第4話:泥臭き勝ち星――試験官ボルドとの惨めな勝負
「試験官のボルドだ。そこにある木剣を持て」
地下訓練場で待っていたのは、身の丈2メートルを超える凄まじい巨漢ボルドだった。
丸太のように太い腕と、無数の傷跡が刻まれた分厚い胸板。
イノリはゴクリと生唾を飲み込み、震える手で渡された重い木剣を構えた。
「始め!」
ボルドが踏み込んでくる。
速い。
まるで重戦車が目の前に迫ってくるかのような、圧倒的な圧迫感。
「ぐはっ!?」
初手で頭部に重い木剣を叩き込まれ、視界が真っ赤に染まって訓練場の土の上に転がった。
激しい脳揺れを起こし、激しい眩暈と吐き気が襲いかかる。
(スキル発動……! 『ワン・ミニッツ・リワインド』!)
世界の色彩が反転し、1分前に戻る。
ボルドが上段から木剣を振り下ろしてくる角度とタイミングは知っている。
だが、イノリの素早さでは横に跳んで避けたところで、ボルドの木剣の風圧に巻き込まれて体勢を崩し、追撃をもらうのが関の山だ。
(ただ避けるだけじゃダメだ……俺の身体能力じゃ絶対に追いつかない!)
ボルドが木剣を振り下ろすコンマ数秒前。
イノリは避ける動作を捨て、あらかじめ足元の泥を手で掴み——
ボルドの目元へ向けて全力で投げつけた!
「なっ……目潰し……!?」
視界を奪われたボルドの一撃が空を切り、訓練場の土を派手に抉り飛ばす。
その隙を逃さず、イノリは泥に文字通り滑り込みながらボルドの足元へ這いつくばった。
そして、右膝の裏へ自分の全体重ごと木剣を叩きつける!
ガツンッ!
「ぬぐっ!?」
巨躯の膝を折られたボルドが、派手に土の上へと倒れ込む。
イノリは自身も土まみれになりながら、倒れたボルドの首元へ必死で木剣を押し付けた。
息は途切れ途切れで、肋骨が悲鳴を上げている。
「ハぁ……ハぁ……俺の……勝ちだ……!」
格好いい見切りや、鮮やかな剣技などではない。
泥を投げ、地に這い、泥臭く掴み取った勝利。
訓練場全体が、しんと静まり返った。
見学していた周囲の冒険者たちが絶句している。
「……汚い手使いやがって。だが……勝ちは勝ちだ。実戦の泥仕合じゃ何でもありだからな。合格だ、ガキ」
ボルドが苦笑いを浮かべながら立ち上がる。
こうしてイノリは、全身ボロボロになりながらFランク冒険者の木札を手に入れたのだった。




