の彼らの為にも、その全力疾走をもう少し見守ろうと思っていたのですが。
「いやだぁっ死にたくないっ!!」
「ユタカさんっ」
一緒に木の上で見物していたヒュー君が飛び出しそうなので、動きますか。
「はいは~いっ、ユーキャンフラ~イ!」
ヒトは飛べないけど、跳ぶ事ならできるんですよね。せっかく彼らは走っているのですから、その推進力を活かして、ちょいと背中を風で押してあげて。
「うぉぉっ」
「ひぃぃっ」
ブキィー!!
「うむ。ジャストタイミング」
村長たちを風の力でちょいと飛ばし、その後ろを走っていたファングさんは、ヒュー君達にあらかじめ掘ってもらった落とし穴にストンと。後でみんなで、美味しく頂きます。
サカスタンで作っていたのより少し小さい穴(魔導の仕掛けなしバージョン)を、昨夜のうちにいくつかこさえておいたのですが。うむ。丁度嵌って何より。
「村長たちも一緒に落ちてしまってさぁ大変」作戦も考えていたのですが、それだとヒュー君のトラウマになっちゃったかもしれませんねぇ。
―――優様。こちらも終了いたしました。
「おっと。セバスチャンからだ。ありがとう。じゃぁこっちに連れて来てくれる?」
―――かしこまりました。
いやぁもう、うちの素敵執事さんたら。声も素敵過ぎるから、不意打ちされると腰にきちゃって、危うく木から落ちるところでした。
まぁ落ちても常時結界があるから問題ないんだけど。ヒュー君を驚かしちゃうだろうからね。
「ユタカさん。もういいですか?」
「あ、お待たせヒュー君。行こうか」
第二ラウンドのハイライト。楽しいOSEKKYOタイムです。
***
バッシャーンッ!
「っぶわっなんだっ」
「っぶぶっ」
「あ。お目覚めですか?」
村長とその取り巻きと思われる二人の男が揃って置き上がったので。もう一つ水球をお見舞いしようと上げていた指を下ろしました。
ふむ。この間のフリーホールでも気を失っていたし。この三馬鹿さんたら、中世の貴族の娘さんレベルで気絶しやすいのですかね。で。気絶しやすいから顔に水かければすぐ起きると。
「一体何が……っ、貴様はっ」
「ひっバケモ」
「あ~目覚めてすぐ叫ぶのは、身体に悪いんじゃないですかね。少し黙りましょうか」
まったく。これからこの村長たちとは少々お話合いをせねばなりませんから起こしましたが、やっぱりうるさい。
残念ながら異世界では、人の話は最後まで聴きましょうという教えはないようですね。イリヤ君だって口で言えば分ってくれるのに。強制的に閉じさせられないと黙っておけないとは、嘆かわしい事です。
「さてさて、何があったのか分かっておられないようなので、これからご説明しましょう。あ、そちらの方達も、しばしご静聴頂けますか?」
セバスチャン達が連れて来てくれた村人達に目を向ければ、分かりやすく身体を揺らしてから首振り人形のような動きを見せてくれました。
おやおや。藪にでも突っ込んだのか、洋服のあちこちにかぎ裂きができていますねぇ。そちらの方は、膝をすりむいておられるけれど、こけたのかしら。
彼らから目を離したのは軽食を頂いたほんのわずかな時間でしたが、森に入った後村長たちともはぐれて大冒険をされたようです。
「ふむ。聴く準備は良いようですね。では……あ、わたしからでいいですか?」
ファングを落とした穴の横。気絶してしまった村長達を囲むようにして立っていたユージンさん達に水を向ければ、無言で頷かれました。
「じゃ、簡単に。え~朝もはよからアポなしで来られたので、少々歓待させて頂きましたら、森へ突進されたので、狩りでもされるのだろうと見物していたのですが。魔獣1匹に追いかけられて悲鳴をあげられ、命乞いまでされていたので、ヒュー君達の要請により少々助けました。
で、安心されたのか気を失っておられたので、起したわけです」
うん。嘘は言っていないよ? 客観的な事実を述べるとそうなる。村長達が面白いくらいにこちらの思惑通りに動いてくれただけで。
「……っ! ッ!」
「え? お礼ですか? お礼をするなら、ユージンさんやヒュー君に。わたしは彼らの頼みだから手を貸したまでです」
「っ!―――っ!!」
