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伝説の魔導士? イエイエ、ただの出稼ぎです。  作者: 海山ヒロ
異世界で旅しよう・連合王国 編
63/95

049 異世界にも中二病はあるらしいです。

引き続き、優の口と態度がとても悪いです。


「……ユタカ…」


 う~ん爽快! 相手の事情も心情も考えず、お馬鹿さんに頭ごなしに説教するって気分いいわ~。

 水たまり(氷まじり)の中で、尻もちついて呆然とこちらを見上げているお子ちゃまを見下ろし、高笑い。


 性格悪いって? 分かってま~す!



「…ユタカ……」



 ああうん。大丈夫。性格が悪くとも、わたくし大人ですから。


 お坊っちゃまには盛大に氷水ぶっかけたけど、このレストランに迷惑かけるなんてもってのほかだし、なによりセバスチャンやアロイス氏、それから不憫なカーメン君に被害が及ばないよう、結界というか障壁をつくっています。

 なので。きちんと磨かれた床も、ファンシーな花が描かれている壁もテーブルや椅子に、セバスチャンが出してくれたテーブルクロスにも、水濡れナッシンです。


 あぁでも。邪魔とめられたら面倒だしって思ってたんだから、壁作るだけでなく、見えないように色も付けときゃよかったな~。




「ユタカ、聴こえて、るんだろう?」



 透明な障壁の向こうにいるアロイスさんのすっきりとした額に、青筋が見えちゃってるから☆



「聴こえてますよアロイスさん。食事の開始が遅くなって申し訳ありません。言いたいこともやりたいことも大体終わりましたし、もしこの馬鹿坊クンの報復を心配しておられるなら、それが出来ないくらいに心をポッキリ折っちゃうか、記憶を少々改ざんすればいいだけですよ?」



 血管が切れられても、宿を叩きだされても面倒なので、にっこり笑顔でお答えしましょう。


 紹介の労をとってくれた台場ダイバさんの顔をつぶすわけにもいかないしね。

 それにまだあの図書館にある本、全部は読んでないから。



「その時は俺も喜んで協力するが、そんな手間をかけずとも、証拠を残さなければなんとでもいい逃れられるだろう。伯爵本人から、この坊やへの苦言は何度もお聞きしているしな」


 ほっほう~。


 以前腹黒笑顔を浮かべて「人の記憶なんて簡単に変えられる」なんてルーカス氏が言ってたから真似しちゃえ。と、人としてどうよと言う提案をしたわたしもわたしですが。


 うん確定。アロイスさんこのお子ちゃま嫌いなんですね。頭に大がつくくらい。

 ほんとに、なにやったのかしらこのボクちゃん。ヴェニスの商人様の猫がはがれて、角? 牙? がでちゃってるよ。



「ともかくこれが原因で病になっても面倒だし、その坊やの髪と服を乾かしてくれないか」

「…ふむ。そうですね。従僕カーメン君が涙目になってますし。ようやくお坊っちゃまの頭も冷えたようですし」



 貴方もたいがい酷いですね。なんて言葉は心の中だけで呟くことにして、ご要望通り、ショックのあまりか真っ白になっているお坊っちゃまを脱水する。


 え? もちろんやろうと思えば、ほぼ一瞬で乾かせますよ?


 ほんとに魔法……こっちで言えば魔導って便利。

 敬愛する猫型ロボットの道具に、一方からもう一方の紙にシミや汚れを掴んで移すなんて便利なものがあったけど、あのイメージで、服やら髪やらについた水(氷あり)を横にずらして消す感じ?


