062 よろしい。ならば拠点づくりだ。
お久しぶりです。
「ハイホー、ハイホー、しっご~とが、好っき~……あいや、そうでもないけど」
「ユタカさん……なんですかその歌」
組み上げた木の強度を確かめながら、なんとなく思い出した曲を口ずさんでいたら、後ろからため息交じりの突っ込みを頂いてしまった。
振り返れば、ヒュー君が心なしか疲れたような顔をしてこちらをみていた。ちなみにその横にはイリヤ君。君達はいつも一緒にいるんだねぇ。
「ん~? 労働歌? ほら、単純作業は楽しくやった方が早く終わるでしょう?よしっ。取りあえずこんなもんかな」
「単純作業って……いぇ、もういいです」
おやおや。何故かヒュー君が一層疲れた表情を浮かべていますよ? 隣のイリヤ君は逆に、お目目をキラキラ輝かせてわたしの後ろを見ているようだけれど。
まぁヒュー君にも色々あるんだろう。16歳と、何かと揺れ動くお年頃らしいし。なので、感想はイリヤ君から頂こう。
「どうかな、イリヤ君。ここに住んでみたいかな?」
組み上げたばかりの丸太小屋の入り口を大きく開けて、手招きした。
「すごいや、すごい、ユ、タカさんっ。あっという間にこんな立派な家、作れるなんて!」
子犬のように走り寄って来たイリヤ君は、まろやかなほっぺたを赤くしながらさっそく家の中を走り回っている。
「ヒューも見てごらんよっ。部屋がいっぱいあるよっ! 窓まであるよ!」
「気に入っていただけたようなら、何より。それに凄いのはわたしではなくて、この世界の魔導だから」
はい。作っちゃいました。丸太小屋。ちなみに間取りは平屋の4Lです。材料は、村の周囲にひろがる森の木々。香りのよいものを選んで、風の刃でサクサク切って、即効乾燥。木がひわったり反ったりしないように気を付けました。
それから皮をはいで~。あ、剥いだ皮は炊きつけなどに使うので、ちゃんと避けておいて~、セバスチャン検索で見つけたログハウスの設計図を参考に、さくさくっと組み立てれば出来上がりです。実は昔、父さま指導のもと弟と建てたことはあるのだけれど、あの時は指示されるままにトンテンカンテンやっていただけからねぇ。ヒュー君達の家になるものだし、ちゃんとしたものを作ろうと思いまして。
窓の部分はガラスを練成して嵌めようかなとも思ったのだけれど、木の鎧戸型にして、内側に布をかけるだけにしました。
だってねぇ。先日まで滞在していた大商人のクリプキウスさんの家のガラス窓は、阪本先輩の指導のもと開発された、薄くて丈夫なペアガラスだったけれど。それまでは、気泡の入った歪んだものしかなかったというし、かつそんなクオリティでもお高かったと言うし。わたし達の世界でも産業革命以前には、一般庶民の家にガラス窓はあまりなかった。
つまりは。
わたしが持ってくるとか、ストックを大量に置いておく、近くで原料を見つけて、窯を作って、ゆがんだもので良いから創り方を伝授するなどの措置を取らなければ、割れたら終わりということ。だったら木戸にした方がメンテも楽だし、壊れてもとり換え出来る。
わざわざ周囲の木を切って丸太小屋を作ったのも同じ理由からで、便利な魔導を使えばどんな豪邸でもポンっと出てくるだろうけれど、素材がココにないモノだったりするとメンテナンス出来ない。防御と状態保存をかけておけば、メンテの必要ないだろうって? そんなオーパーツ、何かの拍子に見つかったら、たぶんヒュー君達は面倒な目に会う。と思う。まずあのお馬鹿さん達に狙われるだろうし。
彼らはこれから駆逐する予定だけれど、強欲は誰の心にも忍び寄るものだし。そもそも、無駄に豪勢な家は掃除も大変だし。という訳で、丸太小屋です。村に滞在する間は、わたしとセバスチャンもこの家に寝泊まりします。
うん。て言うかね。まずは落ち着いて座ってお話でもしましょと、ヒュー君達に案内された彼らの「家」は―――掘立小屋以下だったんですよ。
うん、うん。なんだろう。いわゆる「発展途上国」のスラムと呼ばれる場所で見かけた、トタンや廃材で作られたものに近いだろうか。と言っても異世界にはトタンなどないから、木製なのだけれど、小屋全体がなんとなく傾いているし、壁部分の木には所々虫食いと思われる穴があいている。広さは3畳くらいかなぁ。あ。床に一応、木は張ってあるけれど、隙間がかなりあいているし、壁の穴と考え合わせると、この小屋、冬は相当寒いんじゃないだろうか。
部屋の隅には、眠る時に使うんだろうと思しき目の粗い布が畳んであって、他の隅には持ち手のないコップが2つと、木の皿が2枚。以上。
そんなヒュー君達の「家」をさっと見渡した素敵執事様は、四次元鞄からテントやベッド(あ、止めたけれど結局持って来ていたのね)、テーブルセットをさっさか出し始めたので、ちょっと待ってもらって、代わりにお願いをしておいた。
「優様、炊事場と浴場の設営は整いましてございます」
「あ、ありがとうセバスチャン。さすがの速さだねぇ。給水と排水の方も問題ないかな?」