「う~ん。国が違うとジャスチャーだけでは、意思疎通がはかれないんですかねぇ。ヒュー君達ならわかる?」
魔獣に追われて走り回った挙句、気絶までしたわりには元気な村長が、さっきから何かを必死に訴えようとしているのですが、大きく開けた口から飛び出すのは唾くらいなもので。後は拳を突き上げたり、洋服を叩いて何かを探す動作をしたりが何を意味するのか。
これは同じ共同体のヒュー君たちに通訳を頼むしかあるまいと、声をかけたのですが。
「あの、ユタカさん。声を戻してあげればいいのでは?」
遠慮がちにそう言われてしまいました。隣のユージンさんやヤンさんも頷いておられますね。
「あ~やっぱりそうかなぁ。うるさいのは嫌いなんだけどね……」
「でもこれだと話しが進まないので」
「ふぅ、そうだねぇ。じゃぁ、はい。どうぞ?」
便利な、便利な魔導さんは、イメージするだけで大抵の事ができる。ただ村長たちに何をしているか分かりやすいように、声をかけて手で促してあげたらば。
「っ魔力があるのがそんなに偉いのかっ!!」
やっぱり叫ばれました。村長に。
彼の後ろにいる取り巻っき~ズと村人たちは、青や白い顔をして黙っています。
「怒鳴らなくとも聞こえますよ。というより、そんな話ししてましたっけ?」
「貴様らのたくらみなどお見通しだっ!卑劣な罠で我らを殺そうとしても無駄だっ!! 我らには神がついて」
「あ~この場に及んでも信仰心を持ち続けられるのは、素直にすごいなと思いますけど。話し聞いてました? 森に突っ込んでいったのは貴方たちご自身で、魔獣から救ったのはわたし達ですが」
客観的にはね。誘導したことをわざわざ言ってあげる必要はない。
うん? それとも「まんまと引っ掛かって、ざまぁ★」って言ってあげた方が、心が折れてくれるかしら? でもなぁ。それも何かしら神様とやらのせいだかお陰だかにしそうだし……。
「うるさい、うるさいっ! お前達魔導師はいつもそうだっ。たまたま持っていた穢れた力で暴虐の限りを尽くし、持たない者を虐げる。だから我らの父祖は艱難辛苦を乗り越え、万里の波頭を越えてここに村を築き、正道を伝えてきたのだっ」
「……そうだ、そうだっ!」
おやぁ。ちょっと考え事をしているうちに、村長さんが演説を始めまちゃいましたよ? 取り巻きの一人、小男さんも条件反射でしょうか、お追従していますねぇ。
きっとこれまで何百回と繰り返してきたんだろうなぁ。言葉を重ねるうちに胸を張り、こぶしを突き上げ、誇らしげになっています。たぶんそろそろお約束っぽい決め台詞が―――。
「長年虐げられていた我らの恨みっ貴様などには解る」
「ええもちろん、理解できませんけど?」
出てきたので、ぶった切ってあげました。
「理解できないし、する必要も、する意思もない」
自分が苛められてきたから、虐げられたから。だからやり返す権利がある。
その考え方自体には賛成できるし、相手を撃退する力と機会を得るまで待つのもありだと思う。その場をおぜん立てするのも大切だし、何倍返しというのも、ありでしょう。
自分を攻撃した相手にするならば。
「誰に苛められたか知りませんが、いまのヒュー君達にはそれ、まったく、これっぽちも関係ないですよね?」
当たり前の事実を指摘しただけなのだけれど、どうやら反論されるとは思いもよらなかったようで。
「っ! 小娘がっ」
大口を開けたままの状態でしばし固まっていた後。上手い罵倒が見つからなかったのか、顔を真っ赤にして吐いた言葉がそれ。ちょっと情けない。
ほんとに村長君たら。気絶したり頭に血を上らせたりと忙しい事。しかもそんな反論じゃぁ、君の後ろにいつの間にか立っていた銀色魔王様の振り上げた右腕が、炸裂しちゃうぞ☆
「あ~セバスチャン?ちょっと喉が渇いたんで、お茶をお願いしていいかな? ヒュー君たちにも」
「これは失礼を。すぐご用意いたします」
さすがは無敵の執事様。へらりと笑いかければ、美しい礼で答えてくれる。口ぶりはともかく、あの微笑みだと止めるためだってこと、分かってるんだろうなぁ……。
それでもいい!
「仕様がありませんね」笑顔、ご馳走様です!!
