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伝説の魔導士? イエイエ、ただの出稼ぎです。  作者: 海山ヒロ
異世界で旅しよう・はぐれ者の村 編
79/95

061 越谷家の家訓はハムラビ法典から出来ています。

ちょっと間が開きましたかね。

「この悪魔がっ! 穢れたお前達に情けをかけて村に置いてやっていたと言うのに……やはりお前たちは呪われている。果てはこんな、こんな化け物を呼び寄せるなどっ!!」

「そうだっ! さっさと村から立ち去れこの魔物どもがっっ」



 うんまぁね。

 ヒュー君の話で、ある程度予想はしていた。

魔力のありなしなんて言う、ただの能力の違いでしかないモノで人を差別するような輩ならば、異世界こっちでは「伝説級(笑)」になるらしい魔力持ちのわたしが行ったら、忌避されるんだろうな~なんて。

 そんなお馬鹿さんに差別されても痛くもかゆくもないし、まぁ聞きとりできたらもうけもの。たとえ罵詈雑言でも反応は反応だし、状況はそれで理解できるよな~なんて考えていたのだけれど。



「うんまぁね。さすがにいきなり砂……いやこれは灰かな? をかけられるとは思わなかったなぁ」



 無駄に相手を刺激しないようにと、わざわざ村の近くで飛ぶ(途中の山道はお馬さんが疲れそうだから、みんなまとめて飛びましたが何か?)のをやめて、ヒッポに分乗してやってきたのに。

 村の入り口と思われる木の扉の前で、口から唾を飛ばしながら喚くおっさん二人に、灰の様なものをかけられました。



「すいません、すいません! 魔獣よけの鈴が鳴ったみたいで……でもまさかいきなり、聖灰をかけてくるとは思いませんでした。あの目とかに……あれ」



 わたしの隣で、頭と洋服を灰だらけにしたヒュー君が、必死に謝りながら服を払ってくれようとして、首を傾げた。



「あぁ。わたしは周りに常時結界はっているから、かかってないよ。でもそのせいで、君やイリヤ君にまともにかかっちゃたみたいだね」

「……結界、ですか。すげぇ……あぁいや、俺らは慣れてるんで」

「うん。灰だから、払えばいいだけだしね!」



 目はしっかりつぶったから大丈夫と、満点笑顔でイリヤ君が胸を張っていますが、その笑顔も仕草も可愛いけれど、問題はそこじゃない。

 慣れている。この状況に。灰をかけられる事に。一方的に罵詈雑言を浴びることに。

「灰ならば」、「払えばいいだけ」ということは、それ以外、払うだけでは落ちないようなものを投げつけられたこともあると言うことで。

 更に言えば。

 いまだに灰を投げつけ、言葉と、訳のわからない呪文のようなものを投げつけてくるおっさんたちの、自分達は「正しいこと」しているのだと信じきったあの目。血走った、狂信者の表情。陶酔と優越すら感じさせる醜い顔。ヒュー君達のほっそい手足、そげた頬と対照的な、十分に肉のついた血色の良い顔と身体。

 それらを総合すれば、彼らの置かれている状況をくみ取るには十分だろう。


 そして何よりも。



「……誰かを攻撃した場合。反撃されて、最悪殺されても、文句はないってことだよねぇ……」



 越谷家の家訓その5を適応し、越谷家長女としてやらせて頂きます。



「なにをごちゃごちゃと、っぐわっ!」

「なっこのバケモッ、グッ」



 人は食べられないので、命までは狩らないように。ただし二度と歯向かう気が起きない程度には痛めつけ、恐怖を植え付けて心を折りましょう。

 ってことで。母さま父さまから教えられた通りに、おっさん達をもてなします。まずは扉に……叩きつけると、扉が壊れちゃうかもだから、地面に叩きつけてっと。



「ほ~ら、フリ~ホ~ル。あなた達の嫌いな魔導を使えば、こんなことも出来るんですよ~。嫌っている癖にそれを持つ年少者を危険な地で強制労働させて、ご自分達は高みの見物ですか~。いい御身分ですね~。そんなに嫌いなら、そんなに自分が持っていない力を持つものに嫉妬するくらいなら、とくとその力を味わっていただきましょう。ほ~ら、高い、高~い」



 その後は、鳥の視点でも味わってもらいましょうか。それと上下落下も。



「ほ~ら、楽しいでしょう~? 今度は左右にしましょうか~。あ、ひねりも入れちゃう?」

「ちょっ、ユタカさん、そこらへんで! それ以上やったらおさ達が死んじゃいますよっ」



 おっさん達に少々高めのフリーホールを味わってもらっていたらば、ヒュー君が血相を変えて止めてきた。


 はて。

 おっさんの野太い悲鳴など聞きたくもないので消音仕様にしているし、大分高いところで上下させているから、表情まではここから見えないと思ったけれど。ヒュー君は目がいいんだねぇ。

 でも心配ご無用!