「もちろんでございます。ヤスミーナが考案した給水と分解処理の魔導をそれぞれ組み込んでおります」
「さすが。うちの子たちが優秀すぎて、生きるのが楽しすぎる」
「恐れ入ります」
はい。共同キッチンとお風呂を作ってもらいました。
報告とともにもたらされた美しすぎる微笑みと礼に悶え転がるのは、寝る時まで我慢しよう。
ヒュー君達の仲間、つまりは魔術を使えるほどの魔力を持つ人々は、そんなに多くなかった。ヒュー君達を含めても11人。ちなみに集落全体の人数は、いまのところ不明。ヒュー君に聞いたら「え~っと、わかりません」と首をかしげながら答えられて、ちょっとこけそうになった。数えないのか。ないのか、ないよな、国勢調査。いやないにしても獲物や収穫物の分配とか……あ、村長の胸先三寸なのね。よしっその県でもシメル。
うん。じゃぁいいや。もちろん後できっちり数えるけれど、村の入り口でこちらをうかがっていた人々と建物の数から類推するに、百人以下、7、80人程度だろうということで。
まぁそんな彼らはこの集落の外れ、村をぐるりと囲む塀の内側ではあるものの、一番日当たりが悪い森近くの場所で、掘立小屋を建てて暮らしている、と。
親子は2組だけで、あとは血のつながりがほとんどない。魔力があると分かった途端、家族に捨てられここにいる、と。中には生まれてすぐ、お母さんともどもここに連れてこられた子もいる。産声を上げた瞬間、家中の火が数倍に膨れ上がったんだそうな。
そのエピソードを聞いた時には、「おぉ少年漫画みたい」と思ってしまったけれど、もちろん口には出さない。出産直後に追いだすとは何事だという憤りは大事に取っておいて、後で個別に教育的指導をさせて頂こう。
そんな11人の魔力アリの人々。
ヒュー君にお願いして集まってもらえば、皆様揃って顔色も悪く、身体は骨と皮と言うほどではないけれど、かなり痩せている。ついでに言えば、あまり清潔とはいえなさそうな服に身を包み、農作業の途中だったのか、顔や手足に土がついている人もいる。
「ヒュー君? 失礼だけど君達の食事は日に何度かな? 主に何を食べてる? あと、君のお家に台所もお風呂もなかったけれど、共同の施設でもあるのかな?」
予想できたけれど一応確認してみれば、苦い笑顔とともに帰ってきたのは、
「1、2回くらい。猟が上手くいった日はそれを、ない日はその日手に入ったものを食べています。煮炊きが必要な時は大体ここでたき火を焚いて、身体はもう少し先に行ったところにある川で洗うか、水に浸した布で」
という、予想以上の答えだった。
あぁうんわかった。こりゃ見ず知らずの他人に縋りたくなるような状況だわ。だってここに来る途中で見た他の村人たちの家は、けして豪華ではなかったけれど傾いではいなかったし、かまどからと思われる煙が出ていたもの。
ため息をつきたくなるのをぐっとこらえてセバスチャンに目配せすれば、彼は恭しくお辞儀をしてすでに四次元鞄から出しつつあった携行食を示してくれる。まぁ携行食と言っても、うちの可愛いメイドちゃん達謹製のパイにスープに煮込み料理です。状態保存をかけているから、出来たてほかほかです。これで足りなきゃ、さっき狩ったタコ君もあるよ!
テーブルセッティングと給仕は、以心伝心なんて素敵過ぎる。そこに惚れるさあこがれるぅ! のセバスチャンにお任せし、お仲間たちへの説明はヒュー君に丸投げして、彼らが食事をしている間に、木の切り出しや整地などをして、と。
組み上げるのは取りあえず、自分達も寝泊まりするヒュー君達の1軒だけにして、後は各グループの希望を聞きつつ一緒に建てればいいか。メンテ方法もそこでお教えしましょう。
11人しかいないんだし、準備の手間を考えればお風呂と台所は共同で良いでしょう。これもセバスチャンにお任せすれば、素敵なものを作ってくれるはず。
え~っとそれから、食べ終わった人から問診して、具合の悪い人は治して。えぇ、軽傷や軽めの病なら手をかざしてその人の健康な状態をイメージすれば綺麗に治ります。まるで神の子。あぁ魔導って(以下略)。
それからお風呂に入ってもらって、あ、もちろん男女別に作りましたよ。その間に彼らの衣服は、洗濯させて頂こう。いえワタクシそこまで潔癖ではありませんが、せっかくお風呂でほこほこになった清潔な身体で、いつ洗ったのか判らないような服を着るわけにはいかんでしょう? 主にわたしの心情として。大丈夫、着替えがなくとも乾燥までちゃちゃっとやっちゃうから。
その頃にはイリヤ君以下おこちゃまはおねむの時間だろうから、各グループに簡易ベッドを渡して寝て頂こう。あ、ベッドや毛布にまくらなんかを一から作るのは面倒だし、おこちゃまが寝るまでに間に合いそうにないから、今回は魔導様のおチカラで。使えるもんは使わんとね。
で。身体も快調、お腹も満足な状態の大人たちで作戦会議でも開きましょうか。楽しい、楽しい、仕返しの為の作戦会議を。
続きはできるだけ早めに。