せっかく用意してくれるお茶が冷めないよう、巻いて行きます!
「あ“~やだやだ。そんなに髪が白くなるまで生きてる癖に、一応指導者のくせに、逆恨みしかできないなんて、ほんっと、やだ。あ、やっぱり怒鳴り声がうるさいんで、口閉じさせていただきますね?」
わたしは女優。やればできる。自分に発破をかけて、ことさら煽るようにそう言ってあげます。
えぇワタクシ、正義の味方でも、「公正な」調停者でもないんで。双方の言い分を聞いて妥協点を見出す、なんてことはしません。一応言いたいことは言わせてあげたんだし、これ以上身のある話が出てくるとは思わないし、聴く気もないし。だから黙って聞いてろ、取り巻き~ズ?
何をしたか解りやすいように、村長に向けて指を横に一閃。口を開きかけた小男とのっぽにも指を向ければ、音がするほどの勢いで、口を手でふさいでいる。
ふむ。解っていただけたようで何より。
「魔力も魔導適性も、ただの能力です。足が速いとか計算がはやいとか、そんなもののひとつ。持っていたら便利、ラッキーで、上手く利用すればいいだけのもの。ないならないで、持っている能力を高めればいいだけですよね?」
村長達だけではなく、ヒュー君たちにも届くように、言葉を紡ぎましょう。
「虐待されたと恨むんなら、自分を苛んだ相手に仕返しすればいいでしょう。あらゆる方法で。まぁ叶わないと思ったからここに逃げて来たんでしょうし、その判断自体は間違っていないんじゃないんですか? ちゃんと生き延びて、子孫まで残せているんだから」
村長たちに追従するだけの、村人さん達もよ~く聞いてくださいね。
「で、せっかく逃げてきたのに、今度は虐待する側にまわっている、と。まるで過去の恨みをはらすかの如く。まったく瑕疵のない相手、自分達より『弱い』と思い込んでいる相手に。自分たちが『正しい』なんて根拠のない理由までつけて」
ただの能力の違いを、善悪だの倫理観だの宗教の問題にすり替えて。
「ねぇ。ちょっと教えてください。そんなことして楽しいですか?」
他の生き物ならば、絶対にしないだろう行為。脳と想像力を肥大させたヒトだけが持つ愚かさ。世界が変わっても、そこは変わらなかった。
「もうひとつ。何を根拠に彼らを『弱い』と思い込めたのか解りませんけれど、貴方達が使えない魔術や魔導で反撃されたら、どうするつもりだったんですか?」
というよりも、想像力が本当にあるならば、そんな愚かな勘違いなどするはずはなかっただろう。
答えはいかにとしばらく待って、わざわざ一人一人の顔まで覗き込んであげたのに。口を強制的に閉じさせている村長以外の誰も言葉を発しない。屍のようではないけれど、答える気がないのか、答えられないのか。
やれやれ。
やはりヒトの能力の有無は、想像力によるものなのですかね。それがない彼らには、実際に目の前で見せてあげるしかないわけか。君達、手品レベルの技で簡単に「奇跡」と信じ込みそう。あぁ、だから村長がこれだけ力を持てたのか。
ただの白い石を「聖石」なんて呼び、ただの灰を「聖灰」と崇める。人間の精神力は時折とんでもない力を発揮するので、彼らの中にも少しはあるだろう魔力が発言すれば、もしかしたら何か出来たかもしれないけれど。
魔獣から逃げる途中にほうり捨てちゃったのなら、もうどうしようもないよね?