「え~大丈夫だよ。ショックで心臓が止まったとしても、たぶん戻せるし。あ、酸素供給もしているから窒息しないしね。わたしの故郷では、お金払ってこういうのを楽しむ人もいるんだよ?」

「なにそれ怖すぎるっ。どんなとこですかそれ!」

「ユタ、カ、さん。あれ僕もやって欲しいですっ」



 わたしの答えにヒュー君は身体さすりながら顔を青くし、イリヤ君は目をキラキラさせておねだりしてきた。



「お~やっぱりイリヤ君は大物だねぇ。うん。おじさん達が終わった後でね」



 ほっぺを赤くしたワクテカ顔のイリヤ君には微笑み返し、あわあわしているヒュー君には隣のセバスチャンを示すことで宥めることにした。

 

 ねぇヒュー君。見てごらんよ、あの満足げな表情を。うちの素敵執事様ったらちょっと主人思い過ぎなところがあるから、わたしが即応しなかったら、あのおっさんたちを瞬殺(ガチの意味で)していたよ? 確実に。たぶんR18以下のイリヤ君にはお見せできないやり方で。

 だからこれは、慈悲なのです!



「さ~て、そろそろいいかな~? まだかな~?」

「あの、ユタカさん、ほんとにそこらへんで。長達たぶん、気絶してますし」



 上下運動だけではやはり飽きるので(わたしが)、ひねりを少々加えた後、水平回転運動にしてしばらくすると。若干涙目になったヒュー君が止めてきた。



「え~? あれ。ほんとだ。他愛ないねぇ。ちょっと動かしたくらいで」



 確かめるため地上に降ろせば、ヒュー君の言う通り、おっさん二人は気絶していた。

 口の端に泡をつけて。

 ついでに言えば、おっさんのうちの背の低い方は、ズボンの股のところが濡れているようだ。



「へ~……ほんとに泡ふく人っているんだねぇ。ほらセバスチャン、見てごらんよ」

「左様でございますね。中毒症状などで泡をふく例があるのは存じておりましたが……興味深い」

「ね~。勉強になるよね」

「いや、ユタカさんっ! 感心してないで、介抱しないとっ」



 セバスチャンと二人して覗き込んでいたら、ヒュー君が焦ったように言いながらおっさん二人を抱き起そうとした。



「え。なんで?」



 本当にねェ。こんな状況下でもその優しさを失わない君は、奇跡とすら言える気がしてきたよ。



「いや、なんでって……」

「君のその優しさは、素晴らしいと思うよ。自分達を明らかに不当な理由で虐げてきた人間を気遣うなんて、中々できることじゃない。少なくともわたしには無理だ。でもね」



 おっさんの一人、服装からするとこっちが村長かな? それにかけていたヒュー君の荒れた手を、そっとどかす。

 働き者の手だと思うけれど、君には後でハンドクリームをあげよう。



「その優しさに値しない―――ん~、その価値がまったく分からない人もいるんだよ。それでも良いって君は言うかもしれないけれど、今回はわたしに攻撃してきたことに反応しただけだから」

「え、いや攻撃って言っても、ただの聖灰……」

「うん? 手段が何であれ、攻撃してきたことには変わりないよね? それに灰だって目に入れば痛いし、口に入ればせき込むし、何より洋服は汚れるよね。あぁ、そうだ。君達のを綺麗にしないと」



 おっさん達をお仕置きするのに忙しくて、忘れていた。いつもなら素敵銀色執事様セバスチャンやってくれるだろうけど、ほら、彼もお仕置きを見守るのに忙しかったからね。

 あ、そうだ。どうせだから。



「うん、これでよしっと」



 旅行前にDVDで見ていたドラマの魔法使いの仕草をまねて、指をスナップ。

 うん。中々いい音がした。



「えっ、あ、ありがとう、ございます?」



 指スナップひとつで頭も洋服も綺麗になったので、戸惑っているのだろう。ヒュー君の語尾が疑問形になっている。



「あれ~。長達、真っ白け~」



 そして、すっかり綺麗になった自分の服を不思議そうに見下ろしていたイリヤ君が、まだ気絶しているおっさん達を指さして笑った。



「あの、これもユタカさんが?」

「因果応報。自分が仕出かしたことは、必ず自分に返ってくるってことを、身を持って味わってもらわないとねぇ。それにほら、気絶しちゃったから、フリーホールと空中大回転を夢かと思われるかもしれないし」



 目には目を、歯に歯を。そして、灰には灰を。

 ヒュー君とイリヤ君にぶっかけてくれた灰を、おっさん達に返してあげました。顔と頭に重点的に、べったりと。



「攻撃への対処としては甘すぎるけど、まぁ今日のところはこれくらいでいいでしょ。後はここらへんに転がしとけば、そのうち気づくんじゃない?」



 本当ならば、村をぐるりと囲っていると思われる塀の外にひろがる原野にでも、放り出しておきたいところだけれど。魔獣を呼び寄せて他に被害がでるのはまずいし、彼らにはまだ用がある。だから、扉の内側で許してあげよう。

 今日のところは。



「さぁさ。日もだいぶ傾いてきたし、これからやらなきゃいけない事があるし。お馬鹿さん達への対処はこれくらいにして、取りあえず中に入らせてもらうよ?」



 灰まみれのおっさんに直接触るのは嫌なので、魔導で浮かせてっと。

 おっさん達の後ろにあった木戸はセバスチャンが恭しく開けてくれたので、微笑みを交わして(悶えるのは根性で抑えて)から、くぐった先には。



「……ふむ。まずは、ヒュー君達のお仲間を紹介してくれるかな?」



 きっぱりふたつに分かれた集団が、不安そうに身を寄せ合ってわたし達を見つめていた。

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