064 追い込み猟はみんなでする方が良いらしい。
最初は第3者視点、その後優視点でお送りします。
周囲のふかい森から湧きでる朝霧がまだあけぬ早朝。村の「こちら」と「あちら」の間にある原っぱを、数人の男たちが歩いていた。
「まったく手間をかけさせおって」
男達の先頭を歩く、道も舗装されていない鄙びた村にはあまり似つかわしくない、裾の長い上着を着た小太りの男がそう呟けば、すかさず周囲を歩く男たちから追随する声が上がる。
「村長の仰るとおりです」と右側の小男が重々しくうなずけば、「立場を判らせてやらねばなりませんな」と左側ののっぽの男が拳をあげる。そしてそこに、彼らの後ろを歩く男数人が、「そうですね」「あぁまったく」と合いの手を入れている。
予定調和の応答。そのまったく破たんのない流れに、彼らがこの茶番を日々繰り返しているのだろうことが、容易に想像できる。そして反対する者がいない故に意気軒昂になるのは良いが、先頭の三人、村長とその取り巻きのうち一人は、二日ほど前に味わった恐怖をどうやら忘れているらしい。
「ふんっ!どこから連れて来たか知らんが、あんな化け物の手を借りるなど、堕ちたものよ」
「穢れた者達ですから、やはり考え方もそれに準ずると言う事でしょうな」
「穢れた者達がどなろうと自業自得。と言いたいところですが、それを救ってやるのが、我らが務めでしょう」
「やれやれ。手間のかかる。まぁかかった手間の分は、きっちり払ってもらわんとな」
「そうですね。あの化け物が何かしていたようですから、まずはそれを……」
手前勝手な皮算用を下卑た顔で交わし合っていた男達が、そこでぴたりと足を止めた。
「なんだこれは。進めんではないか」
朝もやの向こう、彼らが言うところの穢れた者たちの小屋の少し手前に、まるで見えない壁のようなものがあり行く手を阻んでいた。
「あ、はい村長。昨日報告させて頂きました通り、そこから先にはどうやっても進めず、向こうをうかがうこともできません」
後ろにいた男の一人が、おずおずと言い添える。
「ふんっ。昨日聴いた時はなにを寝とぼけているのだと思ったが、本当だったようだな」
「……はぁ」
顔だけで振り返り、馬鹿にしたようにそう言う村長に、男は出来るだけ曖昧な口調で答えた。見たままを答えてドヤされるのは、昨日で懲りたのだろう。
「これも大方、あの化け物の仕業でしょう」
「左様。あの者たちは穢れた魔力持ちとはいえ、このような事をする力があるはずはありませんからな」
「……しかし村長、どうされますか」
村長を間にして、取り巻き二人がさえずる。もったいぶって解説しているものの、自分たちで何かをするつもりはないらしい。それは後ろの男達も同様で、こちらは黙って村長の顔色をうかがっていた。
「ふんっ、案ずるでない」
自分に注目する男達を見まわした村長は、おもむろに懐から布に包まれた物体を取り出すと、
「こんなもの、聖石の力をもってすれば―――」
恭しく布から取りだし、目の前に翳した。
ちなみに彼の手の中にあるものは、一見すれば何の変哲もない白っぽい石である。大仰に翳してはいるが、発光もしないし、七色のきらめきを放ったりもしない。
もしここに優がいれば、「わ~小芝居みたい~、待ってました~」と棒読み+拍手でもするだろう状況であるが、それでも周囲の男達は期待したように前方を注視しており、
「おぉお……!」
彼らが期待したとおり、目の前に大人一人が通れるくらいの幅の、「入口」が開いた。
「見たかっ、これが聖なる石の力である! 化け物、悪魔など恐れるに足りん。正義は我らにありっ!」
入口が開き、向こう側が見えた瞬間、叫びながら村長がかけ入った。「聖なる石」とやらを掲げた状態で。
そこだけ朝霧が晴れた空間を覗き込むようにしていた他のメンバーだったが、リーダーが突撃した以上続くしかない。
「村長、お待ちくださいっ」
「危ないのでは!?」
不安そうにそう言いつつも、村長の背を追って入口をくぐり抜けた。が。
「は~い。朝もはよからいらっしゃいませ~。5名様ごあんな~い」
最後のひとりが入ったところで、後ろから間延びした声をかけられ、思わず振り返って目にしたのは。