「ふぅ。ユージンさん、ちょっとお手を拝借。お手元に火を出してくださいませんか?」
「は?……あぁ、分かった」
説教している間、村長達を黙ってみていたユージンさんに声をかければ、一瞬けげんな表情を浮かべつつも、目を閉じて眉間にしわを寄せた後、手を一振り。彼の節くれだった手の平サイズの火の玉が、ひろげた手の上に出現しました。
いやぁ。一夜漬けで無詠唱っていけたんですねぇ。
呪文なんて必要なかったんや。偉い人には……は良いとして。たぶんそれが脈々と当たり前の習得法として受け継がれてきたんだろうけれど。ほとんどの呪文だかスペルだかを知らないわたしが操られるんだから、結局はより鮮明に結果をイメージできる人間が、魔導上手なわけなのだろう。もちろん魔力は使うけれど。
うん。そりゃこちらが、クールジャパン育ちのゲーマー達の天国になるわけだ。で、苦労していないから飽きるのも早かった、と。向こうと違って、「観客」に合わせて魔獣の大きさや出現頻度が変わるわけではないからねぇ。ここはただの現実。いくら力を持っていても、死ねばそこでゲームオーバーの世界。
まぁそれでも。
ここで生きている人、しかも魔術や魔導から遠ざけられていた人々に、イメージ理論が通用するのかな~と実験と実践をしてみたくなったのはご愛嬌。
詠唱ありの火の魔術(小)が使えたユージンさんに、たき火を見せた後。「この日を頭の中で思い浮かべてください。ではそのイメージを手の上に浮かべて、はい目を閉じてもいいから強く浮かべて!」と誘導したらば、できました。
しかも、ぼうぼうと勢い良く燃え盛る火の玉(大)が。
一瞬惚けた後、奇声をあげて手を振り回していたユージンさんには笑いそうになったけれど、失礼なので、腹筋と頬に力を入れて耐えた。
「これは、ユタカさんが……?」なんて、情景か畏怖を浮かべた瞳でこちらを見ていたヒュー君には、誤解を解いておいた。練習すれば、たぶん君も出来るよと言いそえて。
「ご存知なかったのかもしれませんが、 このようにユージンさんは、何もないところに火をだせるんですよ。ここは海沿いにしては乾燥した土地ですから、小さな火種でもあっという間に服に、もしくは肌を直接焼けます。ヒトは表皮の三分の一のやけどを負えば、死ぬってご存知でした?」
突然出現したように見えるだろう火の玉に目を見開いているくせに、いま一反応が鈍い村長達にその火の玉を近づけてもらえば、座ったまま後ずさった。
うむうむ。ようやく分かってきたかね? 後ろにはヤンさん達がいるから、逃がさないけどね?
「ちなみにヤンさんは、水を少しだけど操れます」
以下の流れでわたしの意図がつかめたのか、今度はヤンさんが水球を出現させた。
ちなみに彼は元々、無詠唱でした。
何でもこの村には水を操れる人はいなくて、他の魔術みたいにスペルが受け継がれていなかったんだって。ただ、なんで出来るのかよく分かっていなかったので、発動の規模もタイミングも安定しなかったと。ならば練習あるのみ、イメージが固まったら千本ノックのごとく水だしをしてもらえば。
「ヒトは本来ひどく脆弱な生き物です。ほんの数センチの水に5分も顔をつけてれば溺れ死にぬって、ご存知でした?」
今ではその出した水の形を、自在に変えることもできます。
ヤンさんが動かした水は丸からドーナッツ型に形を変え、村長の横にへたり込んでいたノッポの取り巻きさんの顔をすっぽり覆った。
「っひぃっ、やめてくれっ!」
水の膜の向こうから、なんか聞こえますが、無視しましょう。先生は練習の成果を確認するのに忙しいですから。
うんうん。ヤンさんは威力よりも制御に長けていたんだよね。「針の穴を通すくらいに細く~」なんて、ネタ的に言ってみたら、ほんとにそこまで出来たし。わたしの世界の針の穴よりは大きな穴だったけど、立派なものです。
そしてそれだけ水を細くすれば、高圧水になってしまうのは異世界でも変わらないわけで。
家用の木材を切りだしてできた原っぱで練習していたんだけれど、ヤンさんの前にあった木が二本、貫通しました。
チュンッて音立てて。
周囲がドン引きました。やった本人もドン引きでした。
「ユージンさんやヤンさんには、生まれつきのこの能力があったけれど、それを攻撃に使おうなんて考えもしなかった。わたしと違って優しいですからね。そもそも魔導を教えてくれる人もいませんでしたから、使い方があまり分からなかったんですよね」
昨夜の特訓中。何度も彼らは発動をためらっていた。長年の洗脳により、その力は悪しきもの、使ってはいけないものと考えさせられていたからだろう。
せっかく持っていた力なのに、使いも鍛えもしないで。
馬鹿馬鹿しい。
「魔力ありの人々による収穫や畑作、命がけの漁で助けられているくせに、その成果だけ奪って、鬼だ悪魔だと罵る。いやぁ、本当に。宗教って便利ですよね。そんな盗賊のような、そちらこそ悪魔や鬼の所業にも大義名分を与えられるんですから。
『奴らは悪魔だ、穢れた存在だ』『だからこうするのは当然のこと』『我らこそ正しい』。ちょっと想像すれば破綻しきっていると分かる論理を振りかざす姿は滑稽でしかありませんが、その尻馬に乗る人には都合がいいですよねぇ?」
ねぇ村人の皆さん。
村長や取り巻き~ズの後ろに隠れているつもりでしょうけど、貴方たちも加害者ですよ?