 そんな風にやれば、このお馬鹿さんが着るにはもったいないくらいに、繊細な刺繍の入った服に皺が寄ることもなく、速攻で元通りです。


 だがしかし。乾かす工程もまた、お仕置きの一環にするのが異世界の魔導士(笑)クオリティ。


 ぎゅいっと雑巾絞りで脱水して。あ、髪が引っ張られて痛かったのか、ウィスキー色の瞳が涙でにじんでる。

 あ、安心して? 君の着ているマスターピースなジャケットとパンツにその下の服たちは、例の方法で乾かしたから、皺ひとつ入ってない。

 もちろん、その胸元に光ってるでっかいエメラルド色の宝石にも、傷一つつけてない。万一傷つけちゃっても直せるだろうけど、やらないに越したことないから。


 お次に乾燥~。正面から熱風吹き付けて……あらあら。三重城壁の上で風に乱されて逆巻いてたキャラメル色の巻き毛が、今度はオールバックになって中々素敵ですよ?

 熱風のおかげか、呆然としていた顔にも色もどって、丸みの残る頬もピンク色に。良かったですね~。




「はい、完了」


 気分はクリーニング屋さん。ビニールかけはしていないけれど、ふんわり仕上げを施した品物ぼうやをカーメン君に差し出す。


 大丈夫! 君が黙ってれば何があったかなんて誰にも分からないよ!

 そんな思いを込めて、サムズアップを不憫な従者くんに捧げれば。



「え……、と。お手数を、おかけしまして……」



 やや顔を青ざめさせながら、お坊っちゃまを引き取ってくれた。

 うんうん苦しゅうない。これで少しは矯正されているといいね。


 さて、お子ちゃまへの一方的な教育的指導をしてお腹もすいたし、アロイスさんをあんまりお待たせしても失礼だしね。



ゆたか様、始めさせて頂いても?」


 流石愛しの素敵執事様。セバスチャンが絶妙なタイミングで声をかけてくれ、頷きで答えて、お食事開始~!


 と、思っていたのに。





「…お前……ユタカ、と言ったか」


 せっかく、給仕の人が入ってきやすいように、セバスチャンが戸口を開けてくれた瞬間漂ってきた香りに、ご飯! ご飯っ! と上がっていたテンションが、だだ下がりした。


 なんだよまだ居たのかよ。喋れないように、やっぱり袋がけでもしときゃよかった。


 そんな心の内を隠しもせずに横目で見てやれば、分かりやすく一歩下がった。



「まだ、何か?」



 まぁ貴様と言わなくなっただけ、進歩したと言えるかも。

 後ろで涙目のまま、お坊っちゃまの袖をひいている従者カーメン君が可哀そうだし、反応してあげよう。



「お前は…何者だ。風の魔術だけでなく、水や火まで、魔法陣も魔導具も使わず、無詠唱で……」



 せっかく椅子ごと彼の方に向いてあげたと言うのに、そうやってぶつぶつ呟いたかと思えば、突然ハッと息をのんだ。



「皇国には、神話級の魔導師がいると聞いたことがある。まさかお前が……」




 不信と、恐れ。ウィスキー色の瞳いっぱいにそんな色を浮かべて、こちらを見るボクちゃん。

 その半歩後ろに立つカーメン君も、あるじほど分かりやすくはないものの、ハッとしたように顔を上げてこちらに向けている。


 顔から下を見れば、黒っぽいキュロットにつつまれたカーメン君の脚は震えてるし、坊やの陽にやけていない小さな手は、上着をギュッと握っている。



「…その魔導師は、無尽蔵の魔力を有し、この世のすべての魔導を会得し、我が国の騎士団と魔導師が束になってかかっても敵わない魔獣を、たった一人で、魔法陣も使わず瞬きする間に殲滅するという…。