「さて。せっかくいらっしゃったんだから、楽しんでいただかないとね?」
かき消えた様に無くなった入口と、そこでとても楽しそうに嗤う優。そして手に手に獲物を持ってこちらを見つめる、穢れた者たちの姿であった。
***
「罠、ですか?」
「そう。この集落と村の周囲の森を使った、ちょっとした罠です。それでいままでいかに貴方たちに守られていたかを、実感して頂きましょう」
皆さんこんばんは。越谷優@異世界・はぐれ者の村です。
フェーズ合わせもすみ、楽しい、楽しい、教育的指導の方法を皆様に提案しております。
ちなみに無敵に素敵な執事様が、「頭脳労働にはこちらを」とさり気に出してくれた、外はさくっと中はしっとりチョコレートクッキーへと延びる手が止まりません。
「……えっと、具体的には、なにを……?」
「ん? 分かりません? 魔獣が沢山いる海岸や森で、採集作業をしてもらおうかな~と。いままであなた達がしていたように」
「は?」
「いや、本当ならねぇ。狩りの一つもして頂きたいんですが。でも彼らの、特に村長達のたるんだ身体では、無理かな、と。たぶん彼ら、走れないでしょう? 魔力がない、もしくは発動できないほど少ないから、筋力なんかの底上げも出来ないだろうし」
「え? あ、いや? たぶん?」
「もちろん武器は持って行ってもらうけれど、『他の人たち』はそれを使いこなせます? とういうか彼らって、村から出た事あります?」
「あ、いや……たぶんほとんど、ないでしょう」
搾取されるばかりであまり村人たちとの接触がなかったのか、首をかしげながら答えるヒュー君達。予想通りの答えに頷くワタクシです。
だよね~。魔獣が怖くて引きこもり、そのかわりに年端もいかないイリヤ君まで海岸に行かせてたんだもんねぇ。
はっ。魔力がない自分達は「正」だと言い張るんなら、村から出ても襲われないはずだろうに。トンデモ理論を振りかざすんなら、辻褄合わせくらいしろっての。
「最初はねぇ、村長たちは、彼らのお花畑な脳内でのみ通用する屁理屈をかざしてヒュー君の為に建てた家や共同浴場なんかを奪いに来るだろうから、弓や斧で撃退してもらおうかなと思っていたんですが」
「は?」
「でも今まで対人戦をやった事がない……あ、やったことある?」
「まさかっ!」
「あ、そう。うん。だからやったことのない方では、たぶん難しいよねぇ。人を攻撃するのは」
「え、いや、ユタカさん!?」
「更に言えばあなた達は、いままでどれだけ虐げられていても、反撃した事がなかったんでしょうから」
そして、反撃しないからますます村長達を増長し、ヒュー君達を「自分達より弱いモノ」と誤解させたのだろう。
「……それは、」
「あ、責めているわけではないんですよ。相手が油断してくれればそれだけ、罠にかけやすいですから。第一ここで戦闘しちゃえば、せっかく作った家が壊れたり、血で汚れたりするかもしれませんしね~」
壊れても元に戻せるし、汚れもすぐ取れる。もしくはそれも罰として、村長たちにやらせればいい。あ、それとも。
「いっそのことこの機会に、この村捨てちゃいます? 家なら持っていけますし、別の場所に畑とか開墾するなら、のりかかった船でやりますよ?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
グッドアイディア! と提案してみましたが、ユージンさんから待ったがかかりました。
「確かにあんたが言うように、俺達は今まで唯々諾々と従うだけだった。あんたから見れば、この場所にいる意味がない様に思うだろう。でも……」
「それでもこの村は、俺たちの生まれた故郷なんです。だから、捨てる、のは……」
切々と訴えかけるように言葉を紡ぐユージンさん。その隣の、外見年齢30歳、セバスチャンがこっそり教えてくれたところによるとヤンさんが、続ける。そして周囲の大人たちとヒュー君も。
ふむふむ。なるほど。皆さん言いづらそうにされていますが、予想の範囲内です。
「皆さんのご要望は賜りました。直接攻撃はしたくない、この村をつぶしてオサラバもしたくない。ならやっぱり、魔獣さんとこんにちは作戦で」
それしかないでしょう!