その健康そうな身体は誰のおかげですか?
繕いはあるけれど鍵裂きも破れもない服は、誰のおかげでしょうね?
素敵に無敵なセバスチャンは、「あの者達に優様がお言葉をかけるなど勿体ない。聴く気もその能力もないでしょうから、排除するだけでよろしいかと」なんて、その形の良い眉を顰めちゃって動こうとしていたけれど、止めた。顰めた眉にキュンキュンするのは、止められなかった。
あ。もちろん人道的な観点からで止めただわけではありませんが、なにか?
罪って言うのは思い知らせて、罪の中には償うなんて到底無理なものもある事を悟らせてこそだと思っているからですが、何か?
その上で、相応の罰を受けてもらうつもりですよもちろん。
「こ~んな処で、人に寄生してちまちま生きてるから、そんな考え方になるのです。でも別にいいんですよ? 貴方たちがその考え方に縋っていたいんならそれでも。ただその場合はヤンさんやユージンさん達から切り離して……そうですね。海は怖くて出られないそうですから、もう少し内陸の方に新しい集落を作って、プレゼントしましょう。
ど うせ乗りかかった船です。なぁに、ちょちょいと森を開いて、そこに貴方たちが今住んでいる家を移動させるだけですから簡単ですよ。その後は、お好きにどうぞ。川の近くに作って差し上げますから、畑なんかはご自分達で、一から開墾してくださいね?
だって畑仕事のきつい部分は、ヒュー君たちにやらせていたんでしょう? 道理で、皆さんの手があんまり荒れていないわけです」
その後彼らが飢えて死のうが、魔獣に襲われて死のうが、彼らの自由だ。その時彼らの宗教が役に立つといいよねぇ?
セバスチャンにそう諭したらば、「さすが優様。深遠なお考えです」と微笑えんでくれたのは嬉しかったのだけれど。一緒に聞いていたユージンさん達が顔をひきつらせていたのが、解せない。
だってわざわざ住む場所を提供してあげるんだよ? 後は放置するだけだよ? ものすごい恩情措置じゃん。
そんな風に昨日の事を思い出して、やや微妙な心持になってしまいましたが。美味しいお茶とサブレがわたしを待っています。そろそろ締めましょう。
「魔力や魔導に善悪なんてありません。あるかないか、発動するかしないかです。そして魔獣に意志や意図なんてのもない。彼らにあるのは、食欲と生存本能。そこにこちらが触れれば攻撃してきますから、走って逃げるか、反撃するかしありません」
ちゃんと彼らの目をみてお話しできるように、座り込んでいる彼らの前にしゃがんで。
「それもしないでワーワー喚いているだけの貴方たちは、格好の餌です。……まぁ貴方達が魔獣にとって美味しいかどうかはわかりませんが。あ、ヒュー君達よりは肉がついてるから美味しいかな?」
一人ずつ顔を見渡して。一言一言、ゆっくりと届けてあげましょう。
「もうヒュー君達を盾にすることはできません。彼らには自衛手段を伝授しましたし、そうですねぇ。貴方たちには彼らを攻撃すれば発動する罠でもプレゼントしましょうか」
やっぱり放置プレイだけでは、罰として温い気がするし。長年の習慣をそう簡単には変えられないと思うし。
「ヒュー君、あ、ユージンさんやヤンさんにもお聞きしましょうか。どんな迎撃システムがいいと思います?痺れ系? 切断系? 何度もしなきゃいけないのは効率悪いから、やっぱり一度で思い知るようなインパクトのあるものが」
「いやユタカさん! 今でももう、十分衝撃的ですからっ」
わたしだけで決めちゃうのもなんだしと立ちあがって顔を向ければ、ヒュー君から安定の突っ込みを頂きました。
え~と不満げに呟いたら、下を指さされたので見れば、村長以下全員、口から泡を吹くか白目をむいて、気を失っておりました。
やっぱり彼らは気絶体質だと思いました。まる。
これにてお仕置き終了。他者視点の小話を挟んで、また旅立つことにいたしましょう。そろそろ彼の様子も見ないとまずいかな?