 いつも目深にフードをかぶり、その真実の姿をみたものはいないと言うが、まさか、お前が……」



 さらには。よせばいいのに、勝手に自分の恐怖ゲージをぐりぐりあげている。

 似たもの同士なのか、カーメン君もそれを聞いて顔色を青から白に変え、なんだか今にも倒れそうです。


 で。そんな愉快な主従ふたりに、化け物でも見るような顔で見つめられているわたしはというと。



「…っ、『神話級』、の、魔導師……?」



 笑いをこらえるのに苦労してました。


 え~っと。ど~こから突っ込もうかな。いやまず笑っていいかな。

 いいよね、だってテーブルの向こう側で優雅に食前酒飲んでるふりしてるけど、アロイスさんのあれ絶対笑い顔隠すためだし。


 っていうか失笑? 失笑ですよねその顔。


 は~ホントにこの子が後継ぎで、アナトーリ家は大丈夫なんだろうか。

 辺境伯って、国境防衛を任されているほど王家の信任が厚いか、実力がありすぎるのでその名目で遠ざけられているにしても、実力主義の武門のお家のはずでしょうが。


 まだ変声期前の、12、3歳くらいのお子ちゃまといえど、そんな分かりやすく表情さらして、得体の知れない魔導師(あ、自分で言っててちょっと笑えた)に、ま~ぺらぺらと喋っちゃって……。

「沈黙は金」って格言は、この国にはないのかな。



 それにしても、その「神話級の魔導師」って、もしかしなくてもルーカスさんだよね。


 魔導団の他の魔導師とはまだ会ったことがないけれど、いつも素敵さセバスチャン検索と妹であるエドさん周辺から集めた情報によれば、魔力魔導適正ともに、ルーカスさんが一番というし。何よりいつもあの暑っ苦しそうなフードを目深にかぶってる人は、他にいなさそうだし。


 でも、「神話級」……。


 あ~いまのお坊っちゃまの震え声、録音しときゃよかった。そしたらルーカスさんにお土産として「神話級だそうですよ。すごいですね❤」ってお土産にできたのに。

 あぁ、このボクちゃんもっとなんか言ってくれないかな。愉快な従僕カーメン君でもいんだけど。


 噂とか伝聞ってのは、震源から遠くなればなるほど大げさになるものだけど、これは……すごい。

 ルーカスさんの魔力量が破格なのも、そこらの魔獣を瞬殺できるのも本当だけど、「この世のすべての魔導を会得し」はないでしょう。しかもそれをまるっと信じてこの恐怖の表情って―――。


 え、大丈夫? ホントにそんな馬鹿ボンで、辺境伯継げんの?廃嫡されちゃうよ?

 王都ここに来てるのは、「世間知ってすこしは賢くなれ」っていう有り難~い親心かもしれないけど、お目付け役がこのカーメン君だけじゃ逆効果じゃね?


 あれ。それとも、これが普通? この反応が一般的? サカスタン皇国ではこんな反応―――あ、砂髪馬鹿皇子にお仕置きした時に、八百屋のナウマスさんに、こんな顔されたような……あれ、じゃぁわたしもルーカスさんと同じく、「神話級」?


 うそん。




「ローウェル様…。貴方も貴族の生まれならば、口にだしてはならない事くらい、お分かりのはずでしょうに」



 自分で思いついたくせに、その中二病的ネーミングに地味にダメージを喰らっていたら、ため息とともにそう言って、アロイスさんが立ちあがり。

 愉快な主従ふたりを戸口へ誘導して、さらっと追いだし…お帰り頂いていた。



「さて。大分遅くなってしまったが、食事にしよう」



 そして何事もなかったかのように、席につき、優雅にナプキンを広げるアロイスさん。


 うん、さすがヴェニスの商人。場を仕切るのがうまいですね!

 出て行く直前、カーメン君になんかぼそぼそ囁いて、その言葉にまた顔を白くした彼に振り返って凝視された気がするけど、気にしない方向でいいですよね!


 うん。だってわたしはただの旅行者ですから。

 皇帝カエサルのものはカエサルに。あのお坊っちゃまのことは、この国の人々が解決すればいいでしょう。



「はい。いただきましょう」


 わたしは心から同意して、セバスチャンが給仕してくれる料理に専念することにしました。まる。

うん。無駄に長くなった気がします。

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