「わざわざおびき寄せなくとも向こうから来るだろうから、周囲を囲って集落の中を通過させて、森に……あ~でも、どうしようかなぁ。森より海の方が魔獣って多いですかね? ヒュー君どう?」
「えっ、いや。海岸で襲ってくるのは、ユタカさんが倒してくれた怪物とかで、森は」
「森は大型猪などが多いな。火吹き雀やキィーウィーも時折見かける」
ちょっと自信なさげなヒュー君を補足するように、ユージンさんが答えてくれる。
うむうむ。やはり貴方が、この集団のリーダーなわけですね。目標に出来る大人が近くにいるならば、ヒュー君やイリヤ君も良い男に育つだろう。その為にも。
「ならやっぱり、『魔導も魔術も使わない』って言う作戦からは外れちゃうけど、海岸に一気に飛ばしちゃおうかなぁ」
「へ。飛ば、す?」
「あ、でも。ちょっとフリーホールしただけで気絶しちゃったから飛ばした衝撃で気ぃ失って、海岸着いた途端、食われちゃうかも?」
彼らが健やかに育つ環境を整えるべく、ついでにちょっと笑いを取ろうとボケてみたんだけれど。
「いや、笑い事じゃありませんよね、それ!?」
ヒュー君から安定の突っ込みを頂けました。まる。
****
「よるなっ、来るな化け物めっ」
「おのれ、我らにこんな事をしてっうわぁっ」
「っイッ、この!くそっ、何故聖灰も聖石も効かぬのだっっ」
ってなわけで。は~い皆さんお元気ですか~? いや~巷で最近よく聞く「ざまぁ」ってのを今やっているんですが―――本当に楽しいですね!
目の前の状況をちょいと説明いたしますと、作戦通りヒュー君やユージンさん達が鬨の声をあげながら鍬やナイフなどを振りかざして、村長達を追いたてております。
村長とその仲間達は、先日わたしにもぶつけようとしてくれた聖灰(ただの灰でした)と、音から察するに聖なる石と書いて聖石(見た目ただの白い石)で撃退しようとしているようですが、もちろん効くはずはないわけで。
「ヒュー、脇道に逃がすなよっ」
「はいっ、ユージンさん!」
うむ。素晴らしい連係プレーですね。順調に獲物を追い詰めております。
やっぱりあれですね。狩りは複数でやるものですね。わたしは魔力にものを言わせてひとりで魔獣駆除しちゃう事が多いのだけれど、それでも側で素敵に無敵な執事様が見守ってくれている事が多いし。時折、というかわりと頻繁に? ルーカスさんとコンビ組んでやっていたし。
狩るものが複数だと、ひとりでは取り逃してしまうかもしれないしね。
「いや~セバスチャン、素晴らしい連係だねぇ」
「左様でございますね。優様のご指導のたまものかと」
「いやいや。わたしが教えたのは筋力と動体視力の底上げだけだし。一夜漬けだし」
「いえ、風を操り、弓の命中率を上げる方法も伝授されておられますよ」
「いや~それも元々の技術があってこそだからさ。ほら、いまの連係プレーなんて、日頃やっててこそでしょう」
「優様は何でも他の手柄にされてしまう」
「いやいや」
「ともかくも。万一に備えて待機しておりましたが、杞憂でございましたようで。お待ちの間に軽食でも取られますか?」
「魅力的な提案だけれど、働いてるヒュー君達に悪いから。後で、みんなで頂くよ」
「かしこまりました」
そう。万一、ヒュー君達だけでは押さえられなかった時に備えて後ろについてっているんだけれど、やること無くて愛しの執事様と雑談しちゃっています。
うん、なんかね。予想をはるかに超えて、村長君たら、打たれ弱かったみたいです。
あれだね。自分たちが絶対的強者だと根拠もなく思いこんじゃってて、実際いままで一度も抵抗された事もなかったから、いざ反撃された時のシミュレーションを全くしていなかったんだね、これは。
いやぁ~。ヒュー君達に投げつけた聖灰(笑)が弾かれた時の村長の顔は、見ものだったなぁ……。
ヒュー君達は聖灰(笑)がただの灰でなんの威力もないのは分かっていたけれど、いままで甘んじて受けていたせいで、村長達は効力のあるもんだと思っていて。
それを逆手にとって、投げつけられてもそのまま気にせず向かっていくって手もあったけど、やっぱり灰でも目に入ったら痛いじゃない? だから簡単なシールド(みたいなもの)を全員につけてみたんだけどさ。
村長君たらポッカーンて口あけて、手元とヒュー君達を何度も見比べて。何度投げつけても弾かれるもんだから、段々やけになったのか、顔真っ赤にしちゃって。周りは青ざめていたけど。
ヒュー君達は逆に「えー……」「これ、このままやっちゃって、良いんでしょうか?」なんて、小声で訊いてくるくらいだったし。
うん。自分達を長年押さえつけていた奴らが実は弱かったってわかると、戸惑っちゃうよね。
いまだってほら、村長達はやみくもに逃げ惑っているつもりだろうけれど、森へと誘導されているんだよね~。
「えぇい悪魔どもめっ、わしに近づくなっ」
「ひっ、村長っ! 行き止まりですっ」
「なにぃっ」
「お? 着いたか。それじゃ、ほいっと」
打ち合わせでは、ユージンさんに合図してもらう予定だったかれど。その前に、集落の端、この村全体を囲っている木の柵に行く手を阻まれた村長たちが、絶望の悲鳴を上げてくれたので。
「あっ村長っ、ここから出られますっ」
「なにぃっ。どけっ! わしが先に行くっ」
「あぁっ! 置いて行かないでくださいっ」
出口を作ってあげました。村の外、魔獣が跋扈する森へと続く出口を。
「はい、一丁上がりっと」
もちろん最後の一人が出たら、「出口」は閉じます。開けっぱなしにしていると、村に魔獣が入ってくるかもしれないしね。
「ユタカさん。上手くいきそうですね」
なんとなく一仕事終えた気分で、出てもいない汗をぬぐっていると、こちらは追い込み猟で汗をかいたヒュー君達が集まってきた。
「お、ヒュー君お疲れ。ここまでは予定通り。いや、予定以上にうまく行ってるね」
「正直、ここまであっさり行くとは……」
「ユージンさん、お疲れ様です。動いてお腹すいてません? セバスチャンが軽食用意してくれてますんで、よければどうぞ」
「え、でも村長達を追いかけないと」
「いや~ヤンさん。脇目もふらずに走って行きましたからねぇ。しばらくは気づかないんじゃないですかね。自分たちが森の中にいることに」
「えっ! それ、不味いですよね」
「うん?予定通りだよヒュー君。大丈夫。彼らに監視はつけてあるから。死ぬ前には回収にするし、それまでおやつでも食べて待っていよう」
「いやそれ、ダメですよねっ!?」
あらあら、ヒュー君たら、朝から突っ込みが冴えわたっているね。それに呼応するように、柵の向こう側から悲鳴が聞こえた気がするけれど……うん。まだ、大丈夫。
さぁ村長君たち? 第二ラウンドスタートです。頑張って、狩りしてくださいね?
相変わらずの、主役が悪役状態。